遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『石礫 機捜235』  今野 敏   光文社

2022-11-06 19:15:36 | レビュー
 『機捜235』の第2弾! 「小説宝石」(2021年3月号~2022年3月号)に連載された後、2022年5月に単行本として刊行された。
 ネット検索してみて、ウィキペディア情報で「機捜235」が2020年4月から、テレビ東京系列でテレビドラマ化されているという事を知った。関西在住なので、このドラマ化を知らなかった。

 主人公は第二機動捜査隊に所属し渋谷署の分駐所を活動拠点とする高丸卓也と縞長省一。高丸は梅原とペアを組んでいたのだが、梅原が公務中に負傷したことで、縞長と新たにペアを組む。第1作は高丸が縞長とペアになったところからスタートした。縞長は定年間際の年齢的にロートルな人。前職が捜査共助課見当たり捜査班だった。この能力が機捜隊で役立っていくところがおもしろい。
 渋谷分駐所には4台の機捜車がある。班長は徳田一誠警部。高丸は30代だが機動捜査隊の経験年数が長いので、50代後半の縞長とのペアだが、一応ペア長という恰好になっている。機捜235は高丸・縞長が使用する機捜車のコールサイン。頭の2は第二機動捜査隊、次の3は第三方面、最後の5は車両番号を意味する。元の相棒・梅原は機捜に復帰した後、井川とペアを組み機捜236として活動している。

 このストーリー、高丸・縞長の通常の日勤の描写から始まる。翌日、第二当番(夜勤)で出勤した時に明け番の梅原が拳銃をなくした事を知らされる。コンビニのトイレに拳銃を入れたポーチを置き忘れたのだ。夜勤に入った高丸・縞長は梅原の告げたコンビニに立ち寄り、防犯カメラの映像を確認した。午後8時過ぎ、分駐所に戻ると、梅原はそのまま残っていた。そこに、自ら隊の吾妻巡査部長と森田がやって来る。彼等は梅原のウエストポーチを徳田班長に手渡した。挙動不審の男に対する職質をかけ、その男のバックパックの中を調べて拳銃を見つけたという。
 梅原は一安心ということに。徳田班長は梅原・井川ペアを謹慎処分にする。
 これがきっかけで、自ら隊の吾妻・森田と高丸・縞長との面識ができる。後日勤務中にコンビニ強盗があり、その対処中に自ら隊の吾妻が現場に来る。そこで高丸・縞長は自ら隊の吾妻らのコールサインが警視235だと知り、その後彼等の関係が深まっていく。

 高丸・縞長は夜勤を終えて非番となるところだが、目黒署から張り込みの応援要請を受け、そのまま借り出される。潜伏中の指名手配犯金本真吉に対する張り込み応援だった。見当たり捜査担当だった縞長が本領を発揮するエピソードになる。
 機捜隊の仕事の一環として、事件がショートストーリー風に織り込まれていくところがおもしろい。

 応援を終えて機捜車で高丸らが分駐所に戻る途中、中目黒駅を過ぎた先のところで、縞長が停めてくれという。確かめたいことがあると。それが事件への端緒となる。
 縞長がコンビニに入って行くところを見た男を確かめたいと言う。指名手配中の爆弾テロ被疑者、内田繁之、49歳、であるかどうかを。10年前に企業に爆弾が仕掛けられ、10人以上が死傷した事件の主犯とみられている男だ。
 コンビニから出て来た男に高丸らが声を掛けようとしたとたん、男は逃走し、丁度空車で通りかかったタクシーで逃げた。勿論即座に追跡を開始し、無線で第二機動捜査隊本部に連絡を入れる。内田がタクシー運転手を人質にとり、建築現場に立てこもる事態に発展する。内田はリュックを持っていた。爆発物を所持する可能性が想定される。
 立てこもり現場には、捜査一課特殊犯捜査第一係長葛木警部らの一隊が出向いてくる。いわゆるSIT。その時点から立てこもり事件はSITが取り仕切っていく。一方で、捜査一課の増田警部補の傲慢さが原因で所轄や機捜隊との間で軋轢を発生させることに・・・・・。増田は昔、所轄の刑事として縞長と同僚だった時期があった。
 高丸は増田の態度に憤慨し、このままにしてはおけない、内田は俺たちで挙げると言い出す。事件現場に留まろうとした。

 警視235の吾妻が高丸・縞長のところにやって来る。吾妻は高丸・縞長が目撃した内田の服装を知りたいと尋ねた。そこから思わぬ方向に新たな展開が始まる。
 中目黒駅前で内田らしい人物が内田よりかなり若い男と立ち話をしていて、二人がリュックを交換して別れるところを、森田が目撃していたというのだ。このことを4人はSITに連絡しようとしたが、増田が拒絶した。
 そこで、4人は独自捜査を始める。内田と立ち話をしていた男の追跡捜査である。徳田班長に初動捜査の経緯を報告する。それが契機となり立てこもり事件とは別に、捜査体制が確立され、捜査が大きく膨らんでいく方向に動き出す。
 リュックを交換した若い男は内田から爆発物を受け取り、爆破テロを狙っているのではないかという読み筋である。現時点で内田はその若い男と連携プレイを図っている恐れも想定されることに・・・・。時間との勝負にもなっていく。

 高丸・縞長と吾妻・森田の4人は、彼等自身の勤務明けから、急遽編成された捜査体制にそのまま組み込まれて、捜査を行う形になる。
 この先は、本書をお読みいただきたい。

 この小説、捜査の進展が素早い流れなので一気に読み急いでしまった。手慣れた筋運びに乗せられてしまう。

 このストーリーは様々な側面の特徴的な要素が巧みに組み合わされていく。
1.警察組織内で信頼関係にある人々の間で判断・意思決定と行動の素早さが発揮される。
 徳田班長⇒警視の新堀陽一隊長⇒田端捜査一課長のコミュニケーションのすばやさ。
 報告後、全員が田端の自宅を訪れ、そこで話し合い、即捜査体制作りが即決する。
2.変則的な特捜班体制が動き出す。
 渋谷分駐所の機捜隊と新堀を入れた6人、自ら隊の吾妻と森田の2人、田端課長が特殊犯捜査第三係から1個班10人を出すという。そして、田端課長は機捜と自ら隊を捜査の中心に組み込む。特捜班は新堀隊長が司令塔になる。
3.田端課長の判断はスピーディで、即行動する。
 強引に渋谷署の大会議室を特捜班用に押さえる。立てこもり事件現場に出向き状況確認4.捜査はあくまで定石の積み上げで進展する。如何にポイントを押さえ、情報の集約、分析を速やかに実行し、犯人逮捕につなげるかである。
 内田の利用したコンビニでの聞き込み捜査。防犯カメラの映像確認。
 内田の住居の追跡。家宅捜査。家宅捜査からの新たな糸口の発見。
 警視庁にデータベース化された犯罪歴情報。公安が独自に持つ逮捕歴情報への照会等
5.縞長が見当たり捜査のレジェンドと称されていたということが明かになる。
 縞長の能力が所々で発揮されていく。このストーリーでの読んで楽しい側面である。
6.捜査における縞長の目のつけどころのよさが発揮される。それは経験に由来するのか。7.縞長が見当たり捜査班時代に培った犯罪者情報の記憶が引き出されてくる。牽引力に。
8.公安第一課から4人が特捜班に加わるような展開になる。

 立てこもり事件の内田が遂に逮捕されると、その取り調べの中で、進行中の爆弾テロ問題に対して、内田と警察側との間で駆け引きが始まっていく。内田は弁護士を要求する。その弁護士との間でも駆け引きが始まって行く。
 この駆け引きの内容が、特捜班の捜査の進展に大きく影響を及ぼしていく。

 爆弾テロはどこが狙われていたのか。その狙いは何だったのか。事態は意外な方向に進展する。お楽しみに。

 いくつものショートストーリーを折込ながら、立てこもり事件へのSITの対応と爆弾テロを実行しようとする男あるいは組織の追跡捜査を緊迫感の中でパラレルに進行させていく。エンターテインメント性を十分に盛り込んだ警察小説である。
 ご一読ありがとうございます。

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