Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「日本映画と戦後の神話」四方田犬彦

2008-02-15 22:56:29 | book
日本映画と戦後の神話
四方田 犬彦
岩波書店

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1 日本映画と戦後の神話
2 <1968>以降
3 韓国の眼差し
4 日本が沈没するまで


「パレスチナ・ナウ」末尾で、我々は日本の70年代について今後総括することが必要であると述べ、本書では「1968年以降」の章立てをした著者の最近書のひとつを読む。
ワタシは四方田さんが70年代をどう論じるかに興味があるのだ~。

という観点からすると、本書はそれほど期待に応えるものではなかったな。今、世界の少なからぬところで映画監督たちはこの問い(70年代とは何だったのか)に向き合おうとしている、と指摘しいくつかの事例を挙げるにとどまっている。
あ、なあんだ、四方田さんも期待しているんだ。誰か表現者が総括するのを。映画史家として取り上げるに足る的確な表現が登場するのを。


とはいえ、もちろん著者も、70年代を含む戦後の歴史に映画史家としてのアプローチを試みる。
戦後の映画史の事始として、1945年8月15日の表象を持ってくるところは慧眼ですね。戦後の始まりの瞬間であるということもそうだが、そもそもその認識が、繰り返し繰り返し作られた玉音放送を聴く国民という表象によって形作られたひとつの神話であるということも含めて、本書の語り起こしにこれほどふさわしい題材はないだろう。

思うに研究者というのは、そういう最適なトピックやターニングポイントを捉えるという才に長けていないといけないのだろう。ワタシは大学の卒論のときに、そういう才能にはとことん恵まれていないことを思い知り、大学院進学をあきらめたことがある。指導教官に、「今度題材選びを間違えたら、君には向いてないということだよ」と恫喝?されたことも今では自虐的喜びを伴うよき思い出に変質している。
時の流れとはかくも偉大である。

・・・などということはどうでもよく(汗)

8月15日が歴史的には必ずしも特権的な位置づけとなる必然性がないことを傍証したうえで、なぜに国民はこの日を決定的分水嶺と心に刻むに至ったかを映画史的に論じたのが最初の章。
著者は大島渚『体験的戦後映像論』での「敗者は映像を持たない」という感慨に触れながら、玉音放送を収録する天皇の映像がなく、音声による宣託であったこと、その映像の不在が8月15日を厳粛な儀礼空間にしつらえ、その後の新たな天皇制神話のスタートとなったのだと看破する。

映像の不在=神話の醸成という命題にあたり、同じく決定的映像に欠けるホロコーストについて嘆いたゴダールについて触れることも著者は忘れない。ゴダールが映像の解体・脱構築による怪作「映画史」で映像による世界神話の解体を目論んだように、日本の戦後史における神話についても、映像による解体が待たれているのかもしれない。


その現代的な兆しを著者はソクーロフの話題作『太陽』に見る。そこでは玉音放送の音声は、日本の運命を決する分水嶺の瞬間としては用いられず、エンドロール、バッハのチェロ曲とともにバックグラウンドで流される。本編中での極めてプライベートな人間天皇像と相俟って、この映画では玉音をローカルな国家のターニングポイントから、世界平和を訴えるメッセージへと変質していると著者はみる。
(それ以前に、この映画の公開自体が、そして公開時の世論の奇妙な静けさが、戦後から今に至るまで天皇の表彰が禁忌であった映画界において十分になにごとかの変節をあらわしているともいえるだろう。)

・・・とまあそんな調子で、映画史から説き起こして表象と心性という人間の問題に切り込み、神話の構造を解明しよう、というのが、この本の一貫したブレない動機である。

ときには「ほんまかいな?」と茶々をいれたくなるようなノリ一発な文章もあるのだが(例えば『春琴抄』は日本国民の代表的なメロドラマとしての地位を獲得した、とか断言してたりして、ほんまかいな?)、四方田さんの著作はそういう眉唾的姿勢を持って臨む緊張感を楽しむのが正解なのだ!と思ったりなんかして(笑)

***

他に、
李香蘭、ゴジラ、寅さん、狸御殿、ATG、三島由紀夫、山口百恵、村上春樹、韓国、在日朝鮮人、ヨン様、ドキュメンタリーの隆盛、
といった切り口で縦横無尽。
です。



体験的戦後映像論
大島 渚
朝日新聞社出版局

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ジャン=リュック・ゴダール 映画史 全8章 BOX

紀伊國屋書店

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