「すべての社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。
「うちの社員は会議中、おとなしいので困る」
これは先日、私が定期的にお会いしている、ある中小企業のM社長からお聴きした言葉です。詳しくお聴きすると、会議ではその日の議題に基づいたテーマを社員が交替で発表する形で進めているそうです。これは、様々な社員にファシリテーターを経験してもらいたい、また会議の場で積極的に意見交換を行ってもらい、今後の業務をよりよく進めるための一助にしたいという社長の考えにより、このような方式を取り入れることになったのだそうです。
しかし、実際にはなかなかM社長が当初想定していたような成果は得られていないとのことでした。この方式を取り入れて既に1年が経過しているそうですが、多くの社員がファシリテーターを経験したものの、会議で積極的に発言する人は相変わらず少数であり、業務の進行にもプラスの影響は出ていないとのことでした。
そこでこの度、私もオブザーバーという立場で会議に参加させていただきました。その日のテーマは、「A業務について効率的な仕事をするためには、どうすればよいか」というものでした。
当日、私は会議の開始前に会社を訪問し、社員が会議の準備をする段階から立ち会わせていただくことにしたのです。準備段階では複数の社員が机の配置を整えたり、プロジェクターの準備を行ったりするなど手際よく進めていましたので、会議をやりなれていることがわかりました。また、準備は社員が協力し合い、活発にコミュニケーションを取りながら行っていましたので、社内の活発な雰囲気も感じていました。
その後会議がスタートし、ファシリテーターの進行のもとテーマに関する発表をある社員が始めました。発表を聴くと、事前にそのテーマに関して入念に準備をしていることが分かるようなしっかりした内容でしたので、私は聴き入っていました。
ところが、そのときです。開始わずか3分後くらいに「まどろっこしい説明だ!聴いていられない。続きは私が説明する」という大きな声が発せられました。
声の主はM社長でした。その後、社長はいきなり大きな声で話を始めましたが、それはもう社長の独壇場で話は延々と続きました。その間、ファシリテーター、発表者、その他の社員は一様に「またか」という表情になっていました。「うちの社員は会議中、おとなしいので困る」とM社長が言っていた原因は、まさにここにあったのです。
つまりは、ファシリテーターが場を進行しようとしても、発表者が丁寧に準備し一生懸命に説明しても、社長が聴く耳を持たずに自分で会議を仕切るようなことになってしまうと、ファシリテーターも発表者も聴き手も会議の場にいる意味がなくなってしまいます。そして、社員からすれば、どうせ自分たちがやっても満足できないのだから、初めから終始社長が仕切ればよいでしょうということになっていまい、やる気も失われてしまうということになってしまうのです。
私がファシリテーター研修を担当させていただく際の受講者には中堅社員が多いのですが、実は社長や管理職などの権限を持っている人こそ、ファシリテーターの意味や役割をきちんと学ぶべきだと思うことが少なくないのです。
社長や管理職の方々で、会議や自分との会話で部下があまり話をしないと感じていらっしゃるのであれば、一度自分が部下の話を遮ってしまっていないか、話しにくくしていないか、振り返ってみる必要があるかもしれません。