ストーリーの主要舞台は日本であるが、その展開の広がりはグローバルになる。海外で関わりが最も深いのはタイトルにあるように、ユーラシア大陸である。ストーリーは3章立て、その見出しは「第1章 1997年」、「第2章 1998年」、「第3章 1999年」。この小説が単行本として出版されたのは2009年12月、文庫本化は2013年3月である。
「ホワイト」は何を意味するか? ヘロインだ。このストーリーが展開する期間は1997年から1999年。なぜ、1997年なのか。それは、香港の中国への返還が目前に来ている時期である。ヘロインビジネスはグローバルに大きな取引が行われドラッグが政治体制とは関わりなく至る所に流通している。ユーラシアには、タイ・ミャンマー・ラオスの国境地帯に「黄金の三角地帯」と呼ばれる世界最大のケシ生産地域が存在する。カシの果汁から作られた阿片を精製すると純白のヘロインができる。そのヘロインは麻薬組織により中国に搬入され、香港を経由しアメリカ本土に持ち込まれる。それが莫大な金を生み出していく。チャイナホワイトと称されるルートである。一方、アフガニスタン・パキスタンから中央アジア5国(***スタンと称される諸国)にかけてのケシ生産地は「黄金の三日月地帯」と呼ばれる。ここでの阿片やヘロインは、モスクワを経由し、バルト三国に流れ込み、西ヨーロッパ地域に密かに持ち込まれて闇市場が形成されている。ロシアホワイトである。
このストーリー、日本を舞台にしながら、その背景はアメリカのシチリア系組織、チャイナホワイト、ロシアホワイトが絡み合いながら関わってくるという壮大な構想で展開される。
最初のシーンはグアム島から始まる。グアム警察のマリオ刑事らは、台湾産のドラッグを扱うリコ兄弟が自分たちの経営する店で運び屋と取引する現場を押さえようとしていた。リコ兄弟の扱うドラッグの一部がアンダーソン基地を経由し本土に流れ込んでいるという情報を基地の犯罪捜査局から通報されたのだ。マリオが店に踏み込もうとした直前、店の内部で巨大な爆発が起こる。轟音は500m離れた地点に立っていた者の体すら持ち上げるほどの威力があった。同僚ジョージを含み5名の警察官が即死。マリオはかろうじて難を逃れた。この爆発で、台湾とグァムを結ぶドラッグの密輸ルートが失われた。
舞台はロシアに一転する。アメリカのDEA(連邦司法省麻薬取締局)に所属する取締官・ロシア系アメリカ人のベリコフは、かつてメキシコで潜入捜査官として働いた経験もある。そのベリコフは、シチリア系組織の顧問弁護士であり、パラッツォの名を継承した男をマークしていた。その弁護士は組織の幹部の娘と結婚し、婿入りしたのである。本名はユージン・キリノフでロシア系アメリカ人。パラッツォを追跡するベリコフがモスクワの組織犯罪対策班・クリチェンコ警部と、モスクワの郊外にあり、マフィアの所有する「農場」を張り込み、捜査を行うシーンである。別件捜査の形で、マフィアの一員、ヴィクトゥルを捕らえたのだ。ベリコフはヴィクトゥルから、パラッツォの接触意図を尋問して聞き出す。パラッツォはロシア・マフィアに接触し、大量のヘロインを買い付け、アメリカ国内に運び込むことを考えていた。だがこの話は不首尾となる。女と一緒だったパラッツォは別の目的地に行こうとしていたというヒントだけヴィクトルから得る結果となる。ベリコフの追跡がつづく。
香港の中国返還を目前にして、チャイナホワイトの流通がなぜか激減する異常事態が起こっていたのだ。パラッツォの行動はそれに関連していた。
ストーリーの冒頭から、話はグアム島、モスクワと海外の場面が連続する。このストーリー、ドラッグやヘロインが関係するようだがどのように展開していくのか・・・・・まず、好奇心が沸き起こる出だしである。
そして、舞台は日本に。厚生省の関東信越地区麻薬取締官事務所に属する取締官・三崎が登場する。三崎は捜査官に転向して8年の経験をしている。そのあいだに、覚せい剤とコカインにからむ、大きな4つの事件を解決した。相棒は辻村取締官。彼らの上司は1967年度採用の、叩きあげの麻薬取締官で大出と言い、50半ばに近い主任情報官である。辻村が得た、村井組が1億の現金を準備し2キロの物を取引すると言う情報により行っていた張り込みがガセであり、現場撤収するという場面から始まって行く。一方、意気消沈の折に、日本に駐在するDEA捜査官・コリンズから奇妙な情報が入ってきていたのだ。グァム島での爆発事件のことである。台湾人の運び屋アルバート・チンがその爆発で吹き飛ばされたという情報だった。ガセネタで終わった張り込み中止が、この爆発事件と関わりがあるのかどうか・・・・、状況不明な中でストーリーが複雑に絡み合っていく。
このストーリー、三崎麻薬取締官の捜査活動を主にしながら、一方でパラッツォを追跡するベリコフの捜査ストーリーが併行して進展する。
台湾の運び屋が爆死したという情報をヒントにして、三崎は台湾の組織に何かが起こっているのではと勘を働かせる。そして、新宿でその兆しが見つかるのではと推測する。新宿には、台湾の他に、上海、福建出身の連中が出身地を背景にしながら割拠している実態があるからである。大出の指示を受け、三崎と辻村は新宿に潜り捜査活動をすることになる。少しずつ情報を得る一方で、龍(ロン)という男に辻村が拳銃で撃たれ死に、三崎自身もその仲間から背中を切られる事態に立ち至る。だが、その場に懸かってきた龍の携帯電話のメッセージが三崎のピンチを救うことになる。徐という人物が三崎を救った。そこには、かつての事件で三崎が徐の息子を助けたことがあったからだ。三崎は徐の助けを得ながら、辻村を死なせることになった状況の解明を推進することになる。事態の経緯から、麻薬取締官という肩書きを伏せ、徐以外にはバックアップのない状況下での潜入行動となっていく。徐に連れられてある場所で日本最大の広域暴力団、坂本組の藤堂に会うことになった結果から、三崎の独自行動が始まって行く。
一方、パラッツォを追跡する捜査活動は、ベリコフを日本に導くことになる。ベリコフは日本で潜入捜査活動を始める。そして、かつてベリコフが潜入捜査をしていた事件で裏切られたタイニーと新宿で追跡中の事件を介して再び対立する立場で再会する事になる。ベリコフの潜入捜査行動は結果的に日本に駐在する同僚が射殺される事態を引き起こす。が一方で手掛かりを得ていくことになる。同僚が射殺された場所で、ベリコフは三崎に助けられることになる。そして、その後三崎とベリコフが連携する関係ができていく。
ベリコフと三崎には、ホワイトタイガーという名前が共通するキーワードとなる。
ホワイトタイガーの率いる麻薬密売組織が、チャイナホワイトのルートに代わるルートづくりとして、日本最大の広域暴力団に取引を持ちかけていたのだった。
ベリコフは新宿で潜入捜査をしているとき、ホワイトタイガーの情報を求めている中国人趙に後をつけられる形で出会うことになる。そして、趙の正体がわかると、三崎・ベリコフ・趙は共闘して、ホワイトタイガーの世界的な麻薬犯罪組織の中核を撲滅するために挑んでいくことになる。
このストーリーの興味深い点がいくつかある。
1. 麻薬組織をグローバルな視点でとらえ、その状況を概観している。そのスケールの中で、日本の広域暴力団の有り様を組み込んで行くというスケールの広がりである。実態とフィクションの融合の中ではあるが、世界的な麻薬密売組織の仕組みが大凡イメージできるところがまず興味深い。
2. 麻薬捜査官三崎と徐という人物との関係が息子を助けられたという恩義から始まり、二人の信頼関係がホワイトタイガーの究明を介して深まっていくプロセスが読ませどころとなっている。
3. 麻薬捜査官三崎の捜査活動の位置づけが変化していく。そのプロセスにおける三崎の意識の変化と心理が興味深く、押さえどころとなっていく。一方、日本における麻薬捜査官がどのような組織でどのような活動をしているものなのかの一端が理解できて関心が湧く。警察組織との違いがわかりおもしろい。
4. DEA捜査官ベリコフのプロ意識と、アメリカの縦割り組織の状況の一側面が描き込まれているところが別の関心事にもなる。
5. 外観上、華やかさの頂点の一つといえる新宿という区域を、裏社会という視点で捉えた実態が本当のところどうなのか。このストーリーで描かれた様な国内外勢力の鬩ぎ合いが日常の実態にあるのだろうか。外観からは見えない側面がフィクションとして描き出されるところに興味を惹かれる。実態はもっとドロドロしているのだろうか・・・・・と。
麻薬をテーマに据えたグローバルなスケールでのフィクションとしては、エンターテインメント性がふんだんに盛り込まれていて、楽しめる。著者の作品群の中では、地理的広がりという点で、異色作と言えるのではないだろうか。経済活動のグローバル化の一方で、犯罪のグローバル化の進展を視野に入れたリアルなストーリーの創作がおもしろい。麻薬の存在が撲滅できない理由も著者は視座に入れて描き込んでいるところに、必要悪化しているのではないかというリアルな怖さをも感じる。
ご一読ありがとうございます。
本書からの波紋の広がりで、ネット検索してみた事項を一覧にしておきたい。
麻薬及び向精神薬取締法 :「厚生労働省」
麻薬取締法 :「コトバンク」
麻薬取締官 :「厚生労働省 地方厚生局 麻薬取締部」
募集の概要について
不正流通する薬物
薬物に関するデータ :「警視庁」
麻薬・薬物犯罪 :「外務省」
伝説の麻薬Gメン、かく語りき :「VICE」
伝説の「麻薬Gメン」が明かす「薬物捜査」の最前線 :「デイリー新潮」
アメリカ麻薬取締局がおとり捜査で調子に乗りすぎ大ピンチ :「GIZMODO」
黄金の三角地帯 :ウィキペディア
麻薬生産地「黄金の三角地帯」写真特集 :「JIJI.COM」
黄金の三日月地帯 :ウィキペディア
あへん密輸は基幹産業並み|アフガニスタンあへん調査 :「弁護士小森榮の薬物問題ノート」
麻薬・覚せい剤乱用防止センター ホームページ
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
徒然にこの作家の作品を読み継いできました。ここで印象記を書き始めた以降の作品は次の通りです。こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『鮫言』 集英社
『爆身』 徳間書店
『極悪専用』 徳間書店
『夜明けまで眠らない』 双葉社
『十字架の王女 特殊捜査班カルテット3』 角川文庫
『ブラックチェンバー』 角川文庫
『カルテット4 解放者(リベレイター)』 角川書店
『カルテット3 指揮官』 角川書店
『生贄のマチ 特殊捜査班カルテット』 角川文庫
『撃つ薔薇 AD2023 涼子』 光文社文庫
『海と月の迷路』 毎日新聞社
『獣眼』 徳間書店
『雨の狩人』 幻冬舎
「ホワイト」は何を意味するか? ヘロインだ。このストーリーが展開する期間は1997年から1999年。なぜ、1997年なのか。それは、香港の中国への返還が目前に来ている時期である。ヘロインビジネスはグローバルに大きな取引が行われドラッグが政治体制とは関わりなく至る所に流通している。ユーラシアには、タイ・ミャンマー・ラオスの国境地帯に「黄金の三角地帯」と呼ばれる世界最大のケシ生産地域が存在する。カシの果汁から作られた阿片を精製すると純白のヘロインができる。そのヘロインは麻薬組織により中国に搬入され、香港を経由しアメリカ本土に持ち込まれる。それが莫大な金を生み出していく。チャイナホワイトと称されるルートである。一方、アフガニスタン・パキスタンから中央アジア5国(***スタンと称される諸国)にかけてのケシ生産地は「黄金の三日月地帯」と呼ばれる。ここでの阿片やヘロインは、モスクワを経由し、バルト三国に流れ込み、西ヨーロッパ地域に密かに持ち込まれて闇市場が形成されている。ロシアホワイトである。
このストーリー、日本を舞台にしながら、その背景はアメリカのシチリア系組織、チャイナホワイト、ロシアホワイトが絡み合いながら関わってくるという壮大な構想で展開される。
最初のシーンはグアム島から始まる。グアム警察のマリオ刑事らは、台湾産のドラッグを扱うリコ兄弟が自分たちの経営する店で運び屋と取引する現場を押さえようとしていた。リコ兄弟の扱うドラッグの一部がアンダーソン基地を経由し本土に流れ込んでいるという情報を基地の犯罪捜査局から通報されたのだ。マリオが店に踏み込もうとした直前、店の内部で巨大な爆発が起こる。轟音は500m離れた地点に立っていた者の体すら持ち上げるほどの威力があった。同僚ジョージを含み5名の警察官が即死。マリオはかろうじて難を逃れた。この爆発で、台湾とグァムを結ぶドラッグの密輸ルートが失われた。
舞台はロシアに一転する。アメリカのDEA(連邦司法省麻薬取締局)に所属する取締官・ロシア系アメリカ人のベリコフは、かつてメキシコで潜入捜査官として働いた経験もある。そのベリコフは、シチリア系組織の顧問弁護士であり、パラッツォの名を継承した男をマークしていた。その弁護士は組織の幹部の娘と結婚し、婿入りしたのである。本名はユージン・キリノフでロシア系アメリカ人。パラッツォを追跡するベリコフがモスクワの組織犯罪対策班・クリチェンコ警部と、モスクワの郊外にあり、マフィアの所有する「農場」を張り込み、捜査を行うシーンである。別件捜査の形で、マフィアの一員、ヴィクトゥルを捕らえたのだ。ベリコフはヴィクトゥルから、パラッツォの接触意図を尋問して聞き出す。パラッツォはロシア・マフィアに接触し、大量のヘロインを買い付け、アメリカ国内に運び込むことを考えていた。だがこの話は不首尾となる。女と一緒だったパラッツォは別の目的地に行こうとしていたというヒントだけヴィクトルから得る結果となる。ベリコフの追跡がつづく。
香港の中国返還を目前にして、チャイナホワイトの流通がなぜか激減する異常事態が起こっていたのだ。パラッツォの行動はそれに関連していた。
ストーリーの冒頭から、話はグアム島、モスクワと海外の場面が連続する。このストーリー、ドラッグやヘロインが関係するようだがどのように展開していくのか・・・・・まず、好奇心が沸き起こる出だしである。
そして、舞台は日本に。厚生省の関東信越地区麻薬取締官事務所に属する取締官・三崎が登場する。三崎は捜査官に転向して8年の経験をしている。そのあいだに、覚せい剤とコカインにからむ、大きな4つの事件を解決した。相棒は辻村取締官。彼らの上司は1967年度採用の、叩きあげの麻薬取締官で大出と言い、50半ばに近い主任情報官である。辻村が得た、村井組が1億の現金を準備し2キロの物を取引すると言う情報により行っていた張り込みがガセであり、現場撤収するという場面から始まって行く。一方、意気消沈の折に、日本に駐在するDEA捜査官・コリンズから奇妙な情報が入ってきていたのだ。グァム島での爆発事件のことである。台湾人の運び屋アルバート・チンがその爆発で吹き飛ばされたという情報だった。ガセネタで終わった張り込み中止が、この爆発事件と関わりがあるのかどうか・・・・、状況不明な中でストーリーが複雑に絡み合っていく。
このストーリー、三崎麻薬取締官の捜査活動を主にしながら、一方でパラッツォを追跡するベリコフの捜査ストーリーが併行して進展する。
台湾の運び屋が爆死したという情報をヒントにして、三崎は台湾の組織に何かが起こっているのではと勘を働かせる。そして、新宿でその兆しが見つかるのではと推測する。新宿には、台湾の他に、上海、福建出身の連中が出身地を背景にしながら割拠している実態があるからである。大出の指示を受け、三崎と辻村は新宿に潜り捜査活動をすることになる。少しずつ情報を得る一方で、龍(ロン)という男に辻村が拳銃で撃たれ死に、三崎自身もその仲間から背中を切られる事態に立ち至る。だが、その場に懸かってきた龍の携帯電話のメッセージが三崎のピンチを救うことになる。徐という人物が三崎を救った。そこには、かつての事件で三崎が徐の息子を助けたことがあったからだ。三崎は徐の助けを得ながら、辻村を死なせることになった状況の解明を推進することになる。事態の経緯から、麻薬取締官という肩書きを伏せ、徐以外にはバックアップのない状況下での潜入行動となっていく。徐に連れられてある場所で日本最大の広域暴力団、坂本組の藤堂に会うことになった結果から、三崎の独自行動が始まって行く。
一方、パラッツォを追跡する捜査活動は、ベリコフを日本に導くことになる。ベリコフは日本で潜入捜査活動を始める。そして、かつてベリコフが潜入捜査をしていた事件で裏切られたタイニーと新宿で追跡中の事件を介して再び対立する立場で再会する事になる。ベリコフの潜入捜査行動は結果的に日本に駐在する同僚が射殺される事態を引き起こす。が一方で手掛かりを得ていくことになる。同僚が射殺された場所で、ベリコフは三崎に助けられることになる。そして、その後三崎とベリコフが連携する関係ができていく。
ベリコフと三崎には、ホワイトタイガーという名前が共通するキーワードとなる。
ホワイトタイガーの率いる麻薬密売組織が、チャイナホワイトのルートに代わるルートづくりとして、日本最大の広域暴力団に取引を持ちかけていたのだった。
ベリコフは新宿で潜入捜査をしているとき、ホワイトタイガーの情報を求めている中国人趙に後をつけられる形で出会うことになる。そして、趙の正体がわかると、三崎・ベリコフ・趙は共闘して、ホワイトタイガーの世界的な麻薬犯罪組織の中核を撲滅するために挑んでいくことになる。
このストーリーの興味深い点がいくつかある。
1. 麻薬組織をグローバルな視点でとらえ、その状況を概観している。そのスケールの中で、日本の広域暴力団の有り様を組み込んで行くというスケールの広がりである。実態とフィクションの融合の中ではあるが、世界的な麻薬密売組織の仕組みが大凡イメージできるところがまず興味深い。
2. 麻薬捜査官三崎と徐という人物との関係が息子を助けられたという恩義から始まり、二人の信頼関係がホワイトタイガーの究明を介して深まっていくプロセスが読ませどころとなっている。
3. 麻薬捜査官三崎の捜査活動の位置づけが変化していく。そのプロセスにおける三崎の意識の変化と心理が興味深く、押さえどころとなっていく。一方、日本における麻薬捜査官がどのような組織でどのような活動をしているものなのかの一端が理解できて関心が湧く。警察組織との違いがわかりおもしろい。
4. DEA捜査官ベリコフのプロ意識と、アメリカの縦割り組織の状況の一側面が描き込まれているところが別の関心事にもなる。
5. 外観上、華やかさの頂点の一つといえる新宿という区域を、裏社会という視点で捉えた実態が本当のところどうなのか。このストーリーで描かれた様な国内外勢力の鬩ぎ合いが日常の実態にあるのだろうか。外観からは見えない側面がフィクションとして描き出されるところに興味を惹かれる。実態はもっとドロドロしているのだろうか・・・・・と。
麻薬をテーマに据えたグローバルなスケールでのフィクションとしては、エンターテインメント性がふんだんに盛り込まれていて、楽しめる。著者の作品群の中では、地理的広がりという点で、異色作と言えるのではないだろうか。経済活動のグローバル化の一方で、犯罪のグローバル化の進展を視野に入れたリアルなストーリーの創作がおもしろい。麻薬の存在が撲滅できない理由も著者は視座に入れて描き込んでいるところに、必要悪化しているのではないかというリアルな怖さをも感じる。
ご一読ありがとうございます。
本書からの波紋の広がりで、ネット検索してみた事項を一覧にしておきたい。
麻薬及び向精神薬取締法 :「厚生労働省」
麻薬取締法 :「コトバンク」
麻薬取締官 :「厚生労働省 地方厚生局 麻薬取締部」
募集の概要について
不正流通する薬物
薬物に関するデータ :「警視庁」
麻薬・薬物犯罪 :「外務省」
伝説の麻薬Gメン、かく語りき :「VICE」
伝説の「麻薬Gメン」が明かす「薬物捜査」の最前線 :「デイリー新潮」
アメリカ麻薬取締局がおとり捜査で調子に乗りすぎ大ピンチ :「GIZMODO」
黄金の三角地帯 :ウィキペディア
麻薬生産地「黄金の三角地帯」写真特集 :「JIJI.COM」
黄金の三日月地帯 :ウィキペディア
あへん密輸は基幹産業並み|アフガニスタンあへん調査 :「弁護士小森榮の薬物問題ノート」
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(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
徒然にこの作家の作品を読み継いできました。ここで印象記を書き始めた以降の作品は次の通りです。こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『鮫言』 集英社
『爆身』 徳間書店
『極悪専用』 徳間書店
『夜明けまで眠らない』 双葉社
『十字架の王女 特殊捜査班カルテット3』 角川文庫
『ブラックチェンバー』 角川文庫
『カルテット4 解放者(リベレイター)』 角川書店
『カルテット3 指揮官』 角川書店
『生贄のマチ 特殊捜査班カルテット』 角川文庫
『撃つ薔薇 AD2023 涼子』 光文社文庫
『海と月の迷路』 毎日新聞社
『獣眼』 徳間書店
『雨の狩人』 幻冬舎
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