「ブラック家主・地主」横行
古い賃貸の住民恫喝、立ち退き要求
重機で“破壊”のケースも
「ブラック家主・地主」横行 古い賃貸の住民恫喝、立ち退き要求 重機で“破壊”のケースも
http://www.sankei.com/west/news/150826/wst1508260092-n1.html
「借りたもんは返せ」。土地・建物の賃借人に、そんな恫喝(どうかつ)まがいの文言で立ち退きを迫る「ブラック家主・地主」が問題化している。老朽化した住宅を取り壊し、収益物件の新築などで荒稼ぎを図ろうしているとみられ、再開発が進む大阪や五輪開催を控える東京を中心に被害が出ている。“現代の地上げ屋”に対抗しようと弁護士らが立ち上げた団体には、脅されるまま家を明け渡してしまったという相談も寄せられており、団体は注意を呼びかけている。
いきなり実力行使
兵庫県尼崎市のJR尼崎駅の南側にある住宅地の一角。壁の一部がブルーシートに被われた長屋がある。もともとは南北に9棟続きで並ぶ長屋だったが、家主の大阪市の不動産会社が空室だった南から2軒目と6軒目の2棟を重機で壊し、隣り合う4棟の壁がむき出しになったのだ。
不動産会社は5年前、個人が所有していた長屋の土地・建物を購入。間もなく住民に退去を迫るようになった。住民らは正当な理由のない立ち退き要求を認めない「借地・借家権」を根拠に協議を申し入れたが、会社側は拒否。昨年5月、住民の権利が及ばない空き家をいきなり壊し始めた。露出した壁の隙間からは雨漏りもしているが、会社側は「嫌なら出ていけばいい」などと修理に応じようとしないという。
駅周辺はここ数年、大型ショッピングセンターが誕生するなど再開発が進む。長屋の住民女性(74)は「私たちを追い出して、更地にした土地をマンション建設会社に売るつもりなのでは」と話す。
「築40年住宅」標的
バブル期には地価の高騰を背景に街区一帯の土地を暴力的に買収する「地上げ屋」が社会問題化した。これに対し近年は、建て替えや転売を目的に古い賃貸住宅や土地を買い取り、住民らに強引に立ち退きを迫る「ブラック家主・地主」が問題になっている。
今年4月にはトラブルに対応するため、弁護士や司法書士らが全国組織「生活弱者の住み続ける権利対策会議」を設立。6月には大阪、東京など全国4都市で同時に電話相談を行った。相談は大阪で54件、東京では20件が寄せられ、いずれも半数近くが家主や地主の立ち退き要求や嫌がらせに関する内容だったという。
団体の事務局長を務める増田尚弁護士(大阪弁護士会)によると、大阪には高度経済成長期に労働者向けに建てられ、築40年以上を経過した民間の共同住宅が多く、建物を取得した「ブラック家主」が高い収益を見込める高齢者向けマンションの建設などを目的に住人を追い出そうとするケースが目立つ。恫喝に耐えられず、立ち退き料も受け取らずに退去した相談者もいるという。
西は家主、東は地主
一方、5年後に五輪を控える東京では、バブル期のように地価高騰を見越し、居住者がいる土地を買収する「底地買い」が中心。家主によるトラブルが多い大阪と違い、地主が土地を明け渡すよう住民に要求する動きが横行している。
「借りたもんは返さなあかんやん。子供の時教えられへんかったか」「(土地を買う)金がなかったら返すんや。誰の土地や」
都内に住む男性の一軒家には昨年、地主が変わった途端に関西弁の男が押しかけてくるようになった。繰り返し恫喝されたが、警察に通報したり弁護士に相談したりした結果、男はようやく姿を消したという。
東京で被害者を支援する種田和敏弁護士(第二東京弁護士会)は「全国的に空き家の増加も問題になる中、今後トラブルは間違いなく増える。悪質な要求を受けたら弁護士などに相談してほしい」としている。