漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符 「氾ハン」 <ひろがる> と「犯ハン」「笵ハン」「范ハン」「範ハン」

2024年08月26日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 ハン・ひろがる・あふれる   氵部 fán・fàn  


  上は氾ハン、下は夗エン
解字 「氵(水)+㔾(ハン)」の形声。㔾(ハン)という名の川である氾水ハンスイを表す。氾水は、最古の地理書とされる[山海経センガイキョウ](戦国時代から秦朝・漢代にかけて徐々に付加執筆されて成立)に記載されている川の名で、現在の山東省曹県の北を流れていたが、早くに埋もれてしまった川。川の意味から転じて、①川があふれる。水がひろがる。②汎ハン(あまねく)に通じ、ひろい・あまねく。そのほかに、③うかぶ。ただよう意味にもちいる。
意味 (1)ひろがる(氾がる)。あふれる(氾れる)。「氾濫ハンラン」(氾も濫も、水があふれる意。洪水になること)(2)ひろい。あまねく。「氾愛ハンアイ」(分け隔てなく愛する=汎愛)「氾愛兼利ハンアイケンリ」(わけへだてなく愛し広く利益をともにする。墨子ボクシ)「氾論ハンロン」(広く全体を論ずる)(3)うかぶ。ただよう。「氾氾ハンハン」(水に浮かびゆれるさま)(4)地名。「氾水ハンスイ」(川の名。山東省および河南省にあった川)(5)人名。「氾勝之ハンショウシ」(西漢期の農学者)
 ハン
解字 㔾ハンは、氾ハンの字では、発音「ハン」を表す音符として用いられているが、何をかたどっているか明らかでない。一方、同じ形となる夗エンは「タ(=月にく。からだ)+卩セツ⇒㔾(ひざまずく人)」 の会意で、人がひざまずいて身体をまげている形。この字形を見てから篆文の氾の㔾をよく見ると、人が腰を半分下ろした立ち姿のようにも見えるが定かでない。また、最初の使用が水名であることから、音符「㔾ハン」として位置付けることとしたい。
解字 人の姿に源流をもつ字形。その意味は不明。
意味 発音のハンを表す字として用いる。

イメージ 
 「ハンの音(形声字)」
(氾・犯・笵・范・範)
音の変化  ハン:氾・犯・笵・范・範

形声字
 ハン・おかす  犭部 fàn
解字 金文は「犭(いぬ)+㔾(ハン)」の形声。[説文解字注]は、「侵す也(なり)。犬に従い㔾ハンの聲(声)」とする。ここで犬は、人の悪者を犬に例えた言い方で、犯は法や道徳をおかす人、また、その行為をいう。
意味 おかす(犯す)。決められたのり(法・則)をおかす。「犯罪ハンザイ」(罪を犯す)「犯人ハンニン」「侵犯シンパン」(他の領土や権利をおかす)「共犯キョウハン

笵・范・範には鋳型の意味が共通にある
 以下に解字する笵・范・範は異体字の関係にあり、鋳型の意味が共通にある。意味が共通するので紛らわしいが、熟語は各文字で棲み分けられている。しかし「鎔笵ヨウハン」(鋳型)「范鎔ハンヨウ」などの類似語がある。
 ハン  竹部 fàn
解字 「竹(たけ)+氾(ハン)」の形声。[説文解字注]は「法也(なり)。竹に従う、竹は竹書(竹簡の書物)也(なり)。氾ハンの聲(声)。古法に竹刑有(り)」とする。竹刑の意味は不明だが、竹簡に書かれている「のり(法)」の意とする。また、笵には鋳造の型(いがた)の意味がある。
意味 (1)法制。模範。のり(法)。(2)かた。いがた。「同笵ドウハン」(おなじ鋳型で鋳造する)「同笵鏡ドウハンキョウ」(同じ型から造られた鏡)「鎔笵ヨウハン」(鋳型。鎔けた金属を流し込む型のこと) 
 ハン・ボン  艸くさ fàn
解字 「艸(くさ)+氾(ハン)」の形声。氾(ハン)という名の草をいうが具体的な名前はない。草冠をつけて姓を表す方法があり、范もその用法の字。ほかに地名。また、笵に通じ鋳型の意味がある。
意味 (1)姓のひとつ。「范増ハンゾウ」(楚の項羽の共謀臣)「范雍ハンヨウ」(北宋の功臣)(2)地名。「范陽ハンヨウ」(唐代の郡の名。今の河北省涿タク州市)(3)いがた。鋳造の型。「范鎔ハンヨウ」(金属を溶かし鋳型にいれる)「銭范センハン」(貨幣の銭の鋳型)

銭范https://sucai.redocn.com/dongwuzhiwu_7426195.html
 ハン・のり  竹部 fàn  
解字 「車(くるま)+笵の略体(いがた⇒かた)」で、車を作るとき車輪の曲線を示す基準の型をいう。車輪の大きさによりそれぞれの型があり、基本となる型であることから、てほん・きまり・のり、の意で用いられる。また、鋳型の意味もあり、その作業で元型を枠の中に置き、砂をいれて型取りすることから、範囲(元型を囲む)の意味がある。

車輪の製作(中国のネットから)
意味 (1)のり(範)。てほん。きまり。「模範モハン」(見習うべき手本)「規範キハン」(規も範も、のり・てほんの意)「範式ハンシキ」(のり。手本)「師範シハン」(てほん。指導する人)「範例ハンレイ」(模範となる例)(2)かた。いがた。(=笵)。「範囲ハンイ」(元型を枠で囲む。きまった区域)「広範コウハン」(広い範囲)「範ハンチュウ」(同じ種類のものが所属する部類・カテゴリーの訳語)

<紫色は常用漢字>

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