ホソミイトトンボについては、これまでに本ブログにて産卵や越冬に関して写真も併せて載せており、今回、新たな知見はないが、前記事の「ホソミオツネントンボ」の産卵を観察し記録した水田にて、本種の産卵の様子を写真撮影し、動画にも収めたので、改めて掲載したいと思う。
ホソミイトトンボ Aciagrion migratum(Selys, 1876)は、イトトンボ科(Family Coenagrionidae)ホソミイトトンボ属(Genus Aciagrion)で、もともと千葉県南部、静岡以西の本州、四国、九州が主な分布域の南方系のイトトンボであったが、年々北上し、東京都、埼玉県では普通に見られるようになっており、新潟県や石川県、福島県、栃木県、茨城県、長野県でも単発的な記録がある。近くに雑木林がある平地や丘陵地の挺水植物が繁茂している湿地や滞水・水田などに生息しているが、局所的である。
ホソミイトトンボは、すでに記載したホソミオツネントンボ、オツネントンボとともに成虫で越冬するトンボであるが、日本産のトンボで唯一、夏型と越冬型の2つの季節型が存在する。夏型は6月頃から見られ、9月頃には姿を消し、代わりに越冬型が盛夏頃から現れ、そのまま成虫で冬を越すが、通常の年2化ではないと言われている。夏型が産卵にしたものは、すべて越冬型として羽化するが、越冬型が産卵したものは、一部は夏型として初夏に羽化し、一部は越冬型として盛夏から秋にかけて羽化をするというのである。つまり越冬型には、春に前年に羽化した越冬型が産卵した個体群と、夏に夏型が産卵した個体群が混在しているのである。
夏型は、体長28~34mmでやや緑がかった淡青色の体色で、越冬型は、体長が33~37mmと夏世代よりも大きく、羽化後は淡青色の体色だが、11月を過ぎ、植物が枯れ始めると茶色に変化する。越冬後は、徐々に体色が青色になっていき、繁殖時期である5月になると、濃い青色へと変化するという特徴がある。
ホソミイトトンボは、環境省版レッドリストに記載はないが、都道府県版レッドリストでは、千葉県、石川県で絶滅危惧Ⅰ類に、長野県で絶滅危惧Ⅱ類として記載している。
訪れた里山は、ホソミイトトンボの多産地であり、いくつもある棚田それぞれに30頭以上が飛び交っている。その様子は、前回訪れた2016年と変わらない。朝から23℃もあり、日当たりの良い水田では、午前7時から多数のオスが飛び交っており、9時頃から交尾態が見られ、9時半頃には次々とペアが産卵する様子が見られた。
産卵は、連結したまま水面付近の植物組織内に行う(連結植物組織内産卵)で、しばしば潜水産卵やメスの単独産卵も見られるが、興味深いのは、グループ産卵である。水田には、多くの産卵に適した枯れた植物が浮いているが、あるペアが産卵をしていると、そこに複数のペアが集まってくるのである。観察していると、単なる偶然ではなく、先に産卵しているペアの誘引効果であると思われるが、詳しいことは分からない。また、産卵中のペアに単独のオスが近寄ってくると、翅を少し開いて威嚇のような行動をするのも面白い。
子供の頃の愛読書 石田昇三 著「カラー 日本のトンボ」(昭和48年7月 山と渓谷社)には、100種類のトンボの飛翔写真や交尾、産卵の写真の他、幼虫や羽化の写真と解説も書かれており、今でも本棚に置いているが、本書の中に「トンボ撮影ノート」というページがある。そこには「胴長(ウェーダー)を履いて水中に入ったり、座り込むとシャッターチャンスが生まれる」と書かれている。確かにそう思う。水田や池、湿地において、産卵や羽化などの生態写真を撮ろうと思ったら、水面ぎりぎりにカメラを構えて写すことも必要で、必須アイテムであるウェーダーを履かなければ構図の良い写真は撮れない。
以下に掲載した写真を見ればお分かりのように、写真はほとんどが斜め上からの構図で、しかも望遠マクロで撮っているため、決して良いトンボ写真ではない。これは、ウェーダーを履かず、手振れ防止機能もないカメラとレンズのため、水田の畔に三脚を立てて撮っているからに他ならない。水田は、棚田を守る会によって管理されており、会員の方とお話をして撮影をしたが、田植え前とは言え、さすがにウェーダーを履いて座り込むのは倫理的に問題がある。良い写真が撮れれば何をしても良い訳ではないが、出来ることなら良い写真を残したいと思うので、それが許される場所において、環境を荒らすことなく必要と感じたならば、ウェーダーを着用したいと思う。
最後に、訪れた里山の近隣は、かつてゴルフ場計画破綻で町が差し押さえた土地が、公売により太陽光発電事業者の物となっていた。しかしながら、太陽光発電が環境アセス対象になった2020年以降、開発により大雨時に大量の土砂が流れ込む危険性があることから、環境相が計画見直しを求める意見を出し、県も「環境への重大な影響が払拭されない場合は中止も含めた事業計画の見直しも検討しなければならない」とする知事意見を経産省に提出していた。その結果、経産省が大量の認定失効に踏み切り、事業化困難な状態であると言う。このまま計画が中止され里山が保全されることを切に願う。
関連ブログ記事:ホソミオツネントンボ /オツネントンボ
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