遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『原発ゼロ社会へ! 新エネルギー論』 広瀬 隆  集英社新書

2012-12-25 12:33:48 | レビュー
 冒頭で著者は、本書の目的が「『原発がなければ電力不足が起こる』は大嘘だという事実を知らせるための書である」とストレートに述べている。そして、序章で2012年夏前の「関電の電力不足騒動」の欺瞞性を暴いている。電力不足について発表・報道された統計数値が如何に都合よく操作されたものであるかを分析している。つまり、関西電力は大飯原発なしで電力が24%余っていたという事実を著者は公開されているデータから論証する。「1ワットの節電さえ必要ないほど、工業立国の日本の町々には、発電機が充満していたのだ」(p32)と力説する。そして、それは電力会社の言い分をそのまま報道し続けた報道界の無知さへの批判でもある。

 著者は、日本の現有総発電能力の量と電力消費量という次元と電力不足の次元を峻別する。「電力不足とは、多くの人がいっせいに電気を大量消費するごく短い時間帯の問題なのである」(p29)。だが、そのあたりが曖昧な状態で「節電」論議・報道がなされている点を鋭くついている。そして、原発ゼロで十分にやっていけるという現実的なエネルギー論を著者は本書で展開していく。地に足がついた形でエネルギー源を捉え直すことができる。原発ゼロ推進の確たる裏付けとなる書であると思う。

 本書は序章に続き、次の5章で構成されている。
 第1章 発電の方法はいくらでもある(民間の発電能力)
 第2章 熱エネルギーの有効利用が日本の活路を拓く(コジェネ)
 第3章 化石燃料の枯渇説は崩壊した(ガスの未来)
 第4章 自然ネネルギーを普及する真の目的
 第5章 地球の気温と電力コストの予測

 第1章で著者は、実用されている発電装置の種類を、電気を生み出す原理によって分類する。そして、その原理の観点と科学技術の発展の現状・近未来の状況の視点を併せて、原発廃絶の手段が既に存在することを説く。実務的な技術論として、ガス・コンバインドサイクルによるコジェネを推進する方向性を主張する。 
 また、自家発電による分散型電源が民間企業の普及している実態を明らかにし、その発電能力が政策的に活かされていない点を指摘している。つまり、原発推進を前提とした「総括原価方式」の電力会社の地域別運営を優先させてきた政治及び行政のあり方を批判する。このあたりのからくりを私たちは充分に理解すべきだろう。

 第2章で、コージェネレーション(コジェネ)によるエネルギー供給の方法は、既にエネルギー業界では常識となっているし、熱エネルギーの有効利用という視点に立つことによって、エネルギー問題に活路を拓くことができると論じる。
 家庭で使うエネルギーの大部分はよく眺めると、電気そのものではなく「熱」の形態が大部分なのだ。だから、熱電併給にしていけばよいという論法である。また、コジェネの普及実績を示し、原発ゼロ化の社会像を示唆する。

 第3章では、ガスが未来を拓く点について、その裏付けを語る。ガス・コンバインドサイクル、ガスヒートポンプエアコン、エコウィル、エネファームなど、希望あるエネルギー生産革命の基盤になるのはガスである。これからのエネルギーが「ガスの時代」ならば、その資源の埋蔵量、ガスの未来はどうかをこの章で論じている。埋蔵量という数字のマジックについて分析している。そして、従来の化石燃料枯渇説が部分局面しか論じていなかった点を解説している。シェールオイル革命、シェールガス、メタンハイドレートの未来に目をむけている。

 第4章では、自然エネルギーの持つ欠点・限界を踏まえたうえで、自然エネルギーの発電能力と普及について論じている。著者は明確に、自然エネルギーだけで原発を廃絶出来ないという。あくまで現状では補助電源的な位置づけにあるとする。自然エネルギーは長い目で見て技術開発し、普及しなければならないシステムなのだ。
 ここで、著者は自然エネルギー利用に熱心な人たちに理解してほしい要点を4項目挙げている。p182から引用する。ここに著者の主張・論点が集約されていると思うからだ。
1)現在のエネルギー問題を起こしているのは、日中の一時的な大量のピーク電力需要で、これはほとんどが企業や自治体、学校などの組織的な活動によるものであり、家庭の問題ではない。
2)もともと電気の使用量の少ない人(地方・地域)が自分一人でエネルギーの節約をしても、問題は解決しない。われわれ貧乏人が節約しても、たかが知れている。
3)都会や産業に向けて、普及度の可能性が高い方法を求めてゆかねばならない。
4)自然界に大型機械を持ち込む行為は、絶対に慎まなければならない。
 つまり、この論点を踏まえたうえで、コジェネの促進により原発ゼロ社会が即刻可能なのだと主張している。
 著者はこうも言う。「必要な電力と、不必要な電力を峻別して考え、電力消費を削減する最新技術を知って、頭を使うだけで、『節電ナシ』に従来通りの企業活動、家庭生活ができるのである。そもそも節電という言葉は、誰が言い出したかといえば、原発ゼロ時代を迎えて追い詰められた電力会社と腐敗した日本政府から意図的に投げかけられたのである」と。従来からの「省エネ」という言葉を適切に使えば十分なのだと。
 この章で、中央リニア新幹線の愚行とその背景を暴露している。現在のマスコミでは報道されない背景部分だ。原発稼働に繋がる実態が見えてくる。マスコミに踊らされない目が必要である。

 第5章では、真夏のピーク電力問題を分析するために、地球の気温という観点を取りあげている。そして、地球温暖化の一般的な論議に対して疑義を呈する。長期的には地球の寒冷化こそ危惧すべきだと論じる。熱の確保が重要となる時代に対しコジェネの推進が役立つ側面を示唆している。一方で、真夏の気温上昇において、日本人の体感温度に最大の影響を直接与える元凶はヒートアイランド現象にこそあると論じている。このあたりについて、頭を整理するのに役立つ章である。
 最後に、電力コストの真相に言及する。原発必要論者の見解を論破している。一読いただきたいまとめでもある。「これでも、原子力コストは安い、などという人間が、この世にいるのか! おい、経団連は、答えろ!」という本章末尾の文は、著者の怒りの爆発である。それは一般庶民の心情の代弁でもあるだろう。

 「あとがき」は、毎週金曜日夕刻6時から行われた首相官邸前デモをはじめとした直接抗議行動その他、著者の賛辞と感謝でまとめられている。しかし、ここに記された内容はマスコミ報道には取りあげられなかった事実の側面が大半であると思う。事実の理解を深める上で、知っておくべき側面だ。マスコミ報道の一面性を理解するためにも。

 私自身の情報不足な部分、無知な側面を本書によりかなり補強できた。本書を多くの方が一読されることをお薦めしたい。
 この一書からさらに現実的な原発ゼロ論議が発展することを期待する。

ご一読ありがとうございます。


人気ブログランキングへ
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。

 本書に関連するデータのソースや主要関心語句を検索してみた。リストにまとめておきたい。

経済産業省生産動態統計 統計表一覧(機械統計)
 確報 (1)生産・出荷・在庫統計 Excelファイル
 ここに、主要製品統計表(時系列表)としてダウンロード一覧ページがある。
 項目選択し、画面閲覧でファイルを開き、目次で「28一般用エンジン発電機」をクリックすると、当該項目のデータ表示ページに飛び、リンクされている。

主要製品生産実績 経済産業省近畿経済産業局 
「2.一般機械 、電気機械、情報通信機械・電子部品・デバイス、輸送機械・精密機械」 という分類項目の統計データがダウンロードできるページまでアクセスできる。
 ダウンロードをクリックし、画面閲覧で見ると、電気機械のページ選択で、
 エクセルファイルの「Ⅱ.機械器具 ②電気機械 番号112 一般用エンジン発電機」という分類でデータが見られる。

平成22年(2010)機械統計年報 経済産業省経済産業政策局統計部
  28 回転電気機械  p195-204 (pdfファイルの 207/463ページ参照。)
 (注:この項目分類の中に、「一般用エンジン発電機」の項目が存在する。)


関西電力 電力需給のお知らせ
 このサイトで関電のデータ公表の内容とデータ開示方法がわかる。
 (つまり、著者広瀬氏から見れば、関電に都合の良いデータ開示にしかすぎない。
  本書でその意味合いが理解できると思う。)
 具体的な過去データはエクセルファイルの閲覧画面呼び出しが必要。

東京電力 電気予報


コジェネレーション  :ウィキペディア

コージェネの種類と特徴 :「コージェネレーション・エネルギー高度利用センター」
 コージェネの高効率化
 
コンバインドサイクル発電 :ウィキペディア

ガスコージェネレーションの種類 :「日本ガス協会」

コージェネレーションユニット :「HONDA」

「コージェネレーション」最新の質問一覧 :「質問! ITmedia」



人気ブログランキングへ
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。


今までに以下の原発事故関連書籍の読後印象を掲載しています。
読んでいただけると、うれしいです。

『「内部被ばく」こうすれば防げる!』 漢人明子 監修:菅谷昭 

『福島 原発震災のまち』 豊田直巳 

『来世は野の花に 鍬と宇宙船Ⅱ』 秋山豊寛 

『原発危機の経済学』 齊藤 誠 

『「想定外」の罠 大震災と原発』 柳田邦男

『私が愛した東京電力』 蓮池 透 

『電力危機』  山田興一・田中加奈子

『全国原発危険地帯マップ』 武田邦彦

『放射能汚染の現実を超えて』 小出裕章

『裸のフクシマ 原発30km圏内で暮らす』 たくきよしみつ
http://blog.goo.ne.jp/kachikachika/e/8dc30c4281ef3d6c75f2585154f78794
2011年8月~2012年7月 読書記録索引 -1  原発事故関連書籍


最新の画像もっと見る

コメントを投稿