遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『福島第一原発収束作業日記』 ハッピー  河出書房新社

2016-02-22 23:29:26 | レビュー
 著者「ハッピー」さんは現時点で20年余原発の建設や保守点検作業に従事してきた現役原発作業者である。本書は2013年10月30日に初版発行され、最近文庫本にもなっている。私は今年になって遅まきながらこの本の存在を知った。
 福島第一原発事故が発生した後、その真の原因と事実・実態を知りたいため、またその影響を知りたいために、様々な出版物を読み継ぎ、報道や動画なども見聞してきた。その過程でこのハッピーさんの発信を知らなかった。それはTwitterを介しての情報入手という「つぶやき」と縁がなかったことが多分大きな原因だったかもしれない。インターネットはPCを介しての接続しかしていないことと、Twitterにアクセスする習慣がないためだと思う。
 著者は「はじめに」でこう記す。「2011年3月11日の大地震の瞬間も1F(イチエフ)で作業していました。オイラは、その後も現場に残り、収束作業に従事しながらTwitterで日々色んな想いをつぶやき続けたんです」と。当初は100人くらいのフォロワーだったのが7万人を超えるまでになったという。
 この本を読んだ後、PCからTwitterでのハッピーさん、つまり「Happy11311」にアクセスしてみた。現時点も著者は現役原発作業者として、つぶやきつづけている。この本を読んでから、私もPCを介してだが、そのつぶやきの内容をフォローしていこうと思っている。そのつぶやきは情報判断のための重要なバランス確保要素になると思うからだ。ハッピーさんのつぶやきを情報源として聴き続け、考える材料にしたいと思う。東電、政府さらにはマスコミ報道が語らない、触れない局面について、生の声や現場視点の情報が聞こえるからであある。現場生中継的でリアルな部分が、それもその現場作業者側の目線で生のリアルな経験からのメセージが貴重なのだと思う。それも生中継する報道側の第三者的な報道メッセージではないところが重要なのだ。

 たとえば、著者は2016年1月21日に「昨年の末から、あちこちの原発現場のSA対策工事や耐震工事の状況を見てきてるんだけど、とにかくこれでもかって言うほどの普通じゃ考えられないくらいの対策をやってるんだよね。再稼働の条件に適合するようにやってるのは分かるけど、メンテナンスの事を考えた設計じゃない事だけは断言出来るよ。」とつぶやいている。
 ここにはきっちりと2つの側面がつぶやかれている。原発現場のSA対策工事や耐震工事が再稼働条件に適合するためにさまざまな対策で遂行されているという事実。一方で現場の作業従事者目線では、その工事がメンテナンスを考慮した設計でないと断言できる工事だという重要な指摘である。現場実務知識と経験の豊かな現場作業者の発言なのだ。勿論諸事情により判断根拠の提示抜きという点は留意すべき部分があるとしても、非常に重要な問題点が指摘されている。 多分、この工事結果について東電側は工事の進捗結果と工事基準条件に合致しているという側面しか報道しないはずだ。マスコミも工事結果の提供資料でその範囲の結果報道をするだけだろう。あるいは、全体工程からみて一部工事で結果OKなら、報道もしないだろう。一般の我々には、何も見えないことになる。後者の側面「メンテナンスの考慮なき設計工事」なら、それはその場しのぎではないのか。メンテナンスに迫られる時期が来たときはどうするのか? 危険な状況が再発するだけではないのか? 付け焼き刃の繰り返しは、後で問題をぶり返す。

 なぜ、直近のこの一事例をとりあげたのか? この本の副題が「3・11からの700日間」であり、まさに危機的状況の発生する瞬間からの現場状況が現場目線でつぶやかれた集約だからである。同様の工事実態が繰り返されてきた局面に関連してつぶやかれている部分も数多い。上記のような2つの則面の後者に相当するような内容が公式報道では語られることがほとんどなかった。裏の部分が表の部分と併せて、現場目線での問題意識からつぶやかれ続けてきたのだ。東電、政府、マスコミニュース報道は、表の事実しか語っていない。時として、重要な事実をタイムリーに流さずに、隠蔽し時間をずらせて形式的な事実情報として報じるようなことすらしている。それも建前的な理由、たとえばパニックが生じないために・・・などと付言して。
 この書はリアルタイムに現場作業者目線で現場からつぶやかれた事実内容の記録として貴重である。原発事故後、現在まで未だ真の原因すら曖昧なまま、メルトダウンした原子炉に近づけないままで、収束作業が継続されていることにあらためて気づかせてくれる。マスコミ報道が少なくなり、現地の真の復興がないままに、福島第一原発事故のその後についての意識が風化の傾向にある。その事実への警鐘となる書と言える。
 今こそ、改めてこの本に記された700日間の経緯及びその後の状況を考え直す情報源として、ハッピーさんのつぶやきを読んでみてほしい。そして現時点のつぶやきにも耳を傾けてみてはいかがだろうか。
 やはり、何も真底からは解決していない! という事実に目をむけられるつぶやきである。東電・政府・マスコミ報道に踊らされないための、それらの報道で語られざる側面がないかを考えるためにも、考え直す材料に満ちている本である。
 トライアルはしていないが、各種の公式調査報告書の事実として記されていることと、その時点での著者のつぶやき内容を時系列対比すると、よりリアルな局面が見えて来るかもしれない。直感的にはそこに大きなギャップが潜む側面を感じるのだ。
 当時の原発事故現場、収束作業状況を感じるために、ぜひ一読していただきたいと思う。これと同じ状況が他の原発でも再発しないとだれが言えるのか。

 著者のつぶやきの事例をいくつかその発信日付とともに部分紹介してみよう。正確にはその全体のつぶやき文脈で再確認していただきたい。
2011.4.18: 9ヶ月の工程は、あくまで国民に対し安心感を持たせるための政府のコントロールで東電も納得していないはず。確実に見通しがあるならば、政府が記者会見に出るはず。工程が遅延すれば国民に叩かれる、その時は東電のみ叩かれ、政府は工程には関与していないと逃げるためのシナリオ。 p35
2011.5.9: 工程が成立しない理由は、高線量下での作業とそれに必要なマンパワー不足が一番だと思う。 p37-38
2011.5.28: 第二期工事も6月中旬から始まるけど、各めーかーの摺り合わせも決まっていない事ばかりだし、まして今度はアレバが絡んでくる。アレバは新品のユニットをフランスから持ってくると思ったら、日本国内にあるユニットを解体して、ある空調メーカーが組み立てるらしい。大丈夫なのかなぁ?  p43
2011.5.28: 4号機の耐震性は安全です問題ありませんって発表したけど、ふざけてる。評価した奴は、今にも落ちそうな壁の真下で作業してみろって思う。俺たちは4号機のまわりで作業する時は、常に上を気にしながら緊張しながらやってるのに。壁が落ちた時はどんな言い訳が出るのやら。また想定外か。
2011.5.31: 東電は各メーカーに計画を丸投げしてるからこんなのばっかだよ。 p44
2011.6.4: やっぱり前にもつぶやいたけど、各号機の状況もわからないのに工程だけ出来て、無駄仕事ばかりっておかしいよ。まずは、原子炉の状況を憶測ではなくしっかり確かめて対策打たないと、いつまでたっても同じかも・・・。
2011.6.4: 東電や政府は、楽観的な態度や推測を国民に伝えるのではなく、事実をありのままに、苦慮してる所は理由をしっかり説明するべきだと思う。国民の判断は人それぞれであり、国民の顔色を窺いながら慶贊しながらの発表はしてはならない。現在進行形の大事故なのだから。  p45
2011.12.12: オイラは、邸放射性物質濃度に処理された汚染水が海洋投棄されるのは間違いなく実施されると思うよ。それは、現在稼働中の原発でも行われてるんだ。 p114
2011.12.17: 少なくとも「収束」という言葉を使ってはいけなかったと思う。今回の政府や東電は、「冷温停止状態」とか「収束」とか使ってはいけない言葉や表現をしていると思うよ。・・・勘違いされたり、誤解されるような言葉は、初めから使ってはダメなんだ。政府や東電は、第2ステップ完了やオンサイトの収束宣言して避難区域を縮小し、早く住民を帰宅させ、賠償金も減らしオフサイトの収束をさせたい思惑なんだろうね。p116
2012.1.20: 2号機は他の号機より謎が多く感じる。オイラは2号機の配管爆発も謎なんだよなぁ・・・・。(このあとに、著者なりの推測がつぶやかれている) p125
2012.4.15: 1Fは一年経って色々な仮設機器にトラブルが増えてきたね。・・・そういえば、先週はある場所で汚染水が漏れたんだけど、どこを探しても発表してないんだよね・・・・。汚染水は海には流れていないんだけど、発表の基準てあるのかなぁ。 p147
2012.6.1: 今日のニュースを見てて、また情けない気持ちになってしまったでし。事故当時の勝俣会長、清水社長はじめ退任した取締役の人たちが続々と天下り再就職してる。原発事故の影響で働きたくても働けず、天下りどころか再就職も出来ずに苦しんでいる人がまだまだたくさんいるのに・・・・・。  p157
2012.6.18: WBCの数値は事故前より上がってるのが現実なんだよ。WBCの数値は、多くの作業員が事故前より上がってるけど問題ないって東電は言うんだ。だけどWBCの基準値を上げてるだけで、事故前の基準値ならほとんどの作業員がスクリーンレベルを超えてる。じゃあ今までの基準値はなんなの?って思うよね。それに基準値が上がっているのは福島だけだよ。   p163
2012.7.23: 被曝の管理責任は、本来下請け業者の事業者が当然やらなきゃいけないんだけど、原発の場合はほとんどが元請けが管理責任者となってるでし。それは原発業界の下請けは、少人数の小規模な会社がとても多く、小さな会社ではとても放射線管理業務まで出来ないからでし。国家試験資格者も必要で、放射線管理計画書作成したり、労基にも報告したり経費がかかるでし。だからほとんどの下請けは、契約時に元請けと放射線管理の委託契約を結ぶでし。  p179
 今回の事で、被曝隠しでも悪質なのが会社側が強要してる事でし。・・・・元請けや一次下請けまでは会社も大きく、社内で配置転換出来て、収入ゼロになり生活に困るって事はほとんど聞かないでし。1年50mSv,5年100mSvをリセットされたら戻れるでし。ただそれ以下の下請けは、原発作業のみの会社や作業員が多いから、線量パンクしたら次の月から収入ゼロなんでし。今は、被曝限度は5年100mSvがあるから、平均20mSvで管理してる下請けがほとんどでし。東電や元請けは配置転換出来るから1年50mSvで管理しているでし。だから被曝管理値もそれぞれ違うんでし。  p171
2012.12.11: 現場は、東電社員も協力企業の作業員もみんな一生懸命頑張ってるよ。収束して落ち着いたって思い込んでるのは、東電本店と政府筆頭の各省庁だよ。現場は、今も一歩間違えたら大変な状況になる可能性があるって状況は、1年9ヵ月経った今も変わりないんだから。東電も困ってるんじゃないのかなぁ。・・・・。規制疔が相手じゃ正面から文句言えないし・・・・。  p200
 いま1Fの原子炉建屋の調査は、線量高くてロボットじゃなきゃ出来ない場所だらけなんだ。調査だけのロボット開発でさえ大変なのに今後、作業が出来るロボット開発は完成するまでいったい何年かかるのだろ。  p201
2013.3.9: 富岡町なんかは、まだまだ線量の高い場所やホットスポットが多数存在している。オイラが一時帰宅した時に計ると平均で0.02mSv/hくらいでホットスポットはその10倍の0.2mSv/hくらいある場所も存在する。これって1Fの構内のヤードとたいして変わらない数値だし、むしろ新しい砂利や整地した1F構内の方が低いよ。0.2mSv/hって4号機下の作業場所とあまり変わらない線量だし。そんな除染もしてない3・11から時間の止まった手付かずの場所に、今月3月25日からいきなり「自由に入っていいですよ」なんてあり得ない。国や自治体やゼネコン元請けは、人の命なんてこれっぽちも考えてないよね。 p225
2012.3.20: この2年は事前計画も出来ないまま、慌ただしく突貫工事で作った応急措置の設備が様々なトラブルを起こし、そのトラブル対策に明け暮れた2年。特に電源システム、冷却システムは特急突貫工事だったからね。いまだにトラブル対策に時間と作業員被曝を費やしていて、恒久対策には程遠いんだ。  p227-228

 ほんの一部の引用だが、公式の報道では見えない部分に満ちている。福島第一原発事故の事実について、公式報道で知らされているのは氷山の一角にしかすぎないということなのだろう。知らされないままに、この深刻な実態への目くらましや表層的報道により、原発事故についての事実認識が風化してはならないと思う。
 現場目線のこのつぶやきの集積本、多くの人に読んでいただきたい本だ。
 そしてハッピーさんのつぶやきをフォローし、さらに考える情報源にしてほしい。己の内に起こる事実認識への風化を阻止するためにも・・・・・。 

 ご一読ありがとうございます。

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関心事項をネット検索してみた。一覧にしておきたい。
SA対策 ⇒ シビアアクシデント対策
 シビアアクシデントとは  :「日本原子力文化財団」
 シビアアクシデント  :ウィキペディア
 シビアアクシデント対策について  :「中部電力」
 島根原子力発電所の安全対策    :「中国電力」
 関西電力におけるリスク活用の取り組みについて  浦田茂氏
東京電力(株)・福島第一原子力発電所事故 :「日本原子力文化財団」
福島第一原子力発電所事故  :ウィキペディア
福島原発事故の原因と対策 (2013.2.8)  木村逸郎氏
福島第一原子力発電所事故の概要 (02-07-03-01)  :「ATOMICA」
東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会 最終報告
  報告書ダウンロード
福島第一原発事故から3年 始まりに過ぎない発電所の現状は? 
   2014.3.10   :「THE PAGE」
福島第一の事故原因は、もうハッキリしたのですか? :「中部電力」
独自調査分析!福島第一原発事故の本当の原因
  大前研一の日本のカラクリ   :「PRESIDENT Online」
メルトダウンを防げなかった本当の理由 ──福島第一原子力発電所事故の核心
 山口栄一=同志社大学 教授,ケンブリッジ大学クレアホール・客員フェロー
 2011/12/15 :「日経テクノロジー」
福島第一原発事故の原因は何だったか131005 :「安岡明夫HP」
福島原発事故の原因はまだ判明していない 2015.4.25 :「VIDEO NEWS」
福島の避難区域、外国人カメラマンが捉えた原発事故から4年半の姿【画像】
   :「HUFF POST SOCIETY -社会-」
外国人カメラマンが撮った福島警戒区域内の今の姿40枚
  :「世界よ、これが日本だ! 日本よ、これが海外の反応だ!」
避難区域の変遷について -解説 :「ふくしま復興ステーション」
福島第一原子力発電所事故の影響  :ウィキペディア
原発事故で放棄された「浪江町」のゴーストタウン化した悲惨な現状(写真)
  :「NAVERまとめ」
被曝量  :「朝日新聞DIGITAL」
放射線被曝の早見図  放射線医学総合研究所
シーベルト  :「とはサーチ」
日本政府が決めた危険ライン年間被曝量1ミリシーベルト以上の地域
  2013.10.25  :「逝きし世の面影」
ホールボディカウンター  :ウィキペディア
ホールボディカウンターは内部被曝の危険を隠すためのインチキ測定
  :「泣いて生まれてきたけれど」
ホールボディーカウンター(WBC)検査の精度と信頼性  :「カレイドスコープ」
ホールボディーカウンター ―― 調べてわかった被ばくの現状 :「SYNODOS」

  インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。

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その点、ご寛恕ください。)


今までに以下の原発事故関連書籍の読後印象を掲載しています。
読んでいただけると、うれしいです。
『原発と戦争を推し進める愚かな国、日本』 小出裕章 毎日新聞社
『原子力安全問題ゼミ 小出裕章最後の講演』 川野眞治・小出裕章・今中哲二 岩波書店
=原発事故及び被曝に関連した著作の読書印象記掲載一覧 (更新4版 : 51冊)=


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