兌ダ・タイ・エイ・エツは、とらえどころのない音符である。その意味は多様で、また発音もさまざまだ。この音符に接すると、その多様性に圧倒される。私にとって「台ダイ」とともに最も難解な音符の一つである。今回、以前の原稿を書き改めたが、これで完成とは思っていない。
兌 ダ・タイ・エイ・エツ 儿部

解字 甲骨文字は「兄(唱える人)+八(わかれる)」の会意だが、意味は不明。金文は、「師兌シエツ」(師という官の兌)という形で人名を表している。戦国時代に入ると、その意味が急に拡がる。以下、ネットの「漢語多功能字庫」によると、①戦国竹簡で兌を悦(エツ)と読み、気晴らし・愉快の意。②また兌を脱(ダツ・タツ)と読み、脱ぐ・ぬける意。③また兌を説(セツ・ゼイ・エツ)と読み、説(と)く意になり、④さらに漢代の帛書では、兌を鋭(エイ)と読み、鋭い意で用いている。
なぜ兌は、このように多様な意味を持つのか?
一つはその文字の形である。甲骨文字から楷書まで「八+兄」の形は変わらないが、[字通]は、兌の八は神気の彷彿として下るかたちで、兄(唱える人=巫祝みこ)は神がかりとなり、脱我・忘我の状態となることから、脱ダツや悦エツの意味がでるという。もう一つは兌の発音の多様さである。タイ・エツ・エイ・ダなどの発音は、いつごろから形成されたのか不明であるが、この多様な発音から意味が分化したと考えられる。この過程を辿るのは難しく、兌のイメージは、戦国時代から分離した各文字のイメージを踏襲することにしたい。また、現在の兌の意味(交換する)は由来が不明なので仮借(当て字)とさせていただく。新字体で用いられるとき、兌⇒兑 に変化する。
意味 (1)かえる。交換する。「兌換ダカン」(両替)「兌銀ダギン」(両替)「兌換紙幣ダカンシヘイ」(金貨・銀貨などと交換可能な紙幣」 (2)漢代の帛書の意味から、するどい。「兌利エイリ」(するどい) (3)戦国竹簡の意味から、よろこぶ。「和兌ワエツ」(なごみよろこぶ) (4)戦国竹簡の意味から、ぬける。ぬけでる。とおる。 (5)戦国竹簡の意味から、とく(説く・かたりのべる)。 (6)易の八卦・六十四卦のひとつ。
イメージ
「仮借」(兌)
意味(2)から「するどい」(鋭)
意味(3)から「よろこぶ」(悦)
意味(4)から「ぬける・ぬけでる・ぬく」(脱・蛻・閲・梲・税)
意味(5)から「とく・かたりのべる」(説)
音の変化 エイ:鋭 エツ:悦・閲 ゼイ:蛻・税 セツ:説・梲 ダ:兌 ダツ:脱
するどい
鋭 エイ・するどい 金部
解字 「金(刃物)+兌(するどい)」の形声。金属の刃物の先がするどい意。なお、発音のエイは穎エイ(ほさき。先のとがる)に通じる同音代替ともいえる。
意味 (1)するどい(鋭い)。先がとがっている。「鋭角エイカク」 (2)つよい。勢いがある。「鋭意エイイ」(気持ちを集中する)「精鋭セイエイ」(えりぬきの強い者) (3)すばやい。さとい。「鋭敏エイビン」
よろこぶ
悦 エツ・よろこぶ 心部
解字 「忄(心)+兌(よろこぶ)」の会意形声。よろこぶに忄(心)をつけて、意味を確認した。
意味 よろこぶ(悦ぶ)。楽しむ。「悦楽エツラク」「喜悦キエツ」
ぬける・ぬけでる・ぬく
脱 ダツ・ぬぐ・ぬける 月部にく
解字 「月(からだ)+兌(ぬける)」の会意形声。身体から衣服などがぬけること、ぬぐ意。転じて、ぬけだす・ぬく意ともなる。
意味 (1)ぬぐ(脱ぐ)。ぬげる(脱げる)。「脱衣ダツイ」 (2)ぬける。ぬけだす。「脱出ダッシュツ」「脱走ダッソウ」 (3)ぬく。「脱色ダッショク」 (4)はずれる。「脱線ダッセン」
蛻 ゼイ・セイ・ぬけがら 虫部
解字 「虫(むし)+兌(ぬける)」の会意形声。蛇やセミなどの脱皮したあとのぬけがら。
意味 (1)ぬけがら(蛻)。もぬけ(蛻)。裳脱(もぬ)け、とも書く。「蛻皮もぬけがわ」「蛻の殻もぬけのから」 (2)もぬける。脱皮する。
閲 エツ 門部
解字 「門(もん)+兌(ぬける)」の会意形声。門をぬける意。門は一種の関所であり、ここを通りぬける際に通過する人や物をチェックすること。
意味 (1)けみする(閲する)。しらべる。「検閲ケンエツ」(しらべあらためる)「校閲コウエツ」(調べて校正する)「閲兵エッペイ」(整列させた軍隊を巡視する) (2)本を読んでしらべる。「閲覧エツラン」(本や書類をしらべ読む)「閲読エツドク」 (3)経る。過す。経過する。「閲歴エツレキ」(経過したこと。人が社会ですごしたあと。履歴リレキ。)
梲 セツ・タツ・うだつ 木部
解字 「木(き)+兌(抜け出る)」の会意形声。家の梁はりから抜け出た短い束柱をいい、棟木むなぎを支える役割をする。のち、隣家との境の屋根や壁に張りだして設けた防火用の張りだし部をいう。

うだつ① うだつ②
意味 うだつ(梲)。卯建とも書く。①梁の上に立てて棟木を支える短い柱。②隣家との境の屋根や壁に張りだして設けた防火用の張りだし部。「梲(うだつ)があがらない」(出世できない。ぱっとしない)
税 ゼイ・みつぎ 禾部
解字 「禾(穀物)+兌(ぬく)」の会意形声。収穫した穀物の一部を税として抜き取ること。
意味 みつぎ(税)。ねんぐ。「税金ゼイキン」「納税ノウゼイ」「徴税チョウゼイ」(税を徴収する)「税関ゼイカン」(関所での徴税)
とく・かたりのべる
説 セツ・ゼイ・エツ・とく 言部
解字 「言(いう)+兌(とく・かたりのべる)」の会意形声。兌(とく・かたりのべる)の意味を言(いう)をつけて確認した字。
意味 (1)とく(説く)。ときすすめる。「説明セツメイ」「演説エンゼツ」 (2)せつ(説)。考え。意見。「新説シンセツ」「学説ガクセツ」 (3)はなし。ものがたり。うわさ。「小説ショウセツ」「風説フウセツ」(4)エツの発音。よろこぶ。「説楽エツラク」(よろこびたのしむ)
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兌 ダ・タイ・エイ・エツ 儿部

解字 甲骨文字は「兄(唱える人)+八(わかれる)」の会意だが、意味は不明。金文は、「師兌シエツ」(師という官の兌)という形で人名を表している。戦国時代に入ると、その意味が急に拡がる。以下、ネットの「漢語多功能字庫」によると、①戦国竹簡で兌を悦(エツ)と読み、気晴らし・愉快の意。②また兌を脱(ダツ・タツ)と読み、脱ぐ・ぬける意。③また兌を説(セツ・ゼイ・エツ)と読み、説(と)く意になり、④さらに漢代の帛書では、兌を鋭(エイ)と読み、鋭い意で用いている。
なぜ兌は、このように多様な意味を持つのか?
一つはその文字の形である。甲骨文字から楷書まで「八+兄」の形は変わらないが、[字通]は、兌の八は神気の彷彿として下るかたちで、兄(唱える人=巫祝みこ)は神がかりとなり、脱我・忘我の状態となることから、脱ダツや悦エツの意味がでるという。もう一つは兌の発音の多様さである。タイ・エツ・エイ・ダなどの発音は、いつごろから形成されたのか不明であるが、この多様な発音から意味が分化したと考えられる。この過程を辿るのは難しく、兌のイメージは、戦国時代から分離した各文字のイメージを踏襲することにしたい。また、現在の兌の意味(交換する)は由来が不明なので仮借(当て字)とさせていただく。新字体で用いられるとき、兌⇒兑 に変化する。
意味 (1)かえる。交換する。「兌換ダカン」(両替)「兌銀ダギン」(両替)「兌換紙幣ダカンシヘイ」(金貨・銀貨などと交換可能な紙幣」 (2)漢代の帛書の意味から、するどい。「兌利エイリ」(するどい) (3)戦国竹簡の意味から、よろこぶ。「和兌ワエツ」(なごみよろこぶ) (4)戦国竹簡の意味から、ぬける。ぬけでる。とおる。 (5)戦国竹簡の意味から、とく(説く・かたりのべる)。 (6)易の八卦・六十四卦のひとつ。
イメージ
「仮借」(兌)
意味(2)から「するどい」(鋭)
意味(3)から「よろこぶ」(悦)
意味(4)から「ぬける・ぬけでる・ぬく」(脱・蛻・閲・梲・税)
意味(5)から「とく・かたりのべる」(説)
音の変化 エイ:鋭 エツ:悦・閲 ゼイ:蛻・税 セツ:説・梲 ダ:兌 ダツ:脱
するどい
鋭 エイ・するどい 金部
解字 「金(刃物)+兌(するどい)」の形声。金属の刃物の先がするどい意。なお、発音のエイは穎エイ(ほさき。先のとがる)に通じる同音代替ともいえる。
意味 (1)するどい(鋭い)。先がとがっている。「鋭角エイカク」 (2)つよい。勢いがある。「鋭意エイイ」(気持ちを集中する)「精鋭セイエイ」(えりぬきの強い者) (3)すばやい。さとい。「鋭敏エイビン」
よろこぶ
悦 エツ・よろこぶ 心部
解字 「忄(心)+兌(よろこぶ)」の会意形声。よろこぶに忄(心)をつけて、意味を確認した。
意味 よろこぶ(悦ぶ)。楽しむ。「悦楽エツラク」「喜悦キエツ」
ぬける・ぬけでる・ぬく
脱 ダツ・ぬぐ・ぬける 月部にく
解字 「月(からだ)+兌(ぬける)」の会意形声。身体から衣服などがぬけること、ぬぐ意。転じて、ぬけだす・ぬく意ともなる。
意味 (1)ぬぐ(脱ぐ)。ぬげる(脱げる)。「脱衣ダツイ」 (2)ぬける。ぬけだす。「脱出ダッシュツ」「脱走ダッソウ」 (3)ぬく。「脱色ダッショク」 (4)はずれる。「脱線ダッセン」
蛻 ゼイ・セイ・ぬけがら 虫部
解字 「虫(むし)+兌(ぬける)」の会意形声。蛇やセミなどの脱皮したあとのぬけがら。
意味 (1)ぬけがら(蛻)。もぬけ(蛻)。裳脱(もぬ)け、とも書く。「蛻皮もぬけがわ」「蛻の殻もぬけのから」 (2)もぬける。脱皮する。
閲 エツ 門部
解字 「門(もん)+兌(ぬける)」の会意形声。門をぬける意。門は一種の関所であり、ここを通りぬける際に通過する人や物をチェックすること。
意味 (1)けみする(閲する)。しらべる。「検閲ケンエツ」(しらべあらためる)「校閲コウエツ」(調べて校正する)「閲兵エッペイ」(整列させた軍隊を巡視する) (2)本を読んでしらべる。「閲覧エツラン」(本や書類をしらべ読む)「閲読エツドク」 (3)経る。過す。経過する。「閲歴エツレキ」(経過したこと。人が社会ですごしたあと。履歴リレキ。)
梲 セツ・タツ・うだつ 木部
解字 「木(き)+兌(抜け出る)」の会意形声。家の梁はりから抜け出た短い束柱をいい、棟木むなぎを支える役割をする。のち、隣家との境の屋根や壁に張りだして設けた防火用の張りだし部をいう。


うだつ① うだつ②
意味 うだつ(梲)。卯建とも書く。①梁の上に立てて棟木を支える短い柱。②隣家との境の屋根や壁に張りだして設けた防火用の張りだし部。「梲(うだつ)があがらない」(出世できない。ぱっとしない)
税 ゼイ・みつぎ 禾部
解字 「禾(穀物)+兌(ぬく)」の会意形声。収穫した穀物の一部を税として抜き取ること。
意味 みつぎ(税)。ねんぐ。「税金ゼイキン」「納税ノウゼイ」「徴税チョウゼイ」(税を徴収する)「税関ゼイカン」(関所での徴税)
とく・かたりのべる
説 セツ・ゼイ・エツ・とく 言部
解字 「言(いう)+兌(とく・かたりのべる)」の会意形声。兌(とく・かたりのべる)の意味を言(いう)をつけて確認した字。
意味 (1)とく(説く)。ときすすめる。「説明セツメイ」「演説エンゼツ」 (2)せつ(説)。考え。意見。「新説シンセツ」「学説ガクセツ」 (3)はなし。ものがたり。うわさ。「小説ショウセツ」「風説フウセツ」(4)エツの発音。よろこぶ。「説楽エツラク」(よろこびたのしむ)
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