漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「勿ブツ」<なかれ> と「物ブツ」「匆ソウ」

2014年10月23日 | 漢字の音符
 ブツ・モチ・なかれ  勹部

解字 甲骨文は二種の字が存在する。第一字は弓のつる(弦)を弾いて悪邪を祓い清める形[字統]。第二字は、刀に血の点々がついており刀で斬る形。意味は第一字の悪邪を祓い清める形から、物や場所を清めるため日常のいろんな行いを禁止する意。「なかれ・ない」の意となる。金文・篆文では第二字の刀の形が字形の類似から受け継がれ、現代字は勹の形に変化した「勿」になった。第二字の刀で斬る意は、音符で表れる。
意味 (1)なかれ(勿れ)。禁止を表わす。「勿忘草わすれなぐさ」 (2)ない。否定を表わす。「勿論モチロン」(論ずるまでもなく)

イメージ 
 「ない」
(勿・物・忽・惚)
 刀で「きる」(刎)
 「その他」(笏・吻・惣)
音の変化  ブツ:勿・物  フン:刎・吻  コツ:忽・惚・笏  ソウ:惣  

ない
 ブツ・モツ・もの  牛部
解字 「牛(うし)+勿(特定の色がない)」の会意形声。特定の色がない、即ち、黄色や黒など純色の牛でなく、まだら牛のこと。この牛の色を「物色」(まだら牛の色)と言っていたが、のち、もの(物)の色の意となり、転じて、すべての物の意味になった。
意味 (1)もの(物)。いっさいのもの。「食物ショクモツ」「博物ハクブツ」(ひろく物事に通じていること) (2)ものごと。ことがら。転じて、世間。「物議ブツギ」「物騒ブッソウ」 (3)ひと。「傑物ケツブツ
 コツ  心部
解字 「心(こころ)+勿(ない)」の会意形声。心がない状態をいい、忘れる・不注意・重視しない意となる。また、忘れていた事をふと思いだすことから、突然の意となる。
意味 (1)ゆるがせ(忽せ)。いいかげん。「忽略コツリャク」(おろそかにする)「粗忽ソコツ」(軽はずみ。あわただしい) (2)たちまち(忽ち)。にわかに。「忽然コツゼン」(にわかなさま)
 コツ・ほれる・ぼける・ほうける・とぼける  忄部
解字 「忄(心)+忽(心がない)」の会意形声。心がない状態に、さらに忄(心)をつけて、放心した状態をいう。
意味 (1)うっとりする。「恍惚コウコツ」(うっとりする状態) (2)ぼんやりする。ほうける(惚ける)。ぼける(惚ける)。 (3)[国]ほれる(惚れる)。恋慕する。心酔する。

きる
 フン・はねる  刂部
解字 「刂(刀)+勿(きる)」の会意。勿は甲骨文第二字の形から「刀で斬る」意があり、そこに刀をつけて本来の意味をあらわした。[説文新附]は、「剄ケイ(くびきる)なり」としており、首を切る意味で用いる。
意味 はねる(刎ねる)。首を切る。「刎頸フンケイ」(首をはねる。首を切ること)「刎頸の交わり」(友人のためなら首を切られても後悔しない程の真の交友)「刎死フンシ」(自ら首を切って死ぬ)

その他
 コツ・しゃく  竹部
解字 「竹(たけ)+勿(コツ)」の形声。コツという名の忘れないようにメモしておく竹の札。
意味 (1)しゃく(笏)。備忘のため儀式次第を書き記した紙片を貼った板片。礼服である束帯を着用の際、手に持って威厳を整える。日本では発音のコツが骨コツに通じるのを嫌い、長さがほぼ1尺あるので、「しゃく」と呼んだ。日本では木製が殆どだが、中国では、天子は珠玉、諸侯は象牙、士は竹を用いたという〔字統〕。「牙笏ゲしゃく」(象牙製の笏。正倉院には聖武天皇遺愛品とされる「通天牙笏ツウテンゲしゃく」長さ34.9㎝が所蔵されている) (2)姓。「忽那くつな」 (3)人名。「飯田蛇笏いいだだこつ」(山梨県出身の俳人。大正期の「ホトトギス」隆盛期の代表作家として活躍した)

 フン・くちびる  口部
解字 「口(くち)+勿(フン)」の形声。フンは賁フンに通じる。賁は、貝がぱっと水管から水を出す意で、ふき出る以外に、噴き出たものが「盛りあがる」意がある。吻は、口のまわりが盛り上がった「くちびる」をいう。
意味 (1)くちびる(吻)。くちさき。動物で口あるいはその周辺が前方へ突出している部分。「接吻セップン」(くちびるを接すること)「吻合フンゴウ」(①くちびるを合わせるように物事がぴったり合うこと。 ②外科手術で分離している血管や神経を接続すること) (2)口ぶり。「口吻コウフン」(①口ぶり。言いぶり。②口さき。くちばし)
 ソウ  心部
解字 ソウ(すべる。統べる)を書き誤った字とされる。扌(てへん)を牛に書き間違えて物とし、心を合わせて惣となった。本来の揔ソウは、「扌(手)+怱(ソウ)」の形声。ソウは総(總)ソウ(すべる)に通じ、手ですべてを一つにまとめること。
意味 (1)すべる。統べる。すべて。統べて。「惣菜ソウザイ」(すべての菜。日々の食事の副食物。ご飯のおかず。=総菜) (2)「惣領ソウリョウ」とは、総領とも書き、①家名を受け継ぐ子。また、長男・長女。②数カ国の政務を監督した日本古代の官。すべおさ。
覚え方 ものごころ(物心)ついたときから領として大事にされる。


    ソウ <ソウの音>
 ソウ  勹部
解字 囱ソウ(まど)の異体字。本来の意味でなくソウの音を表す。ブツの字との関係はない。
意味 (1)あわただしい。あわてる。(=怱) (2)[国]「匆匆ソウソウ」とは、手紙の末尾に書き添えて、取り急ぎの意を表す。草々。

イメージ  「同音代替」 (匆・怱・葱)  
音の変化  ソウ:匆・怱・葱

同音代替
 ソウ  心部
解字 「心(こころ)+匆(ソウ)」の形声。ソウは早ソウ(はやく・すぐ)に通じ、はやくしようと心があわてること。
意味 あわてる。にわか。あわただしい。いそぐ。「怱怱ソウソウ」(①いそがしいさま。②手紙の末尾に書き添えて、取り急ぎの意を表す。=匆匆ソウソウ)「怱卒ソウソツ」(①あわただしいこと。②突然なこと)「怱忙ソウボウ」(いそがしいこと。怱も忙も、いそがしい意)「怱劇ソウゲキ」(非常にいそがしいこと。あわただしく落ち着かない)
 ソウ・ねぎ  艸部
解字 「艸(草)+怱(ソウ)」の形声。ソウは草ソウ(くさ)に通じ、草の色である青色をいう。また、あおい野菜であるネギを表す。
意味 (1)あおい。「葱青ソウセイ」(①草木の青々としていること。②ネギの葉) (2)ねぎ(葱)。葉が管状で細長い野菜。「葱坊主ネギボウズ」(小花が集まり坊主頭のように咲くネギの花)「玉葱たまねぎ」(ネギに似た野菜で、地下の鱗茎がまるくなり食用とする)
<紫色は常用漢字>

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