バーレーン遠征 木全宏之
今回の遠征で感じたことを書いてみたいと思います。
《オルタネイトからのツアー参加》
ツアーを企画するにあたり、以前に経験したATF(アジアテニス連盟が主催する)の大会から想像して、申し込んだ日本選手は全員本戦ストレートインになるだろう、そして全員5日間毎日充実した試合経験ができるだろうと甘く考えていました。ところが、ふたを開けてみると女子2人は予選から、男子は今年の山梨ATFに参加しアジアランキングを持っていた3人は予選から、そしてもう一人は山梨に参加せず、ノーランキングだったため「オルタネイト」のステイタスという事態になってしまいました。
オルタネイトになった坂本家には、状況を説明し、「出られるか出られないかわからないのに行く」という危険を冒す(高いお金を払って)のを避けたい場合はキャンセルなさっても結構ですよ、と話したのでした。しかし、もし行くという決断をした場合で、現地で試合に出られなかった場合は、毎日、外国人をつかまえて練習マッチさせたりして、試合に出られた時と同じくらいの経験ができるように最善をつくします、と付け加えました。しかし、私はたぶん、今回は危険を冒さず、次回の遠征のチャンスもまた巡ってくるでしょうから、キャンセルするだろうと思っていたのでした。ですから、坂本家から「行かせます」の返事が来た時に、びっくりすると同時に感動さえ憶えたわけです。坂本さんのお父様は長く地元でジュニアを育成してきた名コーチです、ですからそういう決断ができたのかもしれません。これは、「転んでもただでは起きない」という考え方の究極だと感じました。実際、今年の夏、私の知り合いのジュニアが外国まで行きITFの大会に参加できず、練習だけして帰ってきた、という事も起こりました…ITFでポイントを取りたいと考えた時、最初にこういう事態を経験することは、起こりうることです。そういう事を経験することも、かけがえのない経験だと、坂本コーチは考えたのかもしれません。その器の大きさに感動したわけです。
《予選からのスタート》
オルタネイトのステイタスだった徹(てつ)は、とても幸運なことに予選に入ることができました。そして、女子2人は繰り上がって本戦からとなりました(結局女子は予選行われず、全員本戦からとなりました)。とは言っても予選です。4人の男子は予選の2回(または3回)に勝たないと、毎日毎日切磋琢磨できる本戦へと進めません。(本戦の32人は1位から32位まで決めるため5日間毎日試合があります、しかもダブルスもあり)さらに言えば、予選で負けてしまう子と本戦に行けた子が出た場合、両者の間には天国と地獄ほどの差が出てきます(本人の気持ち的に)。飛行機を3回も乗り継いで、長い時間をかけて来たことや、親が高いお金を出してくれている事も大きくのしかかります。千葉から山梨まで行って予選の1回戦でいいところなく負けるのとは比べようもないくらい、その効果を何千倍も増幅させたような感じでしょう。そういう意味で、今回の男子4人は本当の意味で「修羅場」を経験しました。全員予選決勝まで進み、3人が勝ち、そして負けた一人はラッキールーザーで本戦入りというラッキーはありましたが、これで全員本戦の権利を手にしたわけです。正直、私自身もほっとしました。
そして、これは帰国してから自分の教え子の2人のプレーを見て感じたことですが、この修羅場をくぐった事で確実に心も技術も1歩進むことができました。明らかに遠征前よりもひとまわりたくましく成長しました。
《チームのムード》
女子はふたりとも本戦ストレートインになったので、男子に比べれば楽でした。しかし、以前ボブ・ブレットさんも言っていましたが、チームで遠征に行くと、ムードがよくなる効果がある…選手がひとりだけだと、負けた瞬間からムードが暗くなるのだが、チームで遠征した場合、他の選手がまだ勝ち残っていれば、応援したりであまり暗くならない、勝ち進むことを負けた選手もわかちあって疑似体験できる…と言っていました。今回の女子は本戦ストレートインだったにもかかわらず、男子のぎりぎりの修羅場を戦う姿を見たことがプラスになりました。予選の時も、試合がないのでゆっくり暑い気候に体を慣らすよう楽な練習からスタートしてもよかったのですが、オーバーワークになりそうなほど練習しました。おかげで、気持ちのゆるみの全くない状態で最初から本戦の試合に望む事ができました。
《ひとりで海外遠征できるように》
最近は小さな子供たちを遠征に連れていく時に、ただ迷子にならないように付いてこいよ的な引率を改めました。それは、中学3年か高校1年くらいを目標に、ひとりで海外遠征できる自立心と経験を持たせたいという考えを持つに至ったからです。ですから、「アライバル」「デパーチャー」の看板での言葉、迷った時にどうしたらいいか、トランジットの国に着いた時にすぐにその国の時刻に腕時計を直すこと、チェックインの仕方、荷物はトランジットの時受け取る必要があるか確認すること、入国審査や税関のこと…などなど、いろいろ教えながらの飛行機旅でした。まだまだ、1回だけではみな慣れないでしょうけど、次回の時はさらに飛行機旅の仕方の知識を増やすことでしょう。先日、RSK杯を優勝した辻かなみさんは、中1ですが、この冬フランスへ一人で行くような話も聞きました。(もっとも彼女はすでに、両手の指では足りないほど海外遠征を経験していますが)
《外国人との交流》
ダブルスは日本人どおし組んだほうが、勝てる可能性も高いかもしれません。しかし、ここは勝負の場のITFとは少し違い、経験の場の意味合いが強いATFです。必ず自分で探して外国人のペアを見つけること、日本人どおしのペアは禁止!という課題を出しました。以前、フロリダ遠征の時には、さすがシャイな日本人、1時間くらいもじもじして話かけられない子もいました。…が、どうぢてどうして。今回の6人は逞しいです。みな、積極的に話しかけ、ペアさがしによる交流作戦は大成功です。すぐにペアが見つかった子もそうでなかった子もいましたが、私の通訳の手助けも借りずにみなよくやりました。
そのせいもあってか、本戦の最終日あたりのころは、もうたくさんの友達ができ、それぞれにあだ名も付け終わり、国の違い言葉の違いなど全く忘れてしまう関係ができあがりました。これはすごい事です。
《異国の文化、生活に接する》
異国の文化、生活に接することにより、子供たちが多くの事を得るのは、毎回どこの国へ行ってもかわりはありません。子供たちの中に形成されつつある価値観に大きな影響を与えます。できれば、あまり大きくなる前に(できれば小学生のうちに)このカルチャーショックをお子さんに受けさせてあげてください。人間は年をとる程、石頭になります。
アラビアの、そしてイスラムの文化は子供たちにどのように映ったでしょうか?
《親の参加》
今回、ひとりのお父様が娘に同行してツアーに参加しました。親がいっしょに行って試合を見ることについて…これは、ものすごく大切な事だと思います。お金が倍近くになってしまいますから、そう何回もというわけにはいかないかもしれません。しかし、自分の子供を海外遠征に行かせる意味というものを再確認、あるいは、気づかなかった意味を新しく発見する機会にさえなります。さらに、あまり海外の経験のない親にとっては、子供といっしょに、ものすごく価値観を揺さぶるほどの大冒険の経験を共有できるといううれしさがあります。子供もそうですが、大人も世界を見たほうが、地元での小さな競争にそれほどこだわる必要がなく、もっと大きな物を見つめて進んでいかなくてはいけない事を実感できるはずです。ひょっとしたら、同じ市に住む、絶対負けたくないライバル(もう何十回も戦ってる)との対戦で、将来につながるすばらしいプレーをしながら、スコア的にはボロ負けしてしまった時に、誉めてあげられるようになるかもしれませんね。(笑)
《最後に》
最後に、この遠征に行くにあたり、多くの方に感謝をしています。私のクラブのジュニアの生徒のみなさん、大人のクラスの生徒のみなさん、妻のMiho、母、クラブのオーナー、遠征に参加した家庭のみなさん、そして選手たち、子供たちの世話をたくさんしてくれて私の仕事を減らしてくれた織田さん、各選手のクラブのコーチのみなさん、旅行会社の川崎さん。本当に多くの方のおかげで、とてもすばらしい遠征になりました。そして、子供たちの作文からわかるように、参加した選手たちも、多くのみなさんに感謝の気持ちを持っている事も、私の最大の喜びです。
K-Tennis Training 木全宏之
バーレーン遠征記おわり
…でも…
「おだパパから見たバーレーン日記」がそのうち載るかもかも?
今回の遠征で感じたことを書いてみたいと思います。
《オルタネイトからのツアー参加》
ツアーを企画するにあたり、以前に経験したATF(アジアテニス連盟が主催する)の大会から想像して、申し込んだ日本選手は全員本戦ストレートインになるだろう、そして全員5日間毎日充実した試合経験ができるだろうと甘く考えていました。ところが、ふたを開けてみると女子2人は予選から、男子は今年の山梨ATFに参加しアジアランキングを持っていた3人は予選から、そしてもう一人は山梨に参加せず、ノーランキングだったため「オルタネイト」のステイタスという事態になってしまいました。
オルタネイトになった坂本家には、状況を説明し、「出られるか出られないかわからないのに行く」という危険を冒す(高いお金を払って)のを避けたい場合はキャンセルなさっても結構ですよ、と話したのでした。しかし、もし行くという決断をした場合で、現地で試合に出られなかった場合は、毎日、外国人をつかまえて練習マッチさせたりして、試合に出られた時と同じくらいの経験ができるように最善をつくします、と付け加えました。しかし、私はたぶん、今回は危険を冒さず、次回の遠征のチャンスもまた巡ってくるでしょうから、キャンセルするだろうと思っていたのでした。ですから、坂本家から「行かせます」の返事が来た時に、びっくりすると同時に感動さえ憶えたわけです。坂本さんのお父様は長く地元でジュニアを育成してきた名コーチです、ですからそういう決断ができたのかもしれません。これは、「転んでもただでは起きない」という考え方の究極だと感じました。実際、今年の夏、私の知り合いのジュニアが外国まで行きITFの大会に参加できず、練習だけして帰ってきた、という事も起こりました…ITFでポイントを取りたいと考えた時、最初にこういう事態を経験することは、起こりうることです。そういう事を経験することも、かけがえのない経験だと、坂本コーチは考えたのかもしれません。その器の大きさに感動したわけです。
《予選からのスタート》
オルタネイトのステイタスだった徹(てつ)は、とても幸運なことに予選に入ることができました。そして、女子2人は繰り上がって本戦からとなりました(結局女子は予選行われず、全員本戦からとなりました)。とは言っても予選です。4人の男子は予選の2回(または3回)に勝たないと、毎日毎日切磋琢磨できる本戦へと進めません。(本戦の32人は1位から32位まで決めるため5日間毎日試合があります、しかもダブルスもあり)さらに言えば、予選で負けてしまう子と本戦に行けた子が出た場合、両者の間には天国と地獄ほどの差が出てきます(本人の気持ち的に)。飛行機を3回も乗り継いで、長い時間をかけて来たことや、親が高いお金を出してくれている事も大きくのしかかります。千葉から山梨まで行って予選の1回戦でいいところなく負けるのとは比べようもないくらい、その効果を何千倍も増幅させたような感じでしょう。そういう意味で、今回の男子4人は本当の意味で「修羅場」を経験しました。全員予選決勝まで進み、3人が勝ち、そして負けた一人はラッキールーザーで本戦入りというラッキーはありましたが、これで全員本戦の権利を手にしたわけです。正直、私自身もほっとしました。
そして、これは帰国してから自分の教え子の2人のプレーを見て感じたことですが、この修羅場をくぐった事で確実に心も技術も1歩進むことができました。明らかに遠征前よりもひとまわりたくましく成長しました。
《チームのムード》
女子はふたりとも本戦ストレートインになったので、男子に比べれば楽でした。しかし、以前ボブ・ブレットさんも言っていましたが、チームで遠征に行くと、ムードがよくなる効果がある…選手がひとりだけだと、負けた瞬間からムードが暗くなるのだが、チームで遠征した場合、他の選手がまだ勝ち残っていれば、応援したりであまり暗くならない、勝ち進むことを負けた選手もわかちあって疑似体験できる…と言っていました。今回の女子は本戦ストレートインだったにもかかわらず、男子のぎりぎりの修羅場を戦う姿を見たことがプラスになりました。予選の時も、試合がないのでゆっくり暑い気候に体を慣らすよう楽な練習からスタートしてもよかったのですが、オーバーワークになりそうなほど練習しました。おかげで、気持ちのゆるみの全くない状態で最初から本戦の試合に望む事ができました。
《ひとりで海外遠征できるように》
最近は小さな子供たちを遠征に連れていく時に、ただ迷子にならないように付いてこいよ的な引率を改めました。それは、中学3年か高校1年くらいを目標に、ひとりで海外遠征できる自立心と経験を持たせたいという考えを持つに至ったからです。ですから、「アライバル」「デパーチャー」の看板での言葉、迷った時にどうしたらいいか、トランジットの国に着いた時にすぐにその国の時刻に腕時計を直すこと、チェックインの仕方、荷物はトランジットの時受け取る必要があるか確認すること、入国審査や税関のこと…などなど、いろいろ教えながらの飛行機旅でした。まだまだ、1回だけではみな慣れないでしょうけど、次回の時はさらに飛行機旅の仕方の知識を増やすことでしょう。先日、RSK杯を優勝した辻かなみさんは、中1ですが、この冬フランスへ一人で行くような話も聞きました。(もっとも彼女はすでに、両手の指では足りないほど海外遠征を経験していますが)
《外国人との交流》
ダブルスは日本人どおし組んだほうが、勝てる可能性も高いかもしれません。しかし、ここは勝負の場のITFとは少し違い、経験の場の意味合いが強いATFです。必ず自分で探して外国人のペアを見つけること、日本人どおしのペアは禁止!という課題を出しました。以前、フロリダ遠征の時には、さすがシャイな日本人、1時間くらいもじもじして話かけられない子もいました。…が、どうぢてどうして。今回の6人は逞しいです。みな、積極的に話しかけ、ペアさがしによる交流作戦は大成功です。すぐにペアが見つかった子もそうでなかった子もいましたが、私の通訳の手助けも借りずにみなよくやりました。
そのせいもあってか、本戦の最終日あたりのころは、もうたくさんの友達ができ、それぞれにあだ名も付け終わり、国の違い言葉の違いなど全く忘れてしまう関係ができあがりました。これはすごい事です。
《異国の文化、生活に接する》
異国の文化、生活に接することにより、子供たちが多くの事を得るのは、毎回どこの国へ行ってもかわりはありません。子供たちの中に形成されつつある価値観に大きな影響を与えます。できれば、あまり大きくなる前に(できれば小学生のうちに)このカルチャーショックをお子さんに受けさせてあげてください。人間は年をとる程、石頭になります。
アラビアの、そしてイスラムの文化は子供たちにどのように映ったでしょうか?
《親の参加》
今回、ひとりのお父様が娘に同行してツアーに参加しました。親がいっしょに行って試合を見ることについて…これは、ものすごく大切な事だと思います。お金が倍近くになってしまいますから、そう何回もというわけにはいかないかもしれません。しかし、自分の子供を海外遠征に行かせる意味というものを再確認、あるいは、気づかなかった意味を新しく発見する機会にさえなります。さらに、あまり海外の経験のない親にとっては、子供といっしょに、ものすごく価値観を揺さぶるほどの大冒険の経験を共有できるといううれしさがあります。子供もそうですが、大人も世界を見たほうが、地元での小さな競争にそれほどこだわる必要がなく、もっと大きな物を見つめて進んでいかなくてはいけない事を実感できるはずです。ひょっとしたら、同じ市に住む、絶対負けたくないライバル(もう何十回も戦ってる)との対戦で、将来につながるすばらしいプレーをしながら、スコア的にはボロ負けしてしまった時に、誉めてあげられるようになるかもしれませんね。(笑)
《最後に》
最後に、この遠征に行くにあたり、多くの方に感謝をしています。私のクラブのジュニアの生徒のみなさん、大人のクラスの生徒のみなさん、妻のMiho、母、クラブのオーナー、遠征に参加した家庭のみなさん、そして選手たち、子供たちの世話をたくさんしてくれて私の仕事を減らしてくれた織田さん、各選手のクラブのコーチのみなさん、旅行会社の川崎さん。本当に多くの方のおかげで、とてもすばらしい遠征になりました。そして、子供たちの作文からわかるように、参加した選手たちも、多くのみなさんに感謝の気持ちを持っている事も、私の最大の喜びです。
K-Tennis Training 木全宏之
バーレーン遠征記おわり
…でも…
「おだパパから見たバーレーン日記」がそのうち載るかもかも?