表紙の上部に、「ワイド&パノラマ 鳥瞰・復元イラスト」と一行のキャッチ・フレーズが記されている。この一行を冠して全てが書名なのかもしれない。
いずれにしてもこの一行で本書のイメージを抱くことができるだろう。本書は2021年9月に刊行された。
著者は本書の他に同文の一行を冠した『日本の城』(ONE PUBLISHING)を刊行している。
さて、本書はA4判(210×297)サイズであり、実際には各ページが2つ折になっているので、1ページの大きさが横長にしたA3サイズになる。表紙には[丹波]周山城のイラスト部分図が使用されている。
つまり、本書には戦国時代の城-主に山城-について、発掘調査研究結果・縄張り図・時代考証などについて専門家とコラボレーションし、イラストレーターである著者が城を鳥瞰・復元したイラストに仕上げる。基本的にはA3サイズの大きさに描き出している。周辺の地形、植栽、居住状態を含めて、ワイドでかつパノラマの景色が描かれている。
本書は戦国期の山城愛好家には垂涎の書と言えるだろう。私自身、一時期史跡探訪の一環として近江(滋賀県)の山城をいろいろと巡ったことがある。山城跡は曲輪跡、竪堀跡、堀切跡や虎口などの部分部分は教えられてこれがそうかと分かる程度であることが多い。。勿論樹木の繁茂も影響しているし、現地の荒廃が進んでいるからだ。時には縄張り図での説明を聞くことで、現地にて山城の全体構成の理解を深めることができる。しかし、その地形の中に具体的にどのように建物が建っていたのかまでイメージするのは難しい。今では曲輪の位置がわかっても全体の大きさや形までスッキリと見渡せる訳ではないからだ。堀切や竪堀も部分的に見えるだけ。そんな実体験をしている。だが、そこに山城を少しでもイメージしようとする浪漫がある。
本書のイラストは山城の最終形を復元してくれている。縄張り図と山城の鳥瞰・復元イラストを携えて、現地を探訪するなら楽しみがいや増すのではないか。あるいは、かつて実際に城跡に出向き現地を体験した人には、記憶を辿りながら、城を鳥瞰・復元したこのイラストをみれば、山城を二度楽しめることになる。
イラストには、各箇所に役割・機能に関わる名称が付記されているので、それぞれの山城の全体構造を理解する補助になる。これから山城を訪れてみようと思う人にとっては、しっかりしたイメージを形成する事前学習資料になると思う。
奥書を読むと、著者は『歴史群像』(ONE PUBLISHING)の連載「戦国の城」で、2000年から復元イラストを担当してきたという。つまり、本書はこの連載シリーズに掲載された復元イラストを中核にしつつ、他の目的で作成された復元イラストも含めて、現時点までに作成された成果を集大成した本とである。
著者の復元イラストに対し、その図の監修並びに城の考証についてそれぞれの専門家が分担している。奥書には「執筆・監修・推定復元・復元設計」の担当者として氏名と肩書が一覧で表記されている。
専門家・研究者とのコラボレーションの成果である故に「復元イラスト」という用語も適切な裏付けのもとに使えるのだろう。
誰しも身近な城にまず関心が向くと思う。本書に戦国の城としてどの城が採りあげられているかを目次を参考に列挙してご紹介する。
陸奥: 九戸城、寺山城、 出羽: しなの館、中山城、舘山城、米沢城
会津: 久川城 上野: 根小屋城、三ツ寺遺跡、名胡桃城
武蔵: 虎ヶ岡城、大堀山城、松山城 岩櫃城
小野路城、辛垣城、小机城 下野: 独鈷山城
江戸城(太田道灌時代) 上総: 坂田城
杉山城、岩付城、浄福寺城 下房: 本佐倉城
江戸城(家康時代) 安房: 江見根古屋城
寛永期江戸城天守 相模: 小田原城、大庭城、三崎城
甲斐: 能見長塁、御坂城 石垣山城、小田原城天守
越後; 加茂山城、栃尾城 越中: 増山城
若狭: 国吉城 加賀: 切山城、松根城
越前: 大野城
飛騨: 傘松城、高原諏訪城、小島城 美濃: 明知城と落合砦・仲深山砦、金山城
古川城、小鷹利城(向氏段階) 加治田城、大森城、今城、大垣城
野口城、桜洞城、萩原諏訪城 伊豆: 下田城、韮山城
高山城本丸 駿河: 朝比奈城/殿山、花倉城/葉梨城
遠江: 馬伏塚城、諏訪原城/牧野城 丸子城
三河: 吉田城 近江: 佐和山城、高取山城/男鬼入谷城
丹波: 周山城 山城: 山崎城、二条城(江戸前期)、田辺城
聚楽第
摂津: 芥川山城、大坂城惣構 真田丸 河内: 飯盛城
丹波: 篠山城 播磨: 明石城、姫路城内郭
但馬: 竹田城 伊予: 宇和島城天守
紀伊: 和歌山城 因幡; 鳥取城(攻囲戦)
伯耆: 米子城 出雲: 赤穴瀬戸山城、月山富田城(堀尾時代)
石見: 七尾城 備後: 青木城
阿波: 東山城、徳島城、 讃岐: 高松城、丸亀城天守(御三階櫓)
伊予: 今治城、来島城 土佐: 高知城
筑前: 安楽平城 肥前: 原城
豊後: 日出城、岡城御三階櫓 大隅: 岩剣城
北海道: 桂ヶ岡チャシ 琉球王国: 中城グスク
大韓民国: 泗川倭城
復元イラストのコラボレ-ションについて、著者が「あとがき」に記す一つのパラグラフを最後にご紹介しておこう。
「この本のイラストも、多くは専門家の研究家に監修いただいたものです。『歴史群像』では、下絵と本画、それぞれの段階で修正指示を受けて仕上げています。さらに自治体の仕事では、研究家だけでなく、地元の方々も検討して、下絵の修正を繰り返します。1枚のイラストに半年をかけることも珍しくありません。城だけでなく遠景の集落にも、色々な方の見解が入っていますので、どうぞ細部までご覧ください。」(p181)
戦国期の城から、戦国時代に思いを馳せて行く上でも、想像を誘発する素材になるイラスト集である。
ご一読ありがとうございます。
いずれにしてもこの一行で本書のイメージを抱くことができるだろう。本書は2021年9月に刊行された。
著者は本書の他に同文の一行を冠した『日本の城』(ONE PUBLISHING)を刊行している。
さて、本書はA4判(210×297)サイズであり、実際には各ページが2つ折になっているので、1ページの大きさが横長にしたA3サイズになる。表紙には[丹波]周山城のイラスト部分図が使用されている。
つまり、本書には戦国時代の城-主に山城-について、発掘調査研究結果・縄張り図・時代考証などについて専門家とコラボレーションし、イラストレーターである著者が城を鳥瞰・復元したイラストに仕上げる。基本的にはA3サイズの大きさに描き出している。周辺の地形、植栽、居住状態を含めて、ワイドでかつパノラマの景色が描かれている。
本書は戦国期の山城愛好家には垂涎の書と言えるだろう。私自身、一時期史跡探訪の一環として近江(滋賀県)の山城をいろいろと巡ったことがある。山城跡は曲輪跡、竪堀跡、堀切跡や虎口などの部分部分は教えられてこれがそうかと分かる程度であることが多い。。勿論樹木の繁茂も影響しているし、現地の荒廃が進んでいるからだ。時には縄張り図での説明を聞くことで、現地にて山城の全体構成の理解を深めることができる。しかし、その地形の中に具体的にどのように建物が建っていたのかまでイメージするのは難しい。今では曲輪の位置がわかっても全体の大きさや形までスッキリと見渡せる訳ではないからだ。堀切や竪堀も部分的に見えるだけ。そんな実体験をしている。だが、そこに山城を少しでもイメージしようとする浪漫がある。
本書のイラストは山城の最終形を復元してくれている。縄張り図と山城の鳥瞰・復元イラストを携えて、現地を探訪するなら楽しみがいや増すのではないか。あるいは、かつて実際に城跡に出向き現地を体験した人には、記憶を辿りながら、城を鳥瞰・復元したこのイラストをみれば、山城を二度楽しめることになる。
イラストには、各箇所に役割・機能に関わる名称が付記されているので、それぞれの山城の全体構造を理解する補助になる。これから山城を訪れてみようと思う人にとっては、しっかりしたイメージを形成する事前学習資料になると思う。
奥書を読むと、著者は『歴史群像』(ONE PUBLISHING)の連載「戦国の城」で、2000年から復元イラストを担当してきたという。つまり、本書はこの連載シリーズに掲載された復元イラストを中核にしつつ、他の目的で作成された復元イラストも含めて、現時点までに作成された成果を集大成した本とである。
著者の復元イラストに対し、その図の監修並びに城の考証についてそれぞれの専門家が分担している。奥書には「執筆・監修・推定復元・復元設計」の担当者として氏名と肩書が一覧で表記されている。
専門家・研究者とのコラボレーションの成果である故に「復元イラスト」という用語も適切な裏付けのもとに使えるのだろう。
誰しも身近な城にまず関心が向くと思う。本書に戦国の城としてどの城が採りあげられているかを目次を参考に列挙してご紹介する。
陸奥: 九戸城、寺山城、 出羽: しなの館、中山城、舘山城、米沢城
会津: 久川城 上野: 根小屋城、三ツ寺遺跡、名胡桃城
武蔵: 虎ヶ岡城、大堀山城、松山城 岩櫃城
小野路城、辛垣城、小机城 下野: 独鈷山城
江戸城(太田道灌時代) 上総: 坂田城
杉山城、岩付城、浄福寺城 下房: 本佐倉城
江戸城(家康時代) 安房: 江見根古屋城
寛永期江戸城天守 相模: 小田原城、大庭城、三崎城
甲斐: 能見長塁、御坂城 石垣山城、小田原城天守
越後; 加茂山城、栃尾城 越中: 増山城
若狭: 国吉城 加賀: 切山城、松根城
越前: 大野城
飛騨: 傘松城、高原諏訪城、小島城 美濃: 明知城と落合砦・仲深山砦、金山城
古川城、小鷹利城(向氏段階) 加治田城、大森城、今城、大垣城
野口城、桜洞城、萩原諏訪城 伊豆: 下田城、韮山城
高山城本丸 駿河: 朝比奈城/殿山、花倉城/葉梨城
遠江: 馬伏塚城、諏訪原城/牧野城 丸子城
三河: 吉田城 近江: 佐和山城、高取山城/男鬼入谷城
丹波: 周山城 山城: 山崎城、二条城(江戸前期)、田辺城
聚楽第
摂津: 芥川山城、大坂城惣構 真田丸 河内: 飯盛城
丹波: 篠山城 播磨: 明石城、姫路城内郭
但馬: 竹田城 伊予: 宇和島城天守
紀伊: 和歌山城 因幡; 鳥取城(攻囲戦)
伯耆: 米子城 出雲: 赤穴瀬戸山城、月山富田城(堀尾時代)
石見: 七尾城 備後: 青木城
阿波: 東山城、徳島城、 讃岐: 高松城、丸亀城天守(御三階櫓)
伊予: 今治城、来島城 土佐: 高知城
筑前: 安楽平城 肥前: 原城
豊後: 日出城、岡城御三階櫓 大隅: 岩剣城
北海道: 桂ヶ岡チャシ 琉球王国: 中城グスク
大韓民国: 泗川倭城
復元イラストのコラボレ-ションについて、著者が「あとがき」に記す一つのパラグラフを最後にご紹介しておこう。
「この本のイラストも、多くは専門家の研究家に監修いただいたものです。『歴史群像』では、下絵と本画、それぞれの段階で修正指示を受けて仕上げています。さらに自治体の仕事では、研究家だけでなく、地元の方々も検討して、下絵の修正を繰り返します。1枚のイラストに半年をかけることも珍しくありません。城だけでなく遠景の集落にも、色々な方の見解が入っていますので、どうぞ細部までご覧ください。」(p181)
戦国期の城から、戦国時代に思いを馳せて行く上でも、想像を誘発する素材になるイラスト集である。
ご一読ありがとうございます。