遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『ブラタモリ 15 名古屋 岐阜 彦根』  角川書店

2021-03-07 22:08:59 | レビュー
 本シリーズの第15弾。NHK「ブラタモリ」制作班の監修による出版(2018.12)である。長くなるので標題では略し、ここに表記しておきたい。
 本書には「名古屋」(2017年6月10・17日放送と同年11月18日放送)、「岐阜」(2017年12月2日放送)、「彦根」(2017年12月9日放送)が収録されている。これらの番組は当日の放送を視聴していた。しかし、本書を読み始めてその時のことを思い出すとともに、かなり記憶が曖昧になっているなということを痛感した次第。写真やイラスト図を参照しながら本文を読み進め、再認識する個所も多く、知識として捉え直すためのいい復習になった。活字は即座に要所要所で読み直す、チェックすることができてやはり便利だ。現地に関する基本知識を学び直し整理するのに役立った。

 本書の基本構成コンセプトについて繰り返しになるがまずご紹介しておこう。
  *ブラタモリの番組放映のテーマについて、番組の流れに沿って論点を説明。
  *番組では語り尽くせなかった部分の補足説明(番組出演した研究者等のVOICE)
  *番組で採り上げた地域の観光スポットのガイド
  *同行アナウンサーの番組裏話 本書は近江友里恵さんのトーク
である。

 本書から私が学んだ要点を私なりに整理し覚書としてまとめてみたい。それが本書を開いてみようという誘いになれば幸いである。
 このシリーズの面白味はこれらの要点がどのようなアプローチで解き明かされていくかにある。番組の語り口調を思い出させ、読みやすい本文の流れと説明により写真やイラスト図のビジュアルなサポートにつながり放送番組の雰囲気を思い出させてくれた。
 基本知識の大凡の要点だけであるが、ご紹介しよう。

<名古屋>
テーマ1「尾張名古屋は家康でもつ?」
*室町時代以降、尾張の中心地は清洲(名古屋の北西約6km)だった。家康が名古屋を築く。
*名古屋城は「象の鼻」形の舌状台地の北端部に築城された。南の再突端部に熱田神宮が存在
 交通の重要拠点である熱田(港町)と連関する構想で家康は名古屋城と城下町を築造した。
*名古屋城の延べ床面積は日本一。高さは江戸城、大坂城に次いで全国3位。
 現在の天守は昭和34年(1959)の再建。焼失前の天守の姿を忠実に再現している。
 天下普請による築造。石垣を担当した大名により使われた石の種類が違う。
 城は北と西に低湿地が広がる。南と東に水堀と搦手馬出の空堀で防御。守り強く攻めにも強い。
*名古屋は平和の時代を見越した町づくりとなっている。町人地が現名古屋の中心地に。
 名古屋城の南に町人地、その南が武家地。町人地は1辺およそ100mの碁盤割の城下町
 町家の出入口は東西南北のすべての通りに面する形の町割に。中央に空き地ができる形
 江戸時代、真ん中のスペースに寺や神社が立地、または空き地(町家の共有地:会所→閑所)
  ⇒清洲から数万人の町人を共同体のままで移住させた。清洲の地名が名古屋の地名に。
*熱田と名古屋城を結ぶ「堀川」(運河)を台地の西側「ヘリ」に沿って南北に開削
  ⇒幅20mほどの堀川は高潮の影響を受けない台地斜面の少し高いところに造られた。   
名古屋と熱田の南北の距離は約7km。物資運搬の重要交通水路が確保される。
   堀川沿いは木材の巨大な集散地となる。名古屋の発展にも寄与した。
   また、熱田は明治40年(1907)に名古屋市に編入されるまでは独自の地位を維持
*江戸時代の東海道は、熱田の「七里の渡」と桑名間は海路を交通路とした。
  ⇒濃尾平野は西の養老断層へ沈む形で傾き、西側は木曽三川の集る交通障壁地域
   木曽三川(揖斐川・長良川・木曽川)の集結で氾濫や流路変化の発生する地域

テーマ2「名古屋が生んだ”ものづくり日本”とは」
*「都道府県別製造品出荷額等」は平成26年(2014)に43.8兆円。38年間連続日本一
  ⇒自動車、鉄道車両、航空機、人工衛星、陶磁器等
*堀川の河口近くに白鳥貯木場ができ、木材産業発祥の地に。木材加工製造業が発展。
 伝統的な木材加工技術のひとつ「からくり人形」の技術が機械製造技術に応用される。
  ⇒事例:からくり人形の「カムの原理」の応用として豊田佐吉の発明による自動織機   
佐吉の自動織機・紡績機の成功が、息子・喜一郎の自動車製造創業の土台になる。
*名古屋城の外堀に敷設された瀬戸電気鉄道(瀬戸電)が瀬戸の陶磁器を輸出品に。
  ⇒瀬戸で白無地の陶磁器を焼き、名古屋北西部で絵付け。瀬戸電・堀川経由で出荷
   昭和40年代まで、陶磁器は名古屋港の輸出品のトップだったという。
*産業振興のために昭和5年(1930)、堀川の西に閘門式の中川運河がつくられた。
  ⇒上流は笈瀬川、下流は中川と呼ばれていた自然河川を人工の運河に変換
   最大川幅91m、狭いところで60m以上。昭和39年(1964)が利用のピーク(年間75,000隻)
*名古屋市東部の丘陵部には450年代後半の焼物出土。それ以降焼物づくりがつづく。
 ものづくりのルーツに。東山動植物園の植物園内で鎌倉時代初期の登り窯址が発見された。

<岐阜> テーマ「岐阜は信長が夢見た”平和の都”!?」
*岐阜城のある金華山の地質はチャート。強固な地盤が城を支え「魅せる城」だった。
 2つの頂の間に二段の石垣を築き、巨大要塞に見せた。無用な戦いを回避するため。
*信長は長良川での鵜飼の席を「接待」に利用し、敵対する相手との友好関係形成を図る。
*信長は山の麓に壮麗な館と庭園を造った(「織田信長公居館跡」)。
 巨大な岩盤はチャートの褶曲を見せるために人工的に削られ庭園の景色に組み込む。
 2本の人工の滝、4階建ての豪壮な建物が建てられていたと推定できるとか。
*信長は特産品の美濃和紙を書状に用い、平和外交・コミュニケーションの道具に使う。
*川原町には長良川の水運を利用した川港があった。美濃和紙を利用した工芸品、岐阜うちわ
*現在の岐阜元町付近が楽市楽座の発祥の地。信長の平和政策の象徴である。
*信長は稲葉山城を得て、町の名前「井ノ口」を「岐阜」に改称。城名を「岐阜城」に。 
岐阜のいわれは中国の岐山と曲阜という地名にあるという。「岐」+「阜」
  ⇒岐山:中国に太平をもたらした周の文王を生んだ地。曲阜:学問の祖・孔子を生んだ地
   尾張の政秀寺の禅僧、沢彦宗恩の進言「岐山・岐陽・岐阜」から信長が選んだという説も。

<彦根> テーマ「なぜ家康は”彦根がイイ”と思った?」
*江戸時代、徳川家康が井伊家に彦根城を築かせた。
 琵琶湖と鈴鹿山脈に挟まれた狭い場所に位置し、中山道や北国街道などの通る交通の要衝地。
*井伊直政は当初佐和山城に入った。井伊直政の死後、長男直継が継承。
 家康が後見し、家老の木俣氏が主導し彦根城築城が開始された。
 彦根城の築城にあたり、石垣の石をはじめ多くの部材が佐和山城から運び込まれた。
*彦根城は豊臣方の西国大名に対する鉄壁の防御かつ大坂を攻める拠点を意図した。
 城の北側には内湖、西側は琵琶湖。南側と東側を強固にするだけで鉄壁となる。
 「鐘の丸」は二段の石垣で防御。大手道は直線的で緩やかな長い坂道(じんわり疲労)。
 狭い袋小路状になった大堀切、天守閣の破風に普段は穴を塞ぎ白壁に隠した狭間など。
*大手道がまっすぐなのは、城下町の人々に見せつけ、その先にある立派な天守により権威を示すという意図もあったと思われるとか。
*城の北側の内湖は船着場としても利用され、物資を運ぶ良港として機能した。米の運搬。
*城の南側の芹川を人工的に付け替え、琵琶湖にまっすぐに流れ込む川にした。
 三重の堀と芹川で湿地帯の排水をし、人が住める広大な土地に転換。
*芹川の近くに、京の非常事態に備え京都守護の役割を担う足軽の足軽屋敷の地域をつくる。
*城下町の道は意図的にズレを作り、角に辻番所を設け、監視を足軽の仕事に。
 足軽はその他、石垣の修理、川の工事、城の警護など。一方で、弓や鉄砲の鍛錬も。
*彦根の伝統産業、仏壇製造は、江戸時代に武具や武器の製作職人が仏壇製造に転向したのが始まりといわれる。技術の共通性:漆、金具、金箔など。
 ⇒彦根の仏壇は工部七職が各工程を担当し、最後に組み立てて完成させる。
  木地師、宮殿師、彫刻師、漆塗師、金箔押師など7人の職人。熟練の技の結合と統合。

 私が理解したのはこんなところ。本書を開く誘いになれば幸いだ。テーマに対するアプローチの仕方と説明の語り口調や写真、イラスト図とのコラボレーションを楽しんでいただきたい。

 ご一読ありがとうございます。

本書に関連した事項をネット検索してみた。一覧にしておきたい。
名古屋城 公式ウエブサイト
名古屋城  :ウィキペディア
熱田神宮 ホームページ
岐阜城 信長が天下統一を目指した町 みちしる :「NHK」
岐阜城  :「岐阜市」
岐阜城 :「岐阜市漫遊」
岐阜城  :ウィキペディア
信長の夢の跡  :「ぎふの旅ガイド」
国宝彦根城 公式ウエブサイト
彦根城  :ウィキペディア
足軽屋敷 :「彦根文化遺産」
伝統工芸 :「彦根文化遺産」

    インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。

(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)

こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『ブラタモリ 3 函館 川越 奈良 仙台』 角川書店
『ブラタモリ 7 京都(嵐山・伏見)志摩 伊勢(伊勢神宮・お伊勢参り)』 角川書店
『ブラタモリ 10 富士の樹海 富士山麓 大阪 大坂城 知床』  角川書店
『ブラタモリ 13 京都(清水寺・祇園) 黒部ダム 立山』  角川書店
『ブラタモリ 16 富士山・三保松原 高野山 宝塚 有馬温泉』  角川書店