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『呉子』料敵第二 第二章

2020-10-04 12:27:51 | 漢文
第二章
呉子は言った、「およそ敵情をはかり考えるうえに於いて、卜筮に頼らずに敵と戦ってよい場合が八つある。第一は、疾風厳寒のときに早く起きて目覚めとともに移動して、冰を砕いて川を渡り、部下の困難をかえりみないような敵。第二は、真夏の炎天下に遅く起きて休む暇もなく行軍して空腹で喉も乾いているのに、遠方に行こうとしている敵。第三は、軍が久しく戦場に留まり、食糧も尽きてきて、人民の間に怨みや怒りが充満し、不吉なことがしばしば起こり、将軍もどうしてよいか分からずにいる敵。第四は、物資が既に尽き、薪や牛馬の飼料も残り少なく、長雨が続き掠奪して補給するにも略奪する所も無く困窮している敵。第五は、兵士の数が少なく、水の便や地の利も悪く、人も馬も流行病にかかり、周囲の国から援軍も来ない敵。第六は、道は遠く日暮れになって、兵士たちは疲れおののき士気が低下していうるうえに食事もせず、武装を解いて休んでしまう敵。第七は、将軍に威厳が無く武将の権力も軽く、そのため兵士たちに団結力がなく、三軍の兵たちも些細なことで驚きあわてて、互いに助け合うこともしない敵。第八は、陣形がととのっていない、宿営してもその準備が終わっていない、坂道や険しい所を行軍して半ばは先に進み半ばは遅れて互いの連絡が取れていない敵。このような敵たちは迷うことなく攻撃すべきである。卜筮に頼ることなく敵との戦いを避けてよい場合が六つある。第一は、国土が広く、人民たちは豊かでその人口も多い敵。第二は、君主が民を愛していて、恩恵が遍く行き渡っている敵。第三は、褒賞は誠実で、刑罰は明らかであり、褒賞・刑罰は適切な時期に行われている敵。第四は、功績の多少に従い適切な地位につけ、賢者を任用し、能力のある者を用いいている敵。第五は、兵力が多く、兵器や装備が優れていてよく整っている敵。第六は、周囲の国から援助があり、大国からの援助もある敵。この六者が、敵に及ばないようであれば迷うことなくこの敵を避けるべきである。以上のように戦うべき時は戦い、避けるべき時は戦わないと言うのは、所謂進んでよい時は進み、進むのが困難な時は退くと言うことと同じである。

呉子曰、凡料敵有不卜而與之戰者八。一曰、疾風大寒、早興寤遷、剖冰濟水、不憚艱難。二曰、盛夏炎熱、晏興無間、行驅飢渴、務於取遠。三曰、師既淹久、糧食無有、百姓怨怒、祅祥數起、上不能止。四曰、軍資既竭、薪芻既寡、天多陰雨、欲掠無所。五曰、徒衆不多、水地不利、人馬疾疫、四鄰不至。六曰、道遠日暮、士衆勞懼、倦而未食、解甲而息。七曰、將薄吏輕、士卒不固、三軍數驚、師徒無助。八曰、陳而未定、舍而未畢、行阪渉險、半隱半出。諸如此者、撃之勿疑。有不占而避之者六。一曰、土地廣大、人民富衆。二曰、上愛其下、惠施流布。三曰、賞信刑察、發必得時。四曰、陳功居列、任賢使能。五曰、師徒之衆、兵甲之精。六曰、四鄰之助、大國之援。凡此不如敵人、避之勿疑。所謂見可而進、知難而退也。

呉子曰く、「凡そ敵を料るに卜せずして之と戰う者八有り。一に曰く、疾風大寒に、早く興き寤めて遷り、冰を剖き水を濟りて、艱難を憚らざる。二に曰く、盛夏炎熱に、晏く興きて間無く、行驅し飢渴し、遠きを取るに務むる。三に曰く、師既に淹久して(注1)、糧食有る無く、百姓怨み怒り、祅祥數々起こり、上止むること能わざる。四に曰く、軍資既に竭き、薪芻既に寡く、天陰雨多く、掠んと欲するも所無き。五に曰く、徒衆多からず、水地利あらず、人馬疾疫し、四鄰至らざる。六に曰く、道遠く日暮れて、士衆勞懼し、倦みて未だ食わず、甲を解きて息える。七に曰く、將薄く吏輕くして(注2)、士卒固からず、三軍數々驚き、師徒助くる無き。八に曰く、陳して未だ定まらず、舍して未だ畢らず、阪を行き險を渉り、半ば隱れ半ば出づる(注3)。諸々の此の如き者は、之を撃つこと疑う勿れ。占わずして之を避くる者は六有り。一に曰く、土地廣大にして、人民富衆なる。二に曰く、上、其の下を愛して、惠施流布せる。三に曰く、賞信に刑察かにして(注4)、發すること必ず時を得たる。四に曰く、功を陳ねて列に居らしめ(注5)、賢に任じ能を使う。五に曰く、師徒の衆く、兵甲の精なる。六に曰く、四鄰の助け、大國の援けある。凡そ此れ敵人に如かずんば、之を避くること疑う勿れ。所謂可を見て進み、難を知りて退くなり。」

<語釈>
○注1、「淹久」は、久しく留まること。○注2、「「薄」は、威厳がない意。「吏」は、官吏であるが、戦場に於いては武将になる。「輕」は、権力が軽いこと。○注3、「隱」は、後ろの方に隠れることで、後れる意。「出」は前に出ることで、先に進む意。半ば後れ半ば先に進み互いに連絡が取れないこと。○注4、「察」は、「明」の意で、“あきらか”と訓ず。○注5、「陳功」は、功績の大小で並べること、「居列」は、適切な地位に居らせる事。

<解説>この章の趣旨は、勝てる敵とは戦い、負けるような敵とは戦わないということである。孫子も形篇で、「勝兵は先づ勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵は先づ戦いて而る後に勝ちを求む。」と述べている。戦いに勝つためには先ず勝利の条件を整えてから戦うことで、そうすれば負けることはないというのであるが、何となく絵空事のような気がする。

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