和歌山県東牟婁郡古座川町松根
若宮神社からは七川ダムに出て、古座川本流に沿って上流に向かう。
七川ダムは桜の名所で、五分から七分咲きといったところであったが、次の神社とスケジュールが気になるので写真は撮らず。
山間部でこれくらい咲いているのだから、海に近付く後半のスケジュールなら満開の桜が見られるだろう。
と思ったのは失敗で、後半も、一部でしか綺麗に咲いている桜には出逢えなかった。
川岸神社は、十年ほど前、古座川源流の植魚の滝に訪れたときにも立ち寄ろうと思っていたのだが、その時は結局素通りしてしまっていた。
今回の計画を立てるまで、そんなことすら忘れていたほど歳月が経っていたことに驚いてしまう。
実際、大阪方面からは、行けなかったから今度にしよ、と簡単には行けない奥地にある。
進むにつれて緑も減ってきて、辺りはまだ早春の風景になってきた。
車道から対岸に神社らしきものが見えたので車を降りる。
古座川の河原に降りる階段も見えるが、そこへと続く橋は無い。
昔はそこにあったのか、あるいは神様の通り道、それとも禊場なのかも知れない。
対岸へ渡る橋は、ここより少し上流側にある。
若宮神社とは違い、ここは正真正銘の吊り橋を渡って参拝する。
この辺りは比較的落葉樹が多く、まだ冬の装いの木々が見られる中、五分咲き程度とはいえ、山桜が咲いていたのは嬉しかった。
橋の下の古座川。
河口辺りまで澄んだ水が流れるいい川だ。
若宮神社の橋とは違って、当然、ここはやや揺れた。
対岸に渡って先ほど車道から見た位置に戻る形で進む。
川沿い、というより森の中に佇むように鳥居がある。
鳥居と、木々と、苔生した石段に魅せられてしまう。
鳥居の真正面には、車道から見た河原への階段がある。
石段を少し上って振り返ればこんな感じで、古座川の流れが見える。
緑を積み上げたような石段を進む。
土を綺麗に整地して石の板を乗せていくのではなく、石垣のように石を組み上げて作られているようだ。
これなら、大雨などで土台となる土が簡単に流出することもなく、石段が傾くこともない。
もっとも、一般的な石段の工法など知らないのだけど。
簡素に見えて、労力がかかっている。
だからこんなに苔生すほどになっても、殆ど歪みは見られない。
石段を上りきると右に社殿。
鳥居と同じく川の方を向いている。
拝殿越しに本殿。
手前の杉は、古座川町最大級の杉らしい。
自然に包まれて、人と信仰がそれと溶け合うようなところだった。
撮影日時 190329 12時50分~13時15分
地図
和歌山県東牟婁郡古座川町添野川
古座川町に入るのは久しぶりだ。
もしかしたら、古座川源流にある植魚の滝に訪れたとき以来かも知れない。
そうだとすれば、十年ぶりということになる。
前回の記事では、すさみ町では海岸部に目が行ってしまうと書いたが、古座川町だと滝や渓谷に目が行く。
南紀は神社の数も少ないし、見たい自然景観が多くてなかなか神社に辿り着けないが、今回、古座川町では二ヶ所の神社に寄る予定だ。
古座川町の神社は、掲載どころか、訪ねるのも初めてである。
この若宮神社については、ネット上で、苔の神社と書かれているのを目にした。
苔は好きだし、調べてみると、もう一つ好きな要素が見つかった。
吊り橋である。
添野川沿いの道を少し遡ると、道路沿いに「苔の若宮神社」と書かれた木の看板がある。
神社は対岸にあって、車道から階段を降り、吊り橋で向こう岸に渡った先にある。
吊り橋を渡って参拝する神社なんて、全国にどれくらいあるのだろうか?
恐らく数えるほどしか無いと思うし、吊り橋だけでもワクワクするのに、更に神社と苔がセットである。
が、後で写真を見るまで気付かなかったのだが、これは吊り橋のコンクリート支柱が残っているものの、下には鉄製の橋脚もあるし、そもそも吊っているロープが無い。
渡っている時に気付かないとは、何ともマヌケな話である。
橋の下を流れる添野川は、上流に民家はあるものの、澄んだ綺麗な流れだ。
橋を渡り終えると、道は左右に岐れた。
神社は右だけど、左に続く苔生した小道に惹かれる。
少し進むと簡易トイレがあった……。
そこから神社の方を見る。
参道と言うほどのものは無いし人工物も多いのだが、苔のお蔭か、とても雰囲気はいい。
川に向かって、朱の鳥居が緑の中に立っている。
私は撮影をするので歩みは遅い。
だからいつもT君が先行するのだが、そのT君が、「苔はまあまあっすね」と言う。
まあまあがどの程度のものか判らないが、とにかく見てみようとすると、「まあまあじゃなくて、けっこう凄いっすわ」などと評価が変わる。
実際に見てみると、範囲はそれほど広くないものの、ふかふかの緑の絨毯があった。
緑の中で、朱の鳥居だけでなく、朱の拝殿も映える。
けっこう新しく見える拝殿に、少し嬉しくなる。
いつもなら古びていた方がいいと思う筈だが、山奥にある神社が活気づくのは喜ばしいし、南紀らしい石垣とその緑の深さに、朱色の拝殿は似合う気がした。
本殿も、それほど歳月は経っていないように見える。
拝殿が朱色で本殿がそうではない、という取り合わせは、あまり記憶には無い。
が、独特の美しさを感じた。
吊り橋では無かったが、苔と、山奥にしては華やかな社殿は、期待以上に楽しませてくれた。
次の神社は、更に山奥である。
撮影日時 190329 11時40分~12時5分
地図
和歌山県西牟婁郡すさみ町佐本中
大谷稲荷神社から二キロほどで、次の目的地である中山神社に着く。
先程のおばさんは、この辺りでいちばん有名な神社だとおっしゃっていたし、付近もこの辺りの中心集落であるようだ。
と言っても、長閑な風景に変わりはない。
有名かどうかは知らないが、ここも小山の上にあって、参道が長そうなので気になっていた。
神社前に立って最初に目に付く太鼓橋。
そして、鳥居の奥へと続く参道は、予想以上に深そうだ。
この橋、橋脚も無ければモルタルなどで接着しているわけでもなく、アーチ形にすることで、石同士の重力で支えられている。
すさみ町の指定文化財。
渡ってすぐのところにある手水鉢は、木に飲み込まれそう。
参道の方は、本当に予想外の深さと立派さ。
こういう尾根上は、谷間に比べて大木が育ちにくいし苔も生えにくいのだが、ここはそれなりに大きな木もあるし、苔にも覆われている。
湿度が高いのであろう。
石段の先には門も見えてきた。
簡素なものだが、わくわくしてくる。
雨の多い時期に来れば、もっと苔の色は鮮やかかも知れない。
門の先も参道は続き、
やがて180度折り返す。
この辺りは更に苔生している。
再び折り返すと社殿が見えてくる。
登り切った先は意外に狭い空間で、正面は拝殿が横いっぱいに広がっている。
横の隙間から本殿も見られるが、覆屋の中だし、撮影もしにくいので割愛。
立派な参道からすると、ちょっと拍子抜けする感じではある。
ただ、とても清浄な空間に感じられる。
ここも木の根が露出しており、何やら凄味があった。
すさみ町辺りは、地図を見ていてもついつい海岸部に目が行ってしまうのだが、山間部でこういった神社に出逢えて良かった。
撮影日時 190329 11時~11時30分
地図
和歌山県西牟婁郡すさみ町大谷
最近はロクに下調べもせずに、行きたい場所を二、三か所決めてあとは適当に、ということが多かったが、今回はかなり綿密に計画を立てた。
行き当たりばったりだと、結局効率が悪くて数か所しか周れないことが多いし、後になってここも行けば良かった、と後悔することが度々あるからだ。
結果、十数か所の目的地と、それぞれの到着時間、出発時間まで決め、グーグルマップの航空写真やストリートビューで駐車可能な場所も確認し、道順もほぼ頭に叩き込むという、普段からは考えられない緻密な予定が出来上がった。
もっとも、計画とは予定通りにならないのが常で、数か所は見逃すことになるだろうとは思っているが、下調べをしっかりしておけば、時間が足りないときの取捨選択が容易で、後で悔やむことも減るだろう。
今回もT君と車で南紀に向かう。
前回降りた日置川インターを過ぎ、その次のすさみインターで高速を出る。
一つめの目的地は期待外れだったので掲載はせず、まずは二つめの目的地である雫の滝から。
といっても、ここもオマケ扱いで掲載しているわけだが。
雫の滝は名前とは裏腹に、けっこう豪快な滝である。
道路のすぐそばにあるとは思えないスケールで、T君も「おお」と声を上げる。
ただ、ここ暫くまとまった雨が降っていないので、水量は少なめだ。
スマホで他の方々が撮った雫の滝を見たT君が、「最初はスゲーって思ったのに、画像と比べたら水が少なくてガッカリっすわ」などと言う。
知らんがな。
滝の左手前には石が積まれ、その上に祠がある。
滝壺は広く深く、寛げる空間もあるし、夏ならば水遊びするのにいい環境だ。
水は上流に集落もあるので、やや濁りが感じられる。
それが理由というわけではないが、この滝の存在はずっと前から知っていたものの、私はあまり惹かれなかった。
実際に見てもそれは同じで、撮影もそんなに楽しくない。
出来れば一つの記事にしたかったが、最初から「ついで」のつもりで訪れたので仕方ない。
二か所ほどの目的地を実際に見てからスルーし、大谷稲荷神社に向かう。
集落内の、やや狭い道に入り、大谷会館と書かれた公民館らしき建物の向かいに駐車。
鳥居は見当たらないが、参道はその建物の横から伸びている。
素朴な石段が続いており、鳥居は無くとも参道であることはすぐ判る。
神社は小山の上にあるので、結構な長さの参道である。
急な登り一辺倒ではなく、こういうなだらかな部分もあるのがいい。
ただ、ちょっと雑然としているというか、尾根上の道で潤いに欠けるというか…。
光線の向きの影響も大きいようで、振り返って撮れば印象は変わる。
鳥居が見えてきた。
かなり傷んだ鳥居だが、所々で石畳になっており、熊野古道を思わせる。
今は人も少なくなって修繕もままならないのだろうが、大事にされていた神社なのだろうな、と思う。
登りきると小さな広場で、正面に割拝殿のような建物がある。
雨による土砂の流出があるのか、山頂部の木々の多くは、こんなふうに根を露出させていた。
拝殿から本殿を見る。
拝殿と本殿の間の狭い場所に木々があって、何か「空間」を感じさせる佇まいに惹かれる。
狛犬さん。
ゆるキャラが巷に溢れているが、昔から日本人はそういう遊び心があったのだな、と思う。
狛犬とゆるキャラを一緒にするなとお叱りを受けるかも知れないが、可愛くしたり、ユーモラスにしたりする余裕がある社会はいいものだ。
本殿覆屋。
境内社は一つのみだった。
車に戻ると地元のおばさんが話しかけてこられた。
人懐っこい方で、南紀の人らしいなと思う。
次に向かう神社のことや、七川ダムの桜の状況などを教えてもらう。
予定時間が、などと思ったりもするが、こういう会話ができるのが一番楽しいことである。
撮影日時 190329 雫の滝 9時30分~9時40分 大谷稲荷神社 10時10分~10時40分
地図 雫の滝 大谷稲荷神社
和歌山県田辺市中辺路町野中
久しぶりにT君と出掛けることにする。
だが、季節的に中途半端でもあるので、あまり撮りたいものが思い浮かばない。
梅の花ならそろそろ咲いていそうだし、昨年訪れた賀名生梅林にはもう一度行ってみたいが、満開にはまだ早い。
それならと、もっと南の梅林を検討するものの、南部梅林は人が多そうで、その周辺の梅林を調べてみても、惹かれる風景が見当たらない。
更に南へと範囲を広げていくと、小森梅林というのが目に入った。
地図に記載は無く、ごく僅かな記事がネットで見つかるのみ。
実際に小森梅林という名称が使われているのかどうか知らないが、旧日置川町の小森というところにある。
ということで、今回はそこを起点に、他に行きたい場所を決めていったのであるが、結局、小森梅林はオマケ扱いの記事になってしまった。
いつも阪神高速だけ使って、あとは下道で行くことが多いけれど、今回は贅沢にも田辺まで高速で行く。
その先の日置川へも無料の高速で、二時間ほどで南紀白浜を過ぎ、遥か遠いイメージの日置川には意外と早く辿り着く。
日置川インターからは日置川沿いの県道を走り、安居の集落で山への狭い道に入ると、暫くで山に囲まれた小盆地のようなところに出る。
そこが小森で、盆地を埋めるように梅の木が植わっている。
辺り一面が梅で、梅の花の香りが漂っている。
日曜にも関わらず花見客は皆無で、逆に梅林を手入れする人は多い。
狭い道では軽トラを除けてくださったり、出逢う方みんなが挨拶してくださったりと、素敵な場所で素敵な人達である。
だからオマケ扱いなどしたくはないのだが、良くも悪くも、ここは観光梅林ではなく、鑑賞向きではないのだ。
ただ見る分にはそれでもいいのだが、写真を撮るとなると、青いネットが目障りだし、パイプが通っていたりする。
この盆地を見下ろす高いところへも上ってみたが、梅林を一望できて美しいものの、写真にするには木々が邪魔であったりと、何かと欲求不満になる。
一画には、小さな牧場があって、黒毛の和牛らしきものがいた。
熊野牛というやつだろうか。
楽しくはあったが、写真的には不満の残るまま、次の目的地へ向かうことにする。
これから向かう継桜王子は結構離れており、元来た道を暫く戻って、国道311号線に入る。
ドライブイン的なところに立ち寄って昼食。
T君は熊野牛の肉うどん、私は和歌山ラーメンとめはり寿司のセットを食べる。
そこからは直ぐに国道を離れ、やや狭い道を野中へと進む。
神社の少し手前に「駐車場」と傾いた看板に書かれた場所があったのでそこに車を入れる。
参拝者、もしくは観光客用駐車場と思うのだが、そのような文字は無かったし、もしかしたら停めては駄目なところかも知れない。
かやぶきの茶屋を過ぎると神社入口が見えてくる。
付近は素朴ながらも観光客を迎えるような雰囲気があるが、ここも余所者は皆無。
ここは、鳥居前と参道両脇に立つ巨杉が見事。
樹齢800年ほどであるらしいが、本来、もっと木々が繁っていたところ、明治の神社合祀令の際に多くが伐採されたという。
今残っている杉の巨木は、南方熊楠の尽力によるものらしい。
ここの杉は一方杉とも呼ばれ、枝が那智大社の方を向いていることによるが、これは植物の向日性によるものである。
それはともかく、随分前に、このすぐ近所にある野中の清水までは来たことがある。
まだ神社巡りを始めて間もない頃で、その時はまだ「〇〇王子」という文字を地図で見ても、何のこっちゃ、であったので、ここには立ち寄らなかった。
熊野古道に興味のある方は当然ご存知であろうし、そうでない方も、王子社で検索すれば詳しい説明は簡単に見つかるので、あえてここに書く必要もないだろうが、べつに継桜神社と書いても差し支えないと思われる。
参道はかなり急であるにも関わらず、手摺の類いは設置されていない。
写真を撮るにはありがたいが、足腰の弱った高齢者には厳しいだろう。
石段を上りきると少し開けた場所に出て、その右寄りに本殿が建っている。
数年前に地元の人が書かれた記事で、この社殿の傷みが激しく修繕のために寄付を募っている、といった内容のものを見たことがある。
そこに掲載されていた写真では、塗装は剥げ、高欄は朽ち、土台も腐って社殿は傾いていた。
私は王子社について詳しくはないが、継桜王子は数ある王子社の中でも比較的有名なところだと思っていたので、その写真を見たときは驚いた。
今回、実際に訪れてみて、無事、その社殿が修繕されたことを知り嬉しくなった。
派手なようでいて渋さがある。
なかなか味わい深く、周囲の風景とも違和感なくある。
誰も来ず、思いのほか寛ぐことができた。
さて、次の目的地に向かうとしよう。
撮影日時 190224 小森 9時30分~10時15分 継桜王子 12時50分~13時10分
地図 小森 継桜王子
日置川の滝巡りを終えて、帰りのルートをどうしようか迷う。
往きと同じではつまらないので、ちょっと遠回りでも日置川を遡り、中辺路の近露、十津川経由で帰ることにした。
せっかくだからもう少し日置川に寄り添って、その表情を見ておこうという気持ちもあった。
近露辺りに流れる川は、何となく富田川の上流のような気がしてしまうのだけど、実際には日置川がくねくねと険しい山中を縫って近露からさらに奥、果無山脈へと続いている。
道中はひたすら山の中を行く印象で、国道を走る部分でも、時に林道レベルの道になる。
そんな道のりで、少しは平地が出てきたなぁと思える場所が下川下の集落で、そこに春日神社がある。
地図に名称は載っているのでその存在は知っていたが、今回はどこも神社に寄らず帰ろうと思っていた。
だが、国道からその鳥居と石段、さらにその上にある鳥居が見えたときに、ふっと惹かれるものがあって立ち寄ってみた。

国道に面した鳥居は割愛。
たぶん私は、石段の上、鳥居の先にある緑に惹かれたのだろう。

上りきってみると、べつに深い緑というわけでもないのだけど、何となく、「いい感じだな」と思える雰囲気がある。

日が翳れば、ふっと鎮まるような気配も訪れる。


拝殿の両脇には相殿が並び、すっきりとした端正な姿だ。
境内左手や、社殿の背後には杉の大木もあって、明るく開けてはいても落ち着いている。

鳥居を振り返る。

本殿と相殿。
どちらもすっきりとした姿である。


相殿は彩色されており、レンガ色というか、くすんだような朱色。
で、その手前にある狛犬が、なかなか個性的な姿をしている。
大きく撮らなかったので後悔した。
2万5千分1地形図 合川
撮影日時 101022 14時10分~14時30分
駐車場 三叉路のところに停めたが、停めていいのか微妙・・・。
地図
17年ほど前に、ここを訪れたことがある。
海に突き出した岬は深い緑で覆われており、江須崎暖地性植物群落という天然記念物に指定されていて、当時、植物に夢中になっていた私は、ぜひ見てみたいと思ったのだ。
その後も何度か足を運んでいて、植物よりも、海や空に触れられる気持ちの良い場所として親しんできたのだが、神社に興味を持つようになって、ここで神社を見たことがあるのを思い出した。
ところが海の風景ははっきりと思い出せるのに、どんな神社であったかは全く思い出せない。
ここは夕日の美しい場所でもあるし、夕暮れの海と併せて神社にも再訪したいと思った。
夕暮れ前に行く予定だったのが、空があまりに綺麗だったので、他に訪ねる予定だった場所を取りやめて江住に向かう。
国道42号線から海岸方向への道に入り、突き当たりに駐車場がある。
そこに「エビとカニの水族館」というのがあるので、興味と時間がある人は立ち寄るといいだろう。
駐車場奥から遊歩道に入る。「日本童謡の園」として整備されているところで、各所に設置されたセンサーが人を感知すると幾つかの童謡のメロディーが流れる仕掛けになっている。
水族館にしても公園にしても、休日はどうか知らないが普段は閑散としていてる。また、駐車場から公園一帯にかけて、とにかく猫が多い。
もちろんセンサーは猫にも反応するので、時々誰もいないのにメロディーが流れ出してギョッとすることがある。
遊歩道の先は、海岸へと降りる階段になっている。あまり訪れる人もいないのか、階段を覆うように木の枝が張り出しているが、ここから江須崎島と春日神社の鳥居が望まれる。

江須崎は、よく見れば小さな橋で繋がっているから、いちおう島ということになるのだろう。
その橋の先の道を辿ったところに鳥居が見える。

左右に海を見ながら続く一本道。
大好きな場所のひとつであり、懐かしさと心地よさに浸れる。が、台風並みに強い風が右手から吹き付けていて、呼吸が乱されそうなほどだ。

江須崎島へと橋で渡る。
小さな橋とはいえ、両側の海は広大だし、海を渡る、というだけで愉快な気分になれる。

どこからか漂流してきたゴミがあちこちに打ち上げられてはいるが、橋の下の水は綺麗だ。

鳥居をくぐるとすぐに右手に石段があり、上りきったところから左へと参道が伸びている。
いかにも暖地性といった感じの木々に覆われ、やや雑然とした印象。

参道横を見れば、神社の杜というよりは密林。

そこを抜けると眩く広い空間に飛び出て、右手に割拝殿のような建物が現れる。
どうやら社務所のようだ。

社務所の先も木々は深そうだ。

頭上でごうごうと風が音を立てているが、境内では木々で抑えられて心地よく流れる程度。
空も日差しも気持ちよく、狛犬と一緒に日向ぼっこする。

社務所の先はやはり密林。
左手に本殿覆屋の屋根、中央右手に境内社覆屋の屋根が僅かに見えている。


本殿。
辺りはそれなりに広く空間が開けているが、深く木々に包まれている。
暖地性の木々の樹形によるものか、ちょっと不気味な雰囲気が漂う。

境内社。
覆屋は白い彩色が施されているが、南紀では珍しくない。青と白と赤というカラーリングも見たことがある。

本殿右奥から、岬の先端にある灯台へと向かう遊歩道がある。
やはり雑然とした密林の中の小道だが、木漏れ日の中をひらひらと舞う可憐な蝶がいた。アサギマダラだ。
なかなかじっとしていてくれないので、これが辛うじて撮れた一枚。

灯台から熊野灘を望む。
左に見える平らな陸影は本州最南端の潮岬だ。
帰路は来た道と違う道を辿るが社務所前の空間へと出る。

夕暮れの海が撮りたいので時間潰しに海岸に出る。
外海に面したところでは波が高い。

豪快に水飛沫を上げる。

潮溜まりでは、ナマコやヤドカリも沢山いて退屈しない。
この後、もう一度神社へと行き、ぼんやりとしてすごす。

やがて夕暮れ。

頭上の空にはまだ青さが残る。

残念ながら、この後、太陽は水平線近くにある雲の向こうに隠れてしまい、海へと没する姿は見せてくれなかった。




海への落日は無理でも、夕暮れ時の海の表情は多彩だ。
前から海をスローシャッターで撮ってみたかったので試してみる。まだちょっと明るいので中途半端か。

空も多彩な表情を見せる。

もう太陽は海の向こうに没したであろうが、余韻は暫く続く。

もう一度スローシャッターで。
これくらいだと海面を霧が這っているかのように幻想的になる。

雲の加減であろうか、最後に輝きが増した。


ふと気づけば、風も弱まり、波も穏やかになって、夕凪のやさしい気配に満ちていた。
駐車場に戻り、やがて満天の星空。
2万5千分1地形図 江住
撮影日時 090910 13時半~19時
駐車場 公園にあり
地図
神社らしからぬ名称で目を引く。こうず神社と読むらしい。
護良親王がこの地に潜伏した際、親王を匿っていた豪族の娘との間に子をもうけたが、死産であったため、その骨をここに祀ったとされる。
神社の特異な名称はともかく、神社そのものは小さく、特に目を引くものもないし、写真も少ししか撮っていない。ただ、和歌山県は極めて神社の少ない地域でもあるし、地理的にも行きにくい地域である。ここに掲載した神社も長らく一社のみのままで気になっていた。
写真としてはやや寂しい状況ではあるけれど、雨天の参拝ということもあって、捨て難い雰囲気があるのではないかと思う。
神社のある北山村は和歌山県の飛び地である。市町村レベルでの飛び地は珍しくもないが、県の飛び地ということで有名な場所でもある。実際、車で走っていても和歌山県にいる気がしなかった。

北山川に沿った国道169号線から、竹原谷沿いの道に入ってすぐ右手に神社への石段がある。

上りきれば正面に本殿。
杉に囲まれた、山腹の小さな空間である。

大木は無いけれど、雨霧に煙る背後の杜は神秘的だ。

常緑の木々達の中で、僅かばかりの黄葉。そしてよく手入れされているらしい鮮やかな彩色の社殿が、淡く華やぎを添える。

神社の向かいを流れる竹原谷。
渓谷美があるわけではないけれど、こういう清流が近くにあるだけで心地良い。
2万5千分1地形図 大沼
撮影日時 081205 11時~11時20分
駐車場 なし 道のやや広いところに路肩駐車
地図
和歌山県へは、今までに数え切れないほど足を運んでいる。それも南紀ばかりで、目的は山や海の風景に出会うためであったから、足を運んだ回数とは逆に、神社へは数えるほどしか行っていない。
そもそも、和歌山県は神社が少ない。どれくらい少ないかと言うと、沖縄を除いた全都道府県中、最も少ないのである。最も多い新潟県の10分の1以下の数だ。
これは、隣の三重県と共に明治の神社合祀令による影響が大きく、豊かな木々に恵まれていた土地柄だけに残念でならない。
そんな和歌山県の神社の第一社めであるけれど、恐らく殆ど誰も知らないであろう神社を載せることにした。
上手く言えないが、とにかく好きな神社で、ここを訪れる度に深く心が安らぐのである。
小さく、地味で、しかし緑濃く、潤いのある場所なのである。

谷間の狭い道を進むと、一際、背の高い木々の茂る一角がある。
車道から石段を下りると鳥居前で、渓谷の傍に佇む小さな神社である。

上流に民家があるため、飲めるような水が流れているわけではないが、それでも流れは美しい表情を見せ、常にせせらぎを境内に響かせている。

割拝殿越しに本殿。
と、撮影中、鳥が暴れるような羽音を立ててから飛び去っていったので、音のした辺りを見てみると・・・

拝殿に巣を作っていた。
よっぽど人が来ないのだろうか・・・。

狛犬は本殿の前のみ。
覆屋の中の本殿は、何故かしっかり見たことが無い・・・。

やはり目を引くのが、この境内の緑。
ほぼ全域が苔に覆われている。
温暖多雨の南紀ならではか、あるいはやっぱり、よっぽど来る人がいないのか。

このすぐ先が谷川で、大雨が降れば、浸水しそうなくらいの高低差しかない。

谷の対岸は、高さ数十メートルの岩壁が聳えている。
大木と苔と流れと岩が、狭い空間に凝縮されている感じだ。

もう夜も近い。夕暮れの余韻を川面に映すのみ。

一転して明るい写真を。
神社からやや離れた場所にある色川集落である。手前は中学校で、その向こうに棚田と山並みが続く。
南向き斜面にあるため明るく開放的で、実際に暮らす不便さはともかく、見た目には桃源郷のように映る。
事実、都会からの移住者が多いという。
私もちょっと住んでみたいと思った。
2万5千分1地形図 紀伊大野
撮影日時 080521 18時前~19時 最後のみ 070405 11時頃
駐車場 神社前に駐車可。通行車両の邪魔にならないように。
地図