「すべての社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。
当社は今までに数多くの企業にお伺いして研修を行ってきましたが、次のような「要望」を受講者から受けることが何度かありました。それは「答えを教えてください」ということです。研修では、答えそのものよりもそこに辿り着くまでにいろいろと考えることが大事だと伝えています。しかし、そんなことはおかまいなしに「答えを教えてください」と言ってくる方がいます。
先日、財務会計の研修を行ったときにある受講者から「先ほど先生が使ったExcelのファイルをください」と言われました。そのファイルには損益分岐点をシミュレーションするための関数とグラフ、100個ほどの数値データが入っていました。
私は「残念ですが差し上げることはできません。それよりも、テキストを読み返して先ほど説明した手順でご自身で作ってみてください。損益分岐点の仕組みについて理解が深まりますよ」と言うと、「いや、仕組みはいいです。すぐに使ってみたいのでファイルが欲しいのです」と言いました。私は再度お断りました。
ところが、研修終了時に人事部門の研修担当者から「受講者がExcelデータを欲しいと言っているので、ください」と言ってきました。私は再度、受講者が本当に理解をするには自分で作ってみるのが最善の策です、と伝えました。それでも少し不満そうな様子でした。
要は「七面倒くさいことはいいから答えをよこしなさい。こっちは金を払っているんだから」という感じです。このように、お金を払う方が上の立場で請け負う方は下の立場だから言うことを聞け、ということは時々経験します。
しかし、お金を払っているのは受講者でも人事部門の担当者でもありません。会社です。会社が従業員のスキルアップのために研修会社にトレーニングを依頼しているのです。依頼された研修会社の講師は、最も効果の上がる方法でその依頼に応える責任があります。プログラムを考え、試行錯誤した成果を基に研修を行うのです。ですから当社の財務会計の研修で「答えだけを教える」ことは顧客が依頼してきた仕事上の責任を放棄することになります。
先ほどの損益分岐点に関しては、次のように「要望」されたご本人に伝えました。「研修で十分理解できなかったようですので、必要ならメールを使って補習をします。わかるまで何度でもお付き合いします」
さて、その後どうなったかと言うと1度も依頼のメールは来ませんでした。
人事部門の研修担当者の皆様に申し上げます。答えだけを求めているのでしたら市販のソフトや書籍を買って与えれば良いでしょう。研修講師は、受講者が答えを導く過程で多くの気づきを得てもらえるよう最善の努力を行っています。それが仕事を受けた者の責任であると信じているからです。