本書には副題がついている。「悩みが消えていく禅の言葉」と。
この本を友人のブログで知り、スヌーピーのコマ漫画と禅語の組み合わせということに関心を抱いて、読んでみた。
チャールズ・M・シュルツ(以下敬称省略)の名は知らなくても、スヌーピー、チャーリー・ブラウン、サリー、ルーシー、ウッドストック、シュローダーなどなどが登場するコマ漫画を知らない人、見たことがない人は、多分いないだろうと思う。それくらい世に親炙した漫画である。今年、2022年11月26日に作者のチャールズ・M・シュルツの生誕100周年を迎えるという。
訳者の谷川俊太郎は有名な詩人だ。チャールズ・M・シュルツのことをネットで調べていて、谷川俊太郎がスヌーピーの漫画シリーズを完訳していることを知った。『完全版 ピーナッツ全集』(河出書房新社)。1960年代後半から翻訳を心がけ、全25巻で最終巻が2019年12月に出版されている。
監修の桝野俊明は曹洞宗德雄山建功寺の住職。多摩美術大学教授、庭園デザイナーでもある。手許には桝野俊明著『毎日に感謝したくなる 禅ごよみ365日』(誠文堂新光社)がある。
本書は2021年9月に単行本が出版された。
本書はチャールズ・M・シュルツの描いたピーナッツコミックそれ自体とコマ漫画の吹き出しに記された会話についての谷川俊太郎の翻訳文、そして禅語のコラボレーションである。禅語とピーナッツコミックを結びつける説明が本文になっている。禅語と本文が監修の桝野俊明の担当というところなのだろう。膨大なピーナッツコミックの中から、ピーナッツコミックの漫画自体と併記の会話、シュルツの名言が、禅の世界の一端を凝縮した禅語に通じ、相互に照応するものが抽出されて、この一冊になった。
1コマ、3コマ、4コマ、5コマと様々なコマ数のスヌーピーコミックが取り上げられている。私の見落としがなければ、抽出されているコマ漫画は、1950.10.04付の4コマ漫画から1999.10.04付の1コマ漫画の期間に亘っている。
本書は「はじめ」と「禅に通じるピーナッツの世界」がイントロ部分になり、その次に「もくじ」が来る。そして、全体が3部構成になっている。「Part 1 スヌーピーと読む禅」「Part 2 無言で語る禅」「Part 3 禅の心を持つピーナッツキャラクターたち」である。
ボリュームとしてはPart 1 が一番多い。小見出しと収録禅語数をまとめると、
今を大切に(10)、人と比べない(11)、貴重なひとりの時間(9)、
のんびりでいい(8)、自分のペースでがんばろう(8)、思いやりを持つ(10)
となる。具体的に見開きのページを載せれば一目瞭然なのだが、そうも行かないので、分かりやすいのを1つ、文字レベルで引用しよう。4コマ漫画のまず吹き出しの文と訳である。最初の括弧付き数字はコマの順番を示す。
(1) NOTHING GOES ON FOREVER どんなことも永遠に続きはしない
(2) ALL GOOD THINGS MUST COME TO AN END ... よいことはすべていつか終わる・・・
(3) (ライナスとチャーリー・ブラウンが臂をついてじっと前をみつめる姿)
(4) WHEN DO THE GOOD THINGS START? よいことはいつ始まるんだい?
この4コマ漫画には「変化を恐れず受け入れよう」というメッセージが見開きのトップに記されている。右にこの漫画が載り、左に禅語「諸行無常」が取り上げられている。うまく照応しているなあ・・・・と思う。ピーナッツコミックを禅の世界に翻案するという発想が実に興味深い。
禅が悟りを得る為の修行のプロセスとして、現在の生き方を極めようとするものであると考えると、生き方という点では洋の東西を問わないということなのだろう。ピーナッツコミックはスヌーピーと子供たちの生き方の一端を捕らえて漫画に描いているのだから。そこには、チャールズ・M・シュルツの生きる姿と思念が背後に存在し反映していると思う。照応する所、接点があるということだろう。
本書はピーナッツコミックを一味違った視点で捉え直すことができる一冊だ。おもしろかった。ナルホド!である。
Part 2 は、ピーナッツコミックに吹き出しはない。漫画だけで無言。そのコマ漫画に禅語が照応されている。ここでは11の禅語がそれぞれのコマ漫画に照応されている。ここは、本書を手に取り、実際にご覧いただくしかない。
Part 3 は、ピーナッツキャラクターたちがそれぞれ禅の心を持っているという観点でまとめられている。ピーナッツキャラクターたちそれぞれに焦点を絞り、コマ漫画と禅語を照応させている。興味深いのは、そのキャラクターそれぞれに対する谷川俊太郎の詩が併載されていることである。
たとえば、スヌーピーを右ページに大きく描き出し、左のページには次の詩が載っている。
タイプライターが打てるくせに
きみはドッグ・フードを食べるとき
フォークもスプーンも使おうとしない
そんなきみがぼくは好きさ
「世界的に有名な」
自分にちっとも気づかず
いまだきみは
「世界的に有名な」外科医を
撃墜王を ゴルフ選手を夢見つづける
そんなきみがぼくは好きさ
最終ページは、スヌーピーとチャーリー・ブラウンの漫画で締めくくられる。
そこに添えられているのは、谷川俊太郎の詩である。
幸せについて
一度でも
ナマで幸せを体験していれば
コトバの幸せのウソに
だまされることはない
ここに禅語の併載はない。禅で言われる「不立文字」がここに照応するのだろう。
だから、禅語が出る余地はない。
ということは・・・・・スヌーピーコミックも禅語も、ハッと感じるナマの体験に読者を誘うためのトリガーなんだ。
お読みいただきありがとうございます。
本書に関連して、関心事項をネット検索してみた。一覧にしておきたい。
チャールズ・M・シュルツ :ウィキペディア
Charles Monroe Schulz From Wikipedia, the free encyclopedia
CHARLES M. SCHULZ MUSEUM ホームページ ←東京都町田市にあるミュージアム
チャールズ M. シュルツの生涯
シリーズ:完全版 ピーナッツ全集 全25巻 :「河出書房新社」
PEANUTS 日本のスヌーピー 公式サイト
CHARLES M. SCHULZ MUSEUM アメリカのホームページ
PEANUTS STUDIO BLOG ホームページ
谷川俊太郎 :ウィキペディア
谷川俊太郎『虚空へ』PV YouTube
ここ / いるか / かっぱ - Installation for TANIKAWA Shuntaro YouTube
枡野俊明 略歴 :「桝野俊明 + 日本造園設計」
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(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
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その点、ご寛恕ください。)
この本を友人のブログで知り、スヌーピーのコマ漫画と禅語の組み合わせということに関心を抱いて、読んでみた。
チャールズ・M・シュルツ(以下敬称省略)の名は知らなくても、スヌーピー、チャーリー・ブラウン、サリー、ルーシー、ウッドストック、シュローダーなどなどが登場するコマ漫画を知らない人、見たことがない人は、多分いないだろうと思う。それくらい世に親炙した漫画である。今年、2022年11月26日に作者のチャールズ・M・シュルツの生誕100周年を迎えるという。
訳者の谷川俊太郎は有名な詩人だ。チャールズ・M・シュルツのことをネットで調べていて、谷川俊太郎がスヌーピーの漫画シリーズを完訳していることを知った。『完全版 ピーナッツ全集』(河出書房新社)。1960年代後半から翻訳を心がけ、全25巻で最終巻が2019年12月に出版されている。
監修の桝野俊明は曹洞宗德雄山建功寺の住職。多摩美術大学教授、庭園デザイナーでもある。手許には桝野俊明著『毎日に感謝したくなる 禅ごよみ365日』(誠文堂新光社)がある。
本書は2021年9月に単行本が出版された。
本書はチャールズ・M・シュルツの描いたピーナッツコミックそれ自体とコマ漫画の吹き出しに記された会話についての谷川俊太郎の翻訳文、そして禅語のコラボレーションである。禅語とピーナッツコミックを結びつける説明が本文になっている。禅語と本文が監修の桝野俊明の担当というところなのだろう。膨大なピーナッツコミックの中から、ピーナッツコミックの漫画自体と併記の会話、シュルツの名言が、禅の世界の一端を凝縮した禅語に通じ、相互に照応するものが抽出されて、この一冊になった。
1コマ、3コマ、4コマ、5コマと様々なコマ数のスヌーピーコミックが取り上げられている。私の見落としがなければ、抽出されているコマ漫画は、1950.10.04付の4コマ漫画から1999.10.04付の1コマ漫画の期間に亘っている。
本書は「はじめ」と「禅に通じるピーナッツの世界」がイントロ部分になり、その次に「もくじ」が来る。そして、全体が3部構成になっている。「Part 1 スヌーピーと読む禅」「Part 2 無言で語る禅」「Part 3 禅の心を持つピーナッツキャラクターたち」である。
ボリュームとしてはPart 1 が一番多い。小見出しと収録禅語数をまとめると、
今を大切に(10)、人と比べない(11)、貴重なひとりの時間(9)、
のんびりでいい(8)、自分のペースでがんばろう(8)、思いやりを持つ(10)
となる。具体的に見開きのページを載せれば一目瞭然なのだが、そうも行かないので、分かりやすいのを1つ、文字レベルで引用しよう。4コマ漫画のまず吹き出しの文と訳である。最初の括弧付き数字はコマの順番を示す。
(1) NOTHING GOES ON FOREVER どんなことも永遠に続きはしない
(2) ALL GOOD THINGS MUST COME TO AN END ... よいことはすべていつか終わる・・・
(3) (ライナスとチャーリー・ブラウンが臂をついてじっと前をみつめる姿)
(4) WHEN DO THE GOOD THINGS START? よいことはいつ始まるんだい?
この4コマ漫画には「変化を恐れず受け入れよう」というメッセージが見開きのトップに記されている。右にこの漫画が載り、左に禅語「諸行無常」が取り上げられている。うまく照応しているなあ・・・・と思う。ピーナッツコミックを禅の世界に翻案するという発想が実に興味深い。
禅が悟りを得る為の修行のプロセスとして、現在の生き方を極めようとするものであると考えると、生き方という点では洋の東西を問わないということなのだろう。ピーナッツコミックはスヌーピーと子供たちの生き方の一端を捕らえて漫画に描いているのだから。そこには、チャールズ・M・シュルツの生きる姿と思念が背後に存在し反映していると思う。照応する所、接点があるということだろう。
本書はピーナッツコミックを一味違った視点で捉え直すことができる一冊だ。おもしろかった。ナルホド!である。
Part 2 は、ピーナッツコミックに吹き出しはない。漫画だけで無言。そのコマ漫画に禅語が照応されている。ここでは11の禅語がそれぞれのコマ漫画に照応されている。ここは、本書を手に取り、実際にご覧いただくしかない。
Part 3 は、ピーナッツキャラクターたちがそれぞれ禅の心を持っているという観点でまとめられている。ピーナッツキャラクターたちそれぞれに焦点を絞り、コマ漫画と禅語を照応させている。興味深いのは、そのキャラクターそれぞれに対する谷川俊太郎の詩が併載されていることである。
たとえば、スヌーピーを右ページに大きく描き出し、左のページには次の詩が載っている。
タイプライターが打てるくせに
きみはドッグ・フードを食べるとき
フォークもスプーンも使おうとしない
そんなきみがぼくは好きさ
「世界的に有名な」
自分にちっとも気づかず
いまだきみは
「世界的に有名な」外科医を
撃墜王を ゴルフ選手を夢見つづける
そんなきみがぼくは好きさ
最終ページは、スヌーピーとチャーリー・ブラウンの漫画で締めくくられる。
そこに添えられているのは、谷川俊太郎の詩である。
幸せについて
一度でも
ナマで幸せを体験していれば
コトバの幸せのウソに
だまされることはない
ここに禅語の併載はない。禅で言われる「不立文字」がここに照応するのだろう。
だから、禅語が出る余地はない。
ということは・・・・・スヌーピーコミックも禅語も、ハッと感じるナマの体験に読者を誘うためのトリガーなんだ。
お読みいただきありがとうございます。
本書に関連して、関心事項をネット検索してみた。一覧にしておきたい。
チャールズ・M・シュルツ :ウィキペディア
Charles Monroe Schulz From Wikipedia, the free encyclopedia
CHARLES M. SCHULZ MUSEUM ホームページ ←東京都町田市にあるミュージアム
チャールズ M. シュルツの生涯
シリーズ:完全版 ピーナッツ全集 全25巻 :「河出書房新社」
PEANUTS 日本のスヌーピー 公式サイト
CHARLES M. SCHULZ MUSEUM アメリカのホームページ
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谷川俊太郎 :ウィキペディア
谷川俊太郎『虚空へ』PV YouTube
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枡野俊明 略歴 :「桝野俊明 + 日本造園設計」
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
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