Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン」ホウ・シャオシェン

2009-08-18 23:18:12 | cinema
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ホウ・シャオシェンの レッド・バルーン
LE VOYAGE DU BALLON ROUGE
2007フランス
監督:ホウ・シャオシェン
製作:クリスティーナ・ラーセン、フランソワ・マルゴラン
脚本:ホウ・シャオシェン、フランソワ・マルゴラン
撮影:リー・ピンビン
出演:ジュリエット・ビノシュ、シモン・イテアニュ、イポリット・ジラルド、ソン・ファン、ルイーズ・マルゴラン 他

パリ・オルセー美術館の開館20周年記念事業の一環として製作されたということで、フランス資本による作品。中国生まれだけれど実質台湾の映画人である侯孝賢が、フランスでラモリス『赤い風船』のオマージュを撮る。よい時代なのかも。

作品は、ラモリス風孤独なファンタジーという感じはあまりなく、ホウ・シャオシェンらしく(といっても『百年恋歌』しか観ていないが)、明確なストーリーのない、演技者たちの自然な振る舞いを淡々と写し取る。ジュリエットもシモンもまったく素のようなしぐさや会話で、この自然さに仰天する。本当にこんな日常を彼らは生きているのではないか?という究極のフィクションを実現している。

カメラもほとんどがジュリエットたちの住むこじんまりしたアパルトマンの中を、ほとんど動かない位置で撮るばかり。これは『百年恋歌』でも見られたカメラ位置。動かない視野をつかのま行き来する人物たち。

あとは学校?帰りのシモンを迎えに行くシッターのソンが、二人でパリの街を歩く外の景色。ときおり画面をよぎる風船の動きだけが『赤い風船』のものだ。パリの街並みは変貌し、子供たちが走り回る喧騒に満ちた活気は感じられない。日本車が列を成して路上駐車し、子供は保護者の迎えを学校で待つようになったのだ。

ジュリエットはギニョル劇の弁士?をやっている。そのリハーサル風景もはさまれる。これまた、ジュリエット本職か?と思わせる名演である。共演する人形操者やクラリネットのひとは本職なのだろうけれど、なかなか面白いものだな。人形劇。

そのリハーサル会場をシモンとソンが訪れるのもまた日常的な雰囲気。こういうなんでもないことがよく記憶に残ったりするもんだ。そういう記憶は意味はなくても重要なものだ。きっとホウ監督はそういうことがわかっているのだと思う。

風船にかこつけて、ホウ監督は自分の撮りたいものをとったのだなあ。そんな感じ。

あと北京で映像を学びパリに来たというソンさんに、明示されない努力と才能を感じさせるところもうまかった。映像ではシモンと散歩しているだけなんだけどね。



ラモリス『赤い風船』のこと





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「オリバー!」キャロル・リード

2009-08-18 00:34:15 | cinema
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オリバー!OLIVER!
1968イギリス
監督:キャロル・リード
原作:チャールズ・ディケンズ
脚本:ヴァーノン・ハリス
音楽:ジョン・グリーン、ライオネル・バート
出演:マーク・レスター、オリヴァー・リード、ロン・ムーディ、シャニ・ウォリス、ジャック・ワイルド、シーラ・ホワイト、レナード・ロシター
振付:オナ・ホワイト

ジャック・ワイルド追悼上映会をいたしました。
何度か観ていますが、久々に観てなかなか感動的でした。途中ちょっとうとうとしちまいましたが^^;

贅沢なのは冒頭と中間のインターミッション、それからエンディングに、コンテ絵を流しつつ音楽を堪能できるところ。ミュージカル版は見ていませんが、これはオペラですね~「序曲」ではこれから聴けるであろう曲をコラージュしたわくわくさせる展開。インターミッションは前半の記憶を反芻するような感じ。そしてエンディングはまた余韻をじっくり味わうような、元気ながら哀調もたたえる感じ。贅沢ですな~

冒頭、モノトーンのイラストが実写に摩り替わると、そこは薄暗い地下の作業場で、巨大な粉挽き機を足で動かしている襤褸をまとった少年たち。何人もの汚い足で大きなローラーをまわすと、下では粉が袋に落ちてくる。重労働。埃っぽい汚く薄暗い。
孤児院の子供たちに与えられる食事は、思わず顔をしかめるようなドブ色の粥だけ。くじ引きでまけたオリバーは仲間にせきたてられて、粥のおかわりを要求する。理事たちの怒りを買ったオリバーは二束三文で売り飛ばされる。ここからオリバーの旅が始まった。

******

汚く埃っぽくじめじめして暗い。この感じは後にロンドンで流れ着いた下町にも徹底される。このセットのこだわりは、さりげないけれど徹底していてすごい。この徹底が中盤ブラウンロー氏に引き取られたときの清潔な環境と暮らしぶりとの対比を、視覚生理的に生んでいるのだろう。下町のフェイギンのアジトもなかなかに汚いし、入り組んでいる。朽ちた木でできた階段はラスト近く見事に崩れ落ちるのもさもありなんだ、

この汚さはワタシの映画的快感を誘発するらしい。汚い映画はかなり好きなのですね。先日の『砂時計サナトリウム』やシュヴァンクマイエル『ファウスト』『ルナシー』なんかを思いだしますが、あるいはリドリー・スコット『エイリアン』のエイリアン世界なども好きな感じです。そういうことでワタシはこの『オリバー!』が好きだったんだなと今回認識しました。

****

それと、冒頭の少年たちが暗い石段を列を成して降りてくるシーンはラング『メトロポリス』を想起させ、ラストの赤い夕日に照らされた町は『ファスビンダーのケレル』を思い出させます。ファスビンダーが『オリバー!』を参照しているとは思えないですけど(笑)、キャロルリードが『メトロポリス』を引用するということはありそうなことですね。

曲もなんだかハッピーな感じで、変に暗くなくていいですね。ポール・サイモンの『ザ・ケープマン』のような地味暗~なかんじもいいですけどね。
『オリバー!』ではハッピーなんだけど、洗練の極みとまでは行っていなくて、そこがまたいい感じです。編曲も展開がわかりやすくいいすね。ジャック・ワイルドふんするドジャーがオリバーを引き回す野外シーンでの「Consider yourself」での市場の群集が次々に群舞に加わっていくところは実に楽しいし、エンディングの「群集解散!」という演出もステキです。最近何かのコマーシャルにも流用されていたアイディアですね。

一番いい曲は、引き取られた葬儀屋でいじめにあって、閉じ込められた地下室でオリバーが歌う「Where is Love?」でしょうか。なかなか凝った曲です。つたなく歌う歌声は誰のものでしょうか?マークにぴったりです。
 

よき監督はよき動物使いである、というのも日頃感じていることですが、この作品にも魅力的動物君が出てきます。ビル・サイクスの相棒ブルゾイ?も、ナンシーを殺めた後にビルを非難するような駆け引きを見せて見事です。フェイギンが隠し財産を愛でるのを不思議そうに見るふくろうもいいですね。



ジャック・ワイルドは思っていたほど活躍はしませんでしたし後半はすっかりオリバー・リードに持っていかれるのですが、ダンスシーンではしっかり大人に混じって本気のステップを見せていましたし、ラストのフェイギンとのやりとりは助演男優賞ものでしょう。
マーク・レスターは難しい踊りのときはちゃっかり画面隅っこでおとなしくしていたりとご愛嬌な感じで、それがまた情けなくていいんだな(笑)

というわけで、ジャック16歳の、16歳に見えない子供ぶりを見せた演技でした。



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