Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「クロワッサンとベレー帽―ふらんすモノ語り」鹿島 茂

2010-04-28 21:40:18 | book
クロワッサンとベレー帽―ふらんすモノ語り (中公文庫)
鹿島 茂
中央公論新社

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「クロワッサンとベレー帽 ふらんすモノ語り」鹿島茂
中公文庫


ツイとものきぃさんにお借りしたパリ関連本。
仏文の教師である著者はどうやら筋金入りのフランスおたくらしく、いままで知らなかったけれどもフランス関連本をはじめとして幅広く大量の著作がある。こういう精力的な活動のできる人がうらやましい。

***

この本は大きく3つの章から成っている。

第一の章は「ア・プロポ」A propos(~について)と題し、世の中の雑多なものごとをひたすらフランスとの関連という切り口で紐解いてみる。
これがすごい勢いで、それぞれが比較的短い文章で歯切れがよい。

挙げられている項目はざっとこんな感じ。

フランスパン、カフェ・オ・レ、ハンカチ、石鹸、産着、ベレー帽、ジャム、クレヨン、メリヤス、マーガリン、リボン、サクランボ、ブラジャー、コック帽、シロップ、ランプ・シェード、紅茶、メリーゴーラウンド、スリッパ、ポテトフライ、乳母車、ソフト帽、トランク、毛糸、人台、クロワッサン、雨傘、公園の椅子とベンチ、四つ葉のクローバー、菊、身繕いセット、ボジョレ・ヌーヴォー、ゲートル、リュックサック、炭酸水、手袋、サンタクロース、ヤドリギ、砂糖、タバコ屋、ガレット・デ・ロワ、湯たんぽ、ヘアー・ブラシ、チョコレート、セーラー服、エスプレッソ、マッチ、絵葉書、フランス人形、チーズ

ふう。

何事も世の中奥深いもので、こうしたものたちについてもフランスの歴史的文化的背景に照らすと意外なことがわかったりするのが面白い。
フランスパンはなぜあの形であの大きさなのか、日本で見る産着のスタイルの発祥は?、ランプシェードはなぜフランスで発展したのか、フランスの代名詞的なクロワッサンのそもそもは?、れっきとしたフランス語であるクレヨンはしかしフランスにはないのだとか、などなど。

雑学といえば雑学だけれど、このように集まるとなにか茫洋とフランスの文化と言うか生活と言うか、そんな奥行きを感じることができるではないですか。パリ好きならばすらすらと読める。

また、ウンチク本といえばそうなのだけど、話がフランスもしくはヨーロッパの外に向かうと途端に手を休め、読者に向けて「ご存知の方がいたら教えていただきたい」とかいっちゃうあたりもほほえましい。



第2章「遠い昔と近い昔」では、やはりフランス的なるものについてその発祥を求めたり変遷を表したり、あるいはその消滅について綴る。
当たり前のことだがフランス的なもの、パリ的なものも時代とともに、その政治・経済的な変遷を背景にダイナミックに変わっていくのであって、そのダイナミズムをよく捉えている。それを大上段に構えるのではなく柔らかなエッセイでやってしまうのも小粋。

印象に残るのは、パリの連中が、どんな状況であれまず「自分は悪くない」と主張するのには、ヨーロッパ的合理性、ともかくある局面において合理的な説明をすることが必要なのであって、正当性はそこにこそ立つのだという伝統に基づいた行動様式だ、ということを、雪の夜のバッテリー交換の苦行の中で悟るところだろう。とりあえず「すみません」「いやこちらこそすみません」というところから始まる日本人の感覚とはまるで違う。その違いに面食らいつつもそういうことを理解していくことに外国で暮らす意味というものがあるのだろう。

またここには、記憶が甦るときのあの神秘的な感覚が、フランス語の構造として表現されていることに情感たっぷりに思い至る「パリの<スー紅屋>」など、生き生きとした文章が魅力。

それと、パリ愛の特徴?というより、何かを愛するものの気持ちを見事にとらえた「だれのものでもないパリ」も。だれにでも「あなただけのもの」と語りかけるパリ。そこを愛するものは誰もが特別な自分だけのパリを持っている。そんな愛情について。



第3章「仏文顔」はうって変わって仏文と著者にまつわる雑感を集めたもので、フランス語を専門としつつもフランス語だけは上達しなかったとか、68年に大学入学したもののあの時代だけにまったく授業を受けず試験だけ受けて、それでも卒業し大学院に行ったこととか、フランス語を修得するにはこうすればよい(もしそうしていれば、上達していたのになあ)みたいな話とか。

ざっくばらん。

*****

鹿島氏の他の著作でもそうなのだけれど、文章は打ち解けて易しく、でも内容は学者肌で事実検証型。単に個人的な思いや経験を綴るエッセイとは一線を画し、常識的観念的なパリ観フランス観をことごとく打ち破っていく、その固定観念を払う姿勢に大変好感をもちましたね。

フランス関係の軽い本はどうも個人的主観的なものばっかだなあと思っていたので、面白い本があってよかったです。

ありがとう^^



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コメント
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