遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『世界の教会』 写真・ピーピーエス通信社 パイ インターナショナル

2013-10-21 10:05:33 | レビュー
 本書は2つの意味でコンパクトな本である。
 1つは、本のサイズが15cm×15cmと小さい。
 2つめは、世界各国に所在するキリスト教の教会が国名・教会名称だけを表記した写真の集積としてぎっしり掲載されている。世界各地から160の教会が採り上げられている。ただし、日本の教会は入っていない。
 巻末に、「キリスト教が示す、かたちの生命力」と題する五十嵐太郎氏の4ページの解説文が載るだけである。これもまたコンパクトだが内容は濃い。
 そして、それぞれの写真が多分プロの写真家の目から見て、その教会のベストと判断した景色・風貌を撮っているのだろう。中には教会内部の写真として提示されているものが含まれるが、そのほかは教会が立地する場所の風景全体が撮られている。季節は様々である。その教会を表すのにベストの季節・時刻が選ばれているに違いない。全体として様々な季節感の写真を楽しむことができる。

 この写真集を通覧した感想を箇条書きにしてみたい。
1. なんと固定観念にはまった教会の外観イメージに囚われていたか!
2. 教会って、カラフルな外観もありなんだ!
3. キリスト教もその国、場所の風土と融合して受け入れられていくのだろうな。

 そこで、少し感想の各論を述べてみたい。

 1について
 「キリスト教の教会」という言葉を耳にしたときに自動的に想起するイメージが、如何に固定観念に囚われているものであるかということ。
 私がすぐに思い浮かべてしまうのは、中世ゴシック様式の尖塔が並ぶ教会だ。ミラノのドゥオーモ(イタリア)、ウエストミンスター寺院(イギリス)、パリのノートルダム大聖堂(フランス)など。そして、ロシア正教会のあのネギボウズ形の塔を持つ教会。そう、あのロシアの聖ワシリイ大聖堂。さらに、大きくて荘重なドーム型が目に飛び込んでくる教会。バチカンのサン・ピエトロ大聖堂、ロンドンのセント・ポール大聖堂およびヴェネチアのサン・マルコ大聖堂である。そして、特異な形として、未だに建築が続いているというサグラダ・ファミリア(スペイン)。あのガウディが構想したという教会。それくらいのパターンにしかすぎない。
 自動的に既成概念の枠組みに囚われてしまう。

 だが実際には、建築の外観は様々なものが世界には存在するということなのだ。所変われば、形が変わる。
 本書に掲載の教会から、私がおもしろいと思い、ネット検索してみて入手できた教会写真を3つ引用してご紹介しよう。ご関心のある向きには、ハイライト文字をクリックしてみてほしい。様々なソースなので、掲載写真以外は筆者に応じてバラエティに富む記事内容になっているけれど。
 Phat Diem Cathedral, Ninh Binh
 Gallarus Oratory ← アイルランドのディングル半島に所在。祈祷堂
 Chapel of the Holy Cross (Sedona, Arizona)
    聖十字架礼拝堂(チャペル・オブ・ホーリークロス)
   
 2について
 世界にあるキリスト教の教会の建物自体が、如何にカラフルな建物として存在しているかということ。
 フランス、ドイツ、イタリアなどで見る石造建築の教会は、荘重で重圧感があるが、一種モノトーンであり、時には陰鬱さに繋がる外観でもある。ロシアのは例外なのだろう・・・という既成概念が吹っ飛んでしまった。

 世界に布教伝道されて各国に根付いていった教会は、その外観の形とともにその色調もその土地土地の人々の感覚に合ったものとして、つまり、その国、場所の風土に適応した形で、形成されていったのだという気づきである。その土地の人々を惹きつける色調が使われているということか。

 同様に、本書掲載の3つをネット検索してみた。
 Church of St. George ギリシャのサントリニ島所在の教会
 Iglesia Curaco de Velez, Isla de Quinchao
 Church of St. Barbara

 3について
 キリスト教そのものが、その内部においてやはり様々にその解釈、信仰が分派して行くとともに、世界各地のそれぞれが布教伝道されていった。そして、その土地土地でさらにその土地の人々に理解され受け入れやすいように、その土地の風土や考え方と融合あるい統合し、変容する側面があるのではなかろうか。一神教といえども、やはり金太郎飴ではありえないのではないか。教会の建物という外観の表象がその一端を表していると、勝手に思ってしまう。仏教がその伝播につれて、様々に変容を加えながら採り入れられて行ったように。

 そんな風土の影響を受けるかもしれないな・・・・と、あくまで写真から感じる教会を3つ引用しよう。
 St. Nicholas' Church, Bratislava チェコ
 Rock-Hewn Churches Lalibela  エチオピア
  Church of Santa Maria Tonantzintla メキシコ

 教会の建物の外観とその風景を見ていると、様々に思いが広がっていく。
 

 最後に、本書巻末の解説文にふれておこう。わずか4ページの小論であるが、キリスト教会建築様式の変遷を本書に掲載の写真事例と絡めて、簡潔に説明している。この4ページを読むだけで、建築様式の変遷とその指向性、思考性の骨格を学べると思う。教会建築史入門編としては、大変便利だと思う。
 教会平面のバシリカ式(長方形プラン)と集中式(円や多角形)のタイプ分類とその目的を加えながら、初期キリスト教時代の様式、ゴシック式様式、ビザンチン様式、ロマネスク建築様式、古典主義様式、バロック様式の変遷を説明し、鉄とコンクリートの出現で、さらにデザインの新たな可能性が追求されてきたことに触れている。

 また「異なる気候や環境において現地の自然素材でつくられる建築は、どうしても地域性を生む。・・・方言として各地の教会は、様式の遺伝子を受け継ぎながら、さまざまな変質を起こし、われわれに形の生命力を感じさせる」と記している。
 小論著者は、プロテスタントの分離と建築の関係を除いて、キリスト教の教義や宗派(?)面のことには言及していない。しかし、この引用した文は、現地の風土、伝統的思考や信仰形態、中核になる教義という遺伝子という言葉に置き換えて読むと、各地での風土を踏まえた信仰の生命力という風に理解しても不自然さを感じないと思う。
 こんなことを考えることそのものが、仏教史的視点を投影していることになるのだろうか。

 形のあるもの、建築物としての形に具象化された教会から、信仰、教義のありかたという形のないものに思いを及ぼすということも興味深い。まずは、教会の既成概念を打ち壊す契機を与えてくれることになった本でもある。

 キリスト教徒であるなしに関わらず、あなたはどのタイプの教会に関心を抱きますか?

ご一読ありがとうございます。

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本書に関連する語句をネット検索してみた。部分的にしている用語や教会についても、再認識できる機会になった。検索結果を一覧にしておきたい。

バシリカ :ウィキペディア
ロマネスク建築 :ウィキペディア
ビザンチン様式 家とインテリアの用語がわかる辞典の解説 :「コトバンク」
ゴシック建築 :ウィキペディア
ルネサンス建築 :ウィキペディア
バロック建築  :ウィキペディア
新古典主義建築 :ウィキペディア

聖ワシリイ大聖堂 :ウィキペディア
St. PAUL's CATHEDRAL ホムページ
 
ギリシャ正教 :ウィキペディア
正教会 :ウィキペディア
カトリック :ウィキペディア
カトリック教会 :ウィキペディア
プロテスタント :ウィキペディア

アントニ・ガウディの作品群 :ウィキペディア
 

序でに、日本にある教会の建築事例を見ておこう。(「まっぷる イチオシ」)本書の内容と関係はないけれど、関心の波紋の広がり・・・。

大浦天主堂  日本最古の木造ゴシック様式教会
カトリック馬込教会 長崎市 白亜のゴシック様式教会
鶴岡カトリック教会天主堂  東北最古のロマネスク様式教会
大江天主堂 天草市 ロマネスク様式、白亜の教会
 長崎県にはロマネスク様式の教会が数多く存在する。一例として。
日本基督教団大阪教会 ヴォーリズ設計、ロマネスク様式の教会
函館ハリストス正教会 ギリシア正教会聖堂
ニコライ堂(日本ハリストス正教会教団東京復活大聖堂教会) ビザンチン様式の聖堂
日本キリスト教団弘前教会  日本最古のプロテスタント教会
カトリック松が峰教会 日本一の大谷石建造物
旧軽井沢礼拝堂 英国国教会の伝統を受け継ぐ教会
頭ヶ島天主堂 長崎県・新上五島  信者の切り出した石による石造り教会
キリシタン洞窟礼拝堂 大分県竹田市 キリシタン弾圧の歴史


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