漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「土ド・ト」と「徒ト」「吐ト」「肚ト」「杜ト」「社シャ」「圧アツ」「牡ボ」

2024年07月06日 | 漢字の音符
  土に万物を生みだす力があると認め、土をまるめて祀(まつ)る
 ド・ト・つち  土部 tǔ 
        
解字 甲骨文は土をまるめて盛った形の象形。単独では①土地(支配下の領域)②大地の神格、の意味で用いられている[甲骨文字辞典]。金文第一字は甲骨文字を引き継いだ形。第二字はタテ線に肥点のあるかたち。意味は、①祭土(=社やしろ)②地位、③田地。④国土、の意。篆文に至り、現代字とおなじ土になった。後漢の[説文解字]は「地(ち)之(の)万物を吐(は)き生(う)む者(もの)也(なり)」とする。古代人は土に万物を生みだす充実した力があると認めて土を祀った。また、神をまつる社(やしろ)の原字でもある。
意味 (1)つち(土)。「土砂ドシャ」「土地トチ」 (2)領有する土地「領土リョウド」 (3)地方。「土産みやげ」 (4)五行(木・火・土・金・水)のひとつ。五行説とは、万物は火・水・木・金・土の5種類の元素からなるという古代中国に端を発する自然哲学の思想。

イメージ
 「つち」
(土・徒・跿・圧)
 「土地の神」(社)
 「形声字」(杜・吐・肚)
 「同体異字」(牡)

音の変化  ド・ト:土・徒・跿・吐・肚・杜  シャ:社  アツ:圧  ボ:牡

つち
 ト・かち・いたずらに  彳部 tú 
  
解字 金文は「彳(ゆく)+土(つち)+止の変形:あし)」 の会意形声。「彳(ゆく)+止(=龰。あし)」は、足で歩いて行くこと。土は意味と発音トを表している。つまり徒は、土の上を足で歩いてゆくこと。金文は歩兵(徒歩で戦う兵)の意味で用いている[簡明金文詞典]。のち、車に乗るのでなく歩いて行くので、一般庶民・なかま・弟子などの意となる。また、土の上をはだしでぶらぶらする人に当て、役に立たない・いたずらに等の意味になる。※徒の右辺の走は、「走ソウ(はしる)」とは成り立ちが別の字。
意味 (1)かち(徒)。歩いて行く。「徒歩トホ」「徒渉トショウ」(歩いて川を渡る) (2)なかま。ともがら。「徒党トトウ」「学徒ガクト」「生徒セイト」(日本で中学生・高校生)(3)弟子。門人。「徒弟トテイ」「使徒シト」(4)(馬も車もないことから)何ももたない。「徒手トシュ」(手に何ももたない。素手)「徒手空拳トシュクウケン」(徒手をつよめる言葉。空拳はこぶしが空)(5)(はだしでぶらぶらする人から)役にたたない。いたずらに(徒に)。あだ(徒)。むだ(徒)。「徒食トショク」(むだに食べている。仕事をせずぶらぶらとして日々をくらす。)「徒労トロウ」(むだな苦労)「徒言あだごと」(実じつのない言葉。むだな言葉)(6)ただ(徒)。~だけ。「徒者ただもの」(普通の人)「徒者でない」(並みの人でない)
跿 ト・すあし  足部 tú
解字 「足(あし)+徒の略体ト(あるいてゆく)」 の会意形声。徒は土の上を歩いて行く意で、これに足をつけた跿は、はだし・すあしの意味を表す。
意味 すあし(跿)。はだし。はだしで土をふむさま。「跿跔トク」(すあし)。跔は寒さで足が縮こまる意。「跿跔科頭トクカトウ」(すあしで、すあたま。勇気ある兵士のたとえ。科頭とは冠や頭巾をかぶらない頭。科は蝌(おたまじゃくし)に通じ、丸いすあたまの意)
[壓] アツ・おす  土部 yā  
解字 「厂(がけ)+土(つち)」の会意。崖によって下の土が押さえつけられること。旧字は壓アツで、新字体は旧字の厂(がけ)と土(つち)を取りだした形。
意味 (1)おす(圧す)。おさえる。おさえつける。「圧迫アッパク」「圧力アツリョク」「鎮圧チンアツ」 (2)おさえつける力。「気圧キアツ」「血圧ケツアツ
※圧アツ音符「厭エン」にも重出した。

土地の神
 シャ・やしろ  ネ部 shè
解字 「ネ(示:祭壇)+土(土地の神)」の会意形声。土の神を祀(まつ)ること。
意味 (1)土地の神。くにのかみ。「社祠シャシ」(土地神とそれをまつる殿舎)(2)やしろ(社)。「やしろ」は屋代(やしろ)」であり、神の代わりとなる家屋、すなわち神社の意味である。「神社ジンジャ」「社殿シャデン」(3)神社を中心に組織される昔の社会制度。「社会シャカイ」(集落の住民の会合。のち、人の世の中の意) (4)ある目的・事業のための集まり。「結社ケッシャ」「会社カイシャ

形声字
 ト・はく  口部 tǔ・tù
解字 「口(くち)+土(トの音)」 の形声。口から物を吐く音をトで表した。後漢の[説文解字]は「寫シャ(はきだす)也(なり)。口に従い土の聲(声)」とする。
意味 はく(吐く)。「吐血トケツ」「吐瀉トシャ」(吐きくだし)「嘔吐オウト」(食べたものを吐く)
 ト・はら  月部にく dù・dǔ
解字 「月(からだ)+土(=吐の略体)」 の会意形声。吐くものがたまっている体の胃を意味した。のち、腹の意となり、これが主流となった。文語の腹フクに対し、白話(口語)から生まれた字。
意味 (1)はら(肚)。「肚裏トリ」(腹のうち。心のなか)「肚子トシ」(はら。おなか)「肚帯トタイ」(はらおび)「肚痛トツウ」(はらのいたみ)(2)い。いぶくろ。
 ト・ズ・やまなし・ふさぐ・もり  木部 dù
解字 「木(き)+土(ト)」 の形声。トという名の木で、中国では山野に自生する落葉果樹を指し、特に杜梨トリ(やまなし)をいう。また、堵(さえぎる)に通じ、ふさぐ意をあらわす。
杜梨トリ(中国のネット広告から)
意味 (1)やまなし(杜)。小さな実をつける野生の梨の木。杜梨トリ。=棠梨トウリ。(2)とじる。ふさぐ(杜ぐ)。「杜絶トゼツ」(ふさがり絶える=途絶)(3)姓。「杜甫トホ」(唐代の詩人)「杜氏トウジ・トジ」(酒を造る職人。酒を発明したとされる中国の杜康トコウの姓から)「杜撰ズサン」(いいかげんなこと。杜が撰(つく)る。中国の詩人・杜黙トモクの詩が作詩のきまりからはずれたものが多いことから)(4)[国]もり(杜)。神社のもり。「杜(もり)の都」(宮城県仙台市の愛称)

同体異字
 ボ・ボウ・おす・お  牛部 mǔ
    
解字 甲骨文の第一字は「牛+⊥(オスの性器)」で、牡牛(おうし)の意。第二字は羊、第三字は鹿にそれぞれ⊥(オスの性器)が付き、いずれも獣のオスを表す。金文から⊥→土に変化し牛のオスだけが残った。
意味 (1)おす(牡)。鳥獣のおす。対義語は「牝ヒン」。「牡牛おうし」「牝牡ヒンボ」(めすとおす)(2)ボの音。「牡丹ボタン」「牡蠣ボレイ・かき
紫色は常用漢字>

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