漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「之シ」<足が前にすすむ>「芝シ」 と 「乏ボウ」「泛ハン」「貶ヘン」  

2024年07月26日 | 漢字の音符
 シ・これ・の・ゆく   ノ部 zhī


 上は之シ、下は止シ
解字 之の甲骨文字は下の足(止)が一線から出て進む形。下の足裏をかたどった図形には左右の足をかたどった2種があるが、この字形は右足が一線から出発して進むかたち。金文は止に近い形に変化したが、篆文で地上から草がのびるような形になったため、草がのびる意に解され、草冠をつけた芝の字ができた。現代字は、漢代の隷書をへて、まったく姿を変えた「之」に変身し、本来の意味でなく指示・強める意の「これ・この」、また、主格や修飾の「の」に仮借カシャ(当て字)された。本来の意味は(4)の之(ゆ)く、として残っている。
意味 (1)これ(之)。この。「之(これ)を読む」 (2)の(之)。「夫子フシ(孔子)之(の)道」 (3)この(之)。(4)ゆく(之く)。いたる。「死に之(いた)る。(5)字形が曲がりくねることから。「之字路シジロ」(まがりくねった道)「之繞シンニュウ・シンニョウ」(部首の 辶・辶を言う)

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 「仮借カシャ
(之) 
 「進みゆく」(芝) 
音の変化  シ:之・芝  

進みゆく
 シ・しば  艸部 zhī
解字 「艸(くさ)+之(進みゆく⇒長くのびる)」の会意形声。之の篆文は、地上から草がのびる意に解釈され、寿命をのばすという霊草のマンネンタケ(霊芝)の意味になった。日本では、すくすくのびる草である芝の意となる。

霊芝(マンネンタケ)(中国のネットから)
https://www.meipian.cn/1kc53x77
意味 (1)マンネンタケ。「霊芝レイシ」(延命の霊薬として薬用酒などに使われるキノコ)(2)[国]しば(芝)。すくすく伸びる草。「芝生しばふ」「芝居しばい」(桟敷席と舞台との間の芝生に設けた庶民の見物席(広辞苑)。転じて興業物)


    ボウ <身動きがとれない>
 ボウ・とぼしい  ノ部 fá

解字 金文は「ノ印+止の古型(あし・すすむ)」の会意。すすむ止の古型(あし)がノ印でさえぎられ、動きがとれないさま。篆文は、上部がノ⇒一になり、下部の止の古型(すすむ)が左右反転した形。現代字は「ノ+之」のかたちに変化した。之もすすむ意であり、ノによって身動きできない意は変わらない。
意味 (1)とぼしい(乏しい)。力や金がなくて動きがとれないさま。たりない。まずしい。「貧乏ビンボウ」「耐乏タイボウ」「窮乏キュウボウ
覚え方 「ノ印+之(進みゆく)」のかたちで、之(進みゆく)にノ印をつけて、「進む」とは逆の「動きが取れない」意を表わした。

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 「とぼしい」(乏・貶)
 「形声字」(泛)
音の変化  ボウ:乏  ハン:泛  ヘン:貶  

とぼしい
 ヘン・おとす・おとしめる・けなす  貝部 biǎn
解字 「貝(財貨)+乏(とぼしい)」の会意形声。財貨が乏しくなって減ること。転じて、値打ちがおちる。人の値打ちを下げる行為をいう。
意味 (1)おとす(貶とす)。低く評価する。官位を下げる。「貶斥ヘンセキ」(官位を下げてしりぞける)(2)おとしめる(貶める)。さげすむ。けなす(貶す)。「褒貶ホウヘン」(褒めることと貶すこと)「毀誉褒貶キヨホウヘン」(ほめたりけなしたりすること。誉褒ヨホウは、ほめる、毀貶キヘンは、けなす)

形声字
 ハン・ホウ・うかぶ  氵部 fàn
解字 「氵(水)+乏(ハン)」の形声。ハンは汎ハン(うかぶ・ひろい)に通じ、うかぶ、ひろい意となり、汎とほぼ同じ用法で使われる。
 発音がホウの泛ホウは「襾(ふた)+乏(ホウ)」の、ふた(蓋)が覆(くつがえ)る意の音符字(パソコンで出ない)に通じ、くつがえる意となる。
意味 [Ⅰ]ハンの音。(1)うかぶ(泛ぶ)。「泛舟ハンシュウ」(水に浮かんだ舟。=汎舟)「泛宅ハンタク」(うかぶ宅で、船の家)「浮家泛宅フカハンタク」(浮家も泛宅も、船の家。船の中に住む意で、放浪する隠者の暮らしをいう) (2)ひろい。あまねく。「泛論ハンロン」(全体にわたって論ずる。=汎論)「泛愛ハンアイ」(広く愛する。=汎愛)
[Ⅱ]ホウの音。くつがえす。ひっくりかえす。「泛駕ホウガ」(馬車が転覆する)「泛駕之馬ホウガのうま」(馬車をひっくりかえす馬。御者に従わず気概のある馬から、常道に従わない英雄の例え)
<紫色は常用漢字>

<之を含む参考音符>
「之」の字形変化は多様で、「寺」で上部の土になり、「先」で上部の「ノ+土」になる。
 ジ・シ・てら  寸部 sì

解字 金文第一字は、「之(すすむ)+又(手)」の会意形声。之は、足が下の線から出る形で、前に進むことを示す。又は手で、手にものを持つ意。金文第二字は又⇒寸になっており、この寸は手の意。之と寸が合わさった寺は、手に文書などを持ち、足で前にすすむ「使い」を表し、宮中などで働く事務系の下級役人の意。転じて、役人が働く場所である役所や朝廷などを表す。現代字は上部が土に変化した寺になった。この字を見ると我々はすぐ寺(てら)を思い浮かべるが、この意は仏教伝来以降、渡来した僧侶を外国使節の応接・対応を司る役所(鴻臚寺コウロジ)にしばらく住まわせたことから出た。
意味 (1)役所。朝廷。官庁。「寺人ジジン」(宮中の小臣) (2)てら(寺)。「寺院ジイン」「仏寺ブツジ」 (3)はべる(=侍)。
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 「下級の役人」
(寺・侍・等・待・峙・痔)
 寸の意味である「手にもつ」(持)
 之の意味である「すすむ」(時・蒔・詩)
 「形声字」(特)
音の変化  ジ:寺・侍・峙・痔・持・時  シ:蒔・詩  タイ:待  トウ:等  トク:特
音符「寺ジ」

 セン・さき  儿部にんにょう xiān

解字 甲骨文は「足が下線から出発するかたち(之)+人」 の会意。人の上に出発する足を加えて、先にゆく人を表す。甲骨文字では王が臣下に命じて先に行かせることを占うことがおおいという[甲骨文字小字典]。他の人より先に行く意が原義で、また、時間のあとさきの意味にも用いる。現代字は上が「ノ+土」の形に、下が人⇒儿になった「先」に変化した。
意味 (1)さき(先)。さきのほう。「先頭セントウ」「先導センドウ」 (2)さきにゆく。さきだつ。さきんじる。「先着センチャク」「先駆者センクシャ」 (3)時間的にはやい。以前。「先日センジツ」「先代センダイ
イメージ  「さき」 (先・洗・跣・筅・銑)
音の変化  セン:先・洗・跣・筅・銑
音符「先セン」

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。





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