訪ねる先の家は、小高い丘の上に広がる住宅群の一角にあり、私鉄駅前のこじんまりとした商店街を抜けたあと、更に長い坂を上らなければ行き着くことができなかった。右に緩やかに大きくうねった登り坂は、平坦になりそうな兆しをなかなか見せなかったが、それでも、前のめりになった胸と大きく開いた口で窮屈な息の出し入れを続けているうちに、やがて、段丘の表層に到着した。
平場となって前方へ広々と延びて行く幹線道路は、横から延びて来るいくつもの枝道と交差を繰り返して数多くの区画を形成し、それら区画の中に色、形、大きさの異なる様々な住戸が相応な広さの庭を備えて、風景のなかに上手におさまっている。
目指す家は、幹線道路を進んで、七つ目の四つ角を右に折れ、左側3番目の区画に鎮座していた。表札を確認すると、見晴が丘第8街区2-3 水鶏荘八郎とあった。今日訪ねるべき相手はこの家の主人である。鋳鉄製の門扉と胸の高さの生け垣に周囲を囲まれ、道路側からは陰になってよく見えないが、庭を抱え込むように二階造りの建家がL字形に造作されているようだ。
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