美濃屋商店〈瓶詰の古本日誌〉

呑んだくれの下郎ながら本を読めるというだけでも、古本に感謝せざるを得ない。

人は見たいものだけを見るという原理に乗じた誠実中正めかしい宣伝手法によって、情報の真偽を見極めているつもりで好ましからざる真実を好ましい幻影へ知らず識らず置き換えて行く(ウェルネル・ピヒト)

2022年03月06日 | 瓶詰の古本

 各種の言論や論証に接する機会を有する人は、悉くその真実なりや否やを検討する義務がある。
 この真偽の調べ方は双方のニュースをそのまゝで、一切の傍註を抜きにして、互に並列に置いてみると云ふ遣方より良い方法はない。これらニュースの報ずる事件の実際の経過は、さうかうしてゐる内に、その根本的な点で一般に知れ亘つてしまふからして、事実とニュースとの間の比較によつて真実味をどれ位持つてゐるかを確実に判断出来るのである。これより客観的な方法は断じてない。本書はこの方法をとつて編纂されたものである。また各種論調の蒐集をなしてあるので、探究家方には調査検討を容易ならしめ、各種資料蒐集の労を省くのである。こゝに於ては、世界聯合国の試みの失敗に就て印象深い光景が描き出されてゐるのみならず、敗者が自国の力と相手国の力に就て陥つた自己瞞着をも見せてくれるのである。聯合国は虚偽を余り強調し、力を入れて主張したので、自らも或る場合には、それを信じた程であつた。彼等自らの自己瞞着に陥つた結果、彼等は鉄石の如き正義の戦慄すべき巨力によつて粉碎されてしまつたのであつて、これはまた敗北の原因の一つに数へらるべきである。
 波蘭及びノールウエー作戦に関しては、既に著者によつて同種の著書が発表された。以上の著書は、本書と軌を一つにしたものである。かうして今次の戦争の來るべき数次の作戦に当つても、ニュースや意見の判断上、確乎たる基準が与へられてゐるのである。
 事実の言葉は真理である。之を語る者は誰か、独逸の国防軍か若くは相手方の宣伝か、之に答へるものが次の本文だ!

(「幻影の終り」 ウェルネル・ピヒト著 木暮浪夫譯)

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