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『史記』張釋之馮唐列伝

2019-04-13 11:00:08 | 四書解読
張廷尉釋(セキ)之は、堵(シャ)陽の人なり。字は季。兄仲有りて同居す。訾を以て騎郎と為り(集解:如淳曰く、漢儀注に、訾五百萬は常侍郎と為るを得とあり。「訾」は「貲」に通じ、積財、家財のこと)、孝文帝に事う。十歲調ぜらるるを得ず(官位が昇進しなかった)。名を知らるる無し。釋之曰く、「久しく宦して、仲の產を減じて遂げず。」自ら免歸せんと欲す。中郎將袁盎、其の賢を知り、其の去るを惜しみ、乃ち釋之を徙して謁者に補せんことを請う。釋之既に朝し畢り、因りて前みて便宜の事(国家や国民を利する政策)を言う。文帝曰く、「之を卑くせよ。甚だしく高論すること毋く、今に施行す可からしめよ。」是に於て釋之、秦漢の閒の事、秦の失いし所以にして、漢の興こりし所以の者を言うこと、之を久しくす。文帝善しと稱す。乃ち釋之を拝して謁者僕射と為す。釋之從行し、虎圈に登る。上、上林の尉に諸々の禽獸の簿を問う,十餘問するに、尉左右に視て、盡く對うること能わず。虎圈の嗇夫(小役人)、旁從り尉に代わり上の問う所の禽獸の簿を對うること、甚だ悉くす。以て其の能を觀(しめす)さんと欲し、口對響應し、窮する者無し。文帝曰く、「吏は當に是くの若くなるべからざるか。尉は賴む無し。」乃ち釋之に詔し、嗇夫を拝して上林令と為さしめんとす。釋之之を久しくして前みて曰く、「陛下以うに、絳侯周勃は何如なる人ぞ。」上曰く、「長者なり。」又復た問う、「東陽侯張相如は何如なる人ぞ。」上復た曰く、「長者なり。」釋之曰く、「夫の絳侯・東陽侯は、稱して長者と為すも、此の兩人、事を言うに、曾て口より出だすこと能わず。豈に此の嗇夫の諜諜として利口捷給なるに斅わんや(「諜諜」は、ペラペラしゃべる貌、「利口捷給」は、口達者で素早く応対すること、「斅」は、「效」に通じ、“ならう”と訓ず)。且つ秦は刀筆の吏に任ずるを以て、吏爭いて亟疾苛察(素早い処理能力と微細な知識)を以て相高しとす。然して其の敝は徒に文具わるのみにして、惻隱(あわれみいたむ)の實無し。故を以て其の過ちを聞かず、陵遲(次第に衰微していくこと)して二世に至り、天下土崩す。今、陛下、嗇夫の口辯なるを以てして、之を超遷せんとす。臣、天下の風に隨うこと靡靡として、爭いて口辯を為して、其の實無からんことを恐る。且つ下の上に化するは、景響よりも疾し(エイ・キョウ、光と影、音と響きのように、その反響が速いこと)。舉錯(挙措に同じ、行い)は審まざる可からず。」
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