漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「矛ム」<やりほこ> と「務ム」「霧ム」「茅ボウ」「袤ボウ」「鶩ボク」

2021年09月12日 | 漢字の音符
 ム・ボウ・ほこ  矛部
 銅矛(弥生時代後期)東京国立博物館蔵

解字 鋭い両刃の穂先をつけた槍のような青銅製武器の象形。下の袋部に柄をさしこんで使う。金文第1字は、上の曲線が刃先、根もとの半環状のものは、飾り紐をつける耳といわれる部分と思われる。第2字は敄の金文から矛の部分を抜き出した。下の耳が左へも伸びている。秦(戦国)は金文の字形が全部耳になってくっついた形。下の第2字(敄から該当部分を抜き出した)は耳に点が入っている。説文解字第1字(古文)は金文第2字が変化した形に戈(ほこ)が付いている。戈がとれた第2字は説文解字の矛として確立し、漢代(隷書)をへて現在の矛になった。矛は「ほこ」の意で部首となる。また、ほこの意味で音符となるほか、発音のム・ボウで形声字となる。
覚え方 よ()の()ほこる(ほこ)は、盾(たて)を突きぬけ矛盾なし 「予+ノ=矛
意味 ほこ(矛)。長い柄の先に両刃の剣状刺突具をつけた武器。「矛盾ムジュン」(①ほことたて。②つじつまの合わないこと)「矛戟ボウゲキ」(戟は二つの刃先のあるほこ)
参考 矛は部首「ほこへん・むのほこ」となる。この部に属する字は非常に少なく、主な字は部首の矛以外に、矜キョウ・務・矞イツ、ぐらいしかない。このうち、務・矞イツ、は音符になる。

イメージ
 「ほこ・ほこさき」(矛・茅・袤)
 「形声字」(敄・務・霧・鶩)
音の変化  ム:矛・敄・務・霧  ボウ:茅・袤  ボク:鶩

ほこ・ほこさき
 ボウ・かや  艸部
解字 「艸(くさ)+矛(ほこさき)」の会意形声。矛先のような穂に長い柄のような茎がつく草。
意味 かや(茅)。ススキ・スゲ・チガヤなどの総称。屋根をふく材料となる。「茅葺かやぶき」(茅で屋根を葺く)「茅屋ボウオク」(茅葺きの屋根)「茅場かやば」(茅を刈る場所)
 ボウ・ながさ・ひろがり  衣部
解字 「衣(ころも)+矛(ほこ先)」の会意形声。矛は長い柄の先に両刃の剣をつけた武器だが、実際に描かれているのは矛先の部分。矛先は上部になるので、衣の帯から上の部分をいう。
意味 (1)帯から上をおおう衣。ゆったりした上着。 (2)ながさ。ひろがり。南北にわたって地をおおう長さ。東西の長さを「広」という。「広袤コウボウ」(よことたてのひろがり)「広袤千里コウボウセンリ」(東西と南北が千里もあるひろがり)「延袤エンボウ」(延はここで東西、袤は南北。よことたてのひろがり)「延袤万余里エンボウマンヨリ

形声字
 ム・ブ  攵部

解字 金文および秦(春秋戦国)は、発音を表す矛の下に人が描かれ、横に攴ボク(棒状のものを持ちたたく形)を配している。人を打つ形で発音はム。意味は必須ヒッス(必ず)となっている[簡明金文詞典]。字形は[説文解字]から人が省かれた敄となった。説文は「彊キョウなり」(つよい)としている。現代の中国の辞典は、①つよい。②古くは「劺ボウ」に同じで勉力(はげます・激励する)とし、日本の辞典は、「(務に通じ)つとめる」としている。おそらく最初の字形である人を打つかたちから、強いる⇒はげます⇒つとめる意がでてくると思われる。この字は現在ほとんど使われることがないが、務を解字するための重要な字形である。
意味 (1)つよい。彊なり。 (2)はげます。激励する。 (3)つとめる。
 ム・ブ・つとめる・つとまる・つとめ  力部

解字 秦(戦国)の第1字は、発音をあらわす矛ムに「人(ひと)+攴ボク」がついた敄で、はげます・つとめる意。第2字は、敄に力(気力)がついた務になった。力がついて、自身が懸命に、つとめ・はげむ意となり、つとめ・役目の意味でも用いる。この字形が説文解字から現在へと続いている。
意味 (1)つとめる(務める)。つとまる(務まる)。はげむ。はたらく。「務施フシ」(施しをつとめる)「勤務キンム」 (2)つとめ(務め)。やくめ。「業務ギョウム」「公務コウム」「任務ニンム
※「務める」は、その人の役目としての仕事をする。「勤める」は、会社などに雇われて仕事をする。
 ム・ブ・きり  雨部
解字 「雨(あめ)+務(ム)」の形声。ムは無ム・ブ(ない)に通じ、雨が無くなり細かい水滴となって空中にうかぶもの。
意味 きり(霧)。水蒸気が細かい水滴となり煙のように浮かんだもの。霧状のもの。「霧中ムチュウ」「五里霧中ゴリムチュウ」(広さ五里にわたる霧の中に居て、現状がわからないこと)「霧笛ムテキ」(霧の深い時に、船や灯台が鳴らす警笛)「濃霧ノウム」「噴霧器フンムキ
 ボク・ブ・あひる  鳥部

解字 篆文は「矛ム・ブ+攴ボク+鳥(とり)」の形成字。現代字は「鳥+敄ム・ブ」のム・ブ・ボクとなったが、発音が増えた。これは篆文で矛と攴が離れているため、発音が別個になったのであろう。攴ボク(打つ)の発音は、手で細い棒をもち鳥をたたいて小屋に入れたり出したりする「あひる」の意。矛の発音は(はせる)に通じ、かける意となる。
意味 (1)あひる()。「鶩列ボクレツ」(あひるのように並ぶ)「鶏鶩ケイボク」(ニワトリとアヒル。平凡な人のこと)「寧(むし)ろ黄鵠コウコクと翼を比ぶるか、寧(むし)ろ鶏鶩ケイボクと食を争うを為さんか」(私は、一挙に千里を飛ぶという黄色を帯びた白鳥(すぐれた人)の翼と競うのか、それとも鶏鶩ケイボク(凡人)と餌の争いをするのか) (2)かける。駆ける。早く走る。「馳鶩チブ」(はやく走ること)
<紫色は常用漢字>

<参考>
 ジュウ・ニュウ・やわらかい  木部
解字 「木(き)+矛(ほこ)」の会意。矛は鋭い両刃の穂先に長い柄をつけた武器で矛先をかたどった字。それに木のついた柔は、矛の柄の意で、柄にする木を矯(た)めて、まっすぐにすること。矯めるとき柄を曲げて調整することから、転じて「やわらかい」意となった。
意味 (1)やわらか(柔らか)。やわらかい(柔らかい)。「柔軟ジュウナン」「柔毛ジュウモウ」(2)よわい。しっかりしていない。「柔弱ニュウジャク」「優柔ユウウジュウ」(3)やさしい。「柔和ニュウワ」「柔順ジュウジュン」(4)やわらげる。てなずける。「懐柔カイジュウ
イメージ  「やわらかい」 (柔・揉・蹂・鞣)
音の変化  ジュウ:柔・揉・蹂・鞣
音符「柔ジュウ」を参照。

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。



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