遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『名画を見上げる 美しき天井画・天井装飾の世界』 キャサリン・マコーマック 誠文堂新光社

2021-08-29 18:07:58 | レビュー
 世界の名画・彫刻・工芸品などは日本で開催される展覧会でかなり手軽に鑑賞できる時代になっている。だが、天井画は現地に出かけて、見上げて見なければ見ることができない。本書は世界各地の天井画と天井装飾に的を絞って巡り、その天井画写真を主体にし、その描かれた内容について解説した本である。21cm×26cmというサイズ。2021年2月に翻訳版(池上英洋 監訳 大木麻利子、山本真実 翻訳)が出版された。

 本書の表紙はアメリカの合衆国議会議事堂の大広間にあるドーム天井の中央に描かれた天井画。この天井画は本書では一番最後に取り上げられている。中央部に絞り込んだ同じ写真がp226に載っている。大広間の中央下に立って見上げたらこのドーム天井はどんな感じなのだろう。それはその次の見開き2ページでほぼ全体が示してあるので、擬似的に見上げたイメージを感じることができる。このアメリカの天井画事例で言えば、総ページは6ページ。解説が1ページで他に見上げる位置、視点を変えた写真が3葉掲載されている。

 天井画は、ドーム[丸屋根/円天井]、ヴォールト[穹窿(きゅうりゅう)/屋根構造]、天井など建物内部の様々な箇所に描かれている。フレスコ画が主体であるが、中には異色の天井画もありおもしろい。この描かれる場所から想像できると思うが、見上げた天井画の写真はテーマの主要箇所あるいは特徴的な部分にフォーカスを当てて撮ったものにならざるを得ない。天井画の全景を撮るにしても大きな建物内にある天井画なので、撮れる範囲に制約がある。つまり、本書では、ここだけはという部分を取り上げているにとどまる。現地現場で天井画を見上げて鑑賞する本格的な手引きといえる。天井画の見方や見どころをガイドしてくれる美術書である。ここに掲載されたものが、すべていつでも見学・鑑賞可能なのかどうかは不詳。その点の説明はない。あくまで美術書という位置づけなのだろう。
 天井画だけを集めて眺めてみるという発想が私にはなかったので、新鮮な感じで眺め、読み進めることになった。日本に絶対実物が来ることはない天井画。シャガールやダリが天井画を描いているということを本書で初めて知った。
 見上げる必要がないので首が凝るということもなく本書を楽しむことができた。

 著者は、天井画が様々なねらいで描かれていると説く。それを大きく4つに分類し、その狙いの要点を最初に説明している。私が受けとめた著者が説く要点箇所を引用しご紹介する(鍵括弧で表記)とともに、その分類で取り上げられた天井画がどこなのか。その名称と国名を列挙しておこう。

<第1章 宗教>
「天井やドームは、文字を読めない人々に宗教説話を教えるためにしばしば用いられた。初期キリスト教では、聖書や聖人伝の内容を消化してよりわかりやすくしたものを視覚的な手段で提供することが、ある種の教育となっていた。それらを描いたイメージは、超越的な存在や魂の浄化を中心的に扱う傾向があったが、審判や犠牲、罰も描いていた。」(p13)
「宗教的な場所の天井にも、それが生み出された時代の社会状況が必ず映し出されている。」(p13)

ネオニアーノ洗礼堂、イタリア/ 血の上の救世主教会(ハリストス復活大聖堂)、ロシア/ サグラダ・ファミリア教会、スペイン/ イマーム・モスク、イラン/ ヴァチカン宮殿、イタリア/ トカリ教会(バックル教会)/ サン・パンタロン教会、イタリア/ デブレ・ベルハン・セラシー教会、エチオピア/ 浅草寺、日本

浅草寺の天井画の説明の中で、著者は次の点を指摘している。
「視覚芸術における東西の基本的なちがいのひとつは、素描でも彩色画においてでも、遠近法の使用と三次元的な奥行の創出を重視するか否かにある。」(p62)

<第2章 文化>
「その場にふさわしい天井は、様々な効果を発揮する。」(p65)
著者はそれぞれの事例により次のような効果を論じている。目の楽しみとなる。心地よくささやく。活気づける。出迎える。情熱に触れる。没入する。寓意を語る。対比する。

オペラ座(パレ・バルニエ)、フランス/ ブルク劇場、オーストリア/ ルーブル美術館/ ダリ劇場美術館、スペイン/ストラホフ修道院内の図書館、チェコ/ ストックホルムの地下鉄駅、スゥエーデン/ コスタリカ国立劇場、コスタリカ/ ウフィツィ美術館、イタリア/ トルーカ植物園、メキシコ/ ベラージオ・ホテル・アンド・カジノ、アメリカ

<第3章 権力>
「天井は支配力を伝えるために使われるようになった。」(p123)
 著者は様々なテーマについて示唆しそのメッセージをつたえるために、様々な手法が活用されていることを具体的に説明する。著者は、そのテーマを巨万の富や不滅性、神格化、脅威から奇想まで、さらには娯楽やユーモアというようなキーワードで説明している。
バンケティング・ハウス、イギリス/ アルハンブラ宮殿、スペイン/ テ宮殿、スペイン/ バルベルーニ宮、イタリア/ トプカプ宮殿、トルコ/ ブレナム宮殿、イギリス/パラッツォ・キエリカーティ、イタリア/ ブリュセル王宮、ベルギー/中国風宮殿、ロシア/ ヴェルツブルクのレジデンツ、ドイツ

<第4章 政治>
「天井は、為政者が自認する都市や国家の外延として機能している」(p185)

パラッツォ・ファルネーゼ、イタリア/ アウスブルク市庁舎、ドイツ/ バルセロナ市庁舎、ズペイン/ オールド・ロイヤル・ネイバル・カレッジ(旧王立海軍学校)、イギリス/ 国際連合ジュネーヴ事務所(国際連合欧州本部)、スイス/ 革命博物館、キューバ/ パラッツォ・ドゥカーレ、イタリア/ 合衆国議会議事堂、アメリカ

 第1章のヴァチカン宮殿は、勿論ミケランジェロが描いたシスティーナ礼拝堂の天井画が取り上げられている。ここは10ページに及び、折り込みで見開き4ページで天井画が載っている。それでも周辺一部カットの写真になっている。
 見開きで4ページになっているのが他にも3箇所ある。それはどこかは、本書を開いてのおたのしみに。

 現地で首が痛くなるほど見上げてみたいな・・・・・・。いつか。

 ご一読ありがとうございます。

本書を読み、ネット検索で情報が得られるか試してみた。その試みの一端を一覧にしておこう。
ネオニアーノ(正統派)洗礼堂 Battistero Neoniano :「北イタリア美術めぐり」
ミケランジェロの大作、システィーナ礼拝堂の天井画「天地創造」を解説 :「MUTERIUM Magazine」
トカリ教会  :「Expedia」
美しきアルハンブラ宮殿!スペインの古都グラナダでイスラム王国の栄華と絶景を楽しむ :「トラベルjp」
48点のデブレ・ベルハン・セラシー教会のストックフォトと写真 :「gettyimages」
パリ・オペラ座の天井画――シャガールとマルロー、2人の友情が彩った音楽の殿堂 :「ONTOMO」
フィゲラスのダリ美術館は個性的すぎる!驚きと感動でいっぱい :「おくびょう女の一人旅」
となりのメキシコ州② ~トルーカ・コスモビトラル植物園~ :「旅ブロ」
床に寝転がってルーベンスの天井画を鑑賞「バンケティング・ハウス」:「成功する留学」
【イタリア】巨人の国に迷い込む?!マントヴァの「テ宮殿」 :「tripnote」
世界遺産トプカプ宮殿はイスタンブールで見逃せない観光名所!見どころを徹底解説 :「TURKISH Air & Travel」
ファーブルの孫が作った「虫の天井」が見られるブリュッセル王宮へ :「BELPLUS」
ファルネーゼ宮 Palazzo Farnese :「イタリアのお気に入り・便利...」
スイス国連人権理事会議場の天井彩る、スペイン現代アート :「AFP BB News」
アメリカの国会議事堂を見に行きたい!国会議事堂を訪ねてワシントンDCを徹底調査 :「Travel Book」

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