昔、雑誌の古本特集だかで、A・デュマ作「モンテ・クリスト伯」を学級文庫の高垣眸「岩窟王」で読み慣わしているという文章を読んで、思わず深く頷いたことがある。もともとは大変謙遜した「モンテ・クリスト伯」賛の文章だったと思うが、確かに原作は長大な物語であり、潮文庫版全四巻を読みかけてみたものの、あっさり一巻目で座礁してしまった。しかし、面白さにかけては世上に評判の高い読み物のはずであり、一方、少年物でも面白さは十分堪能できるようだという便法に乗って、その筋の簡約版をと物色してみたら、何種類でも容易に手に入ることが分った。
とりあえず、古本屋にいつも転がっている野村愛正「岩窟王」を選んで読んでみると、確かに読み易く、分り易く、しかも評判に違わぬ面白さで一気に読み通してしまった(当然だが)。娯楽小説の醍醐味と言うと大袈裟だが、吉川英治の「三国志」や江戸川乱歩の「孤島の鬼」、山田風太郎の「魔界転生」を読んだときに実感した、巻を措く能わずという小説の尊敬すべき親玉に出会ったような気がした。早く先が読みたいのと、読み終わってしまうのが惜しいのとの心をふたつながら抱えて小説を読み進む時間は、実に至福のものであり有難いものである。更なる満足のために、あらためて原作を読もうとは思うのだが、つい本棚にある「新講談岩窟王」という文庫本が目に付いてしまったので、まずはそれも読んでからにしよう。
にしても、エドモン・ダンテスの言葉「待て、そして希望せよ」とは、またなんと勇気を与えてくれる言葉だろうか。
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