神社のある風景

山里の神社を中心に、歴史や建築等からの観点ではなく、風景という視点で巡ります。

花枝神社

2010年02月26日 | 滋賀県

滋賀県甲賀市土山町大野


まずは名前に惹かれた。
こういう優しく温かい印象を受ける名前の神社は珍しい。
次に、航空写真を見て、その鎮守の杜の大きさに惹かれた。
国道1号線に接した場所ではあるが、清澄な空気に触れられそうだ。
それに、これだけの社域を持っていながらネット上での情報が少なく、どんな場所であるのか気になった。

夜明け前の国道1号線を東に向かって走る。
雨が降ったり止んだりの天気で、まだ空も暗い状態だから、神社を見過ごすのではと思ったが、広大な杜は、夜でもはっきりそれと判る存在感で左手に黒く横たわっていた。
空が白み始めるのを待って、鳥居をくぐる。
杜の中は夜にも等しい暗さだが、雨の上がった空は、思いのほか高くにある。
左右は10メートル先も見通せない闇で、子供の頃は畏れや怖さの対象であった筈なのに、今は安息の方が強く感じられるのは何故だろう。
前方は木々がやや開け、社殿が淡い光に浮かび上がっている。







辺りをうろうろしながら時間をつぶし、少し明るくなってから撮影。
鳥居は1号線に面しているので早朝であっても通行量が多く、撮影しなかった。



雨上がりのせいもあるが、朝の杜の空気は澄んでおり、背後を行き交う車も気にならない。



鳥居を振り返る。
ひっきりなしに車が横切る鳥居の向こうとは、隔絶された世界のようだ。





色褪せたモミジは雨に濡れそぼって、見る影も無いようにも思えるが───



何ともいえぬ深い味わいを持っているようにも見える。



本殿。



本殿右後方の御神木。



社域に対して、参道や社殿はかなり西寄りにあるので、東側の杜の奥行きはかなりのものだ。
辛うじてまだ鮮やかさを残したモミジもあった。





そのモミジが朝の光を浴びて、杉主体の杜が華やぐ。





やがて杜の向こうで太陽が顔を出す。
ひっそりと息づいていたものが、一気に目覚めて弾けるような瞬間だ。





大木といえるほどのものは無く、決して豊かな森といった環境でも無いかも知れないが、平地にあって、これだけの奥行きのある木々の広がりは貴重だろう。
花枝神社という名前から受ける印象に比べれば、杉ばかりの森はやや味気ないが、朝の優しい気配には満ちていた。


2万5千分1地形図 水口
撮影日時 091204 6時半~8時

駐車場 神社前がチェーン装着スペースになっている。神社の西側からは車で境内に入れる。
地図


前鬼川

2010年02月16日 | 滝・渓谷

奈良県吉野郡下北山村前鬼


近畿でも有数の規模を持つ「不動七重滝」を懸ける川だ。
この滝を見て滝好きになったという話も聞くし、絶賛している記事も目にする。
だが、以前にも書いたと思うけれど、私は滝の高さや大きさにはあまり拘らないし、流れが繊細な表情を描くものを好む。
ここを訪れた目的は、滝そのものよりも前鬼川の水の美しさを見てみたいと思ったからだ。
前鬼川独特の青さ、と表現されることもあるし、20年近く前に発行された写真誌では、とある風景写真家が「日本一、いや世界一の清流ではないか」とさえ書いている。
ただ、内容的にはタイトルは「不動七重滝」とすべきなのだろうと思う。「前鬼川」とするには、あまりに短い距離を見ただけで、川のほんの一部しか紹介出来ないからだ。

私の手元に、初版が昭和49年発行の登山ガイドブックがある。
そこでは不動七重滝は「不動の大滝」と書かれており、更に、「誰が誤って付けたのか不動七重滝との標柱が立っている」との記述が見られる。
大体において、この手の本の執筆者は地名の採集に努めるもので、少なくとも当時は「不動七重滝」の名称が使われていなかった可能性があり、しかも誰かが勝手に命名したものが一人歩きしてしまった可能性もある。
こういったことは、地名の少ない山間部においては普通に起こり得ることで、特に最近のようにネットの普及した社会では、勝手な命名が簡単に広がる恐れがある。
現状は、全ての記述が「不動七重滝」であり、完全に固定化しているが、もしこれが本来の名称でないなら、と思うと、ちょっと憤りを覚えてしまう。
ただ、本来は「不動七重滝」だったのが、一時的に使われなかった時期があった、という可能性も考えられる。
どちらにしても、私としてはどうも落ち着かない気分なので、昔から変わっていないであろう名称の「前鬼川」をタイトルとした。

地名というのは、その字や音に、歴史なり地形なりの情報が内包されている。
ネット上でも、執筆者の感性で地名や滝名を付けているケースを見かけるが、安易な改変や命名はすべきではないと思う。



池原ダムのバックウォーターから外れ、前鬼林道を奥へと進む。
夜明け前に滝の展望所に到着し、明るくなるのを待って撮影。
ごうごうと滝音が谷間に響いて、音からもスケールのほどが窺える。





大きな滝ではあるが、やはり遠望では面白くない。



展望所から少し下れば、ある程度滝の近くまで行ける遊歩道があるらしいが、まずは滝の上流部に行ってみた。
ほぼ同じ場所を撮った古い写真を見たことがあるが、川床は白っぽい小石が敷き詰められたようになっていて、もっと明るく透明感があった。流されてきた土砂で埋まってしまったのだろう。
もう少し日が高くなってから撮った方が透明感が出てくれたかも知れない。


林道を下り、遊歩道の入り口に車を停めて歩き出す。
林道は川よりかなり高いところを通っているので、まずは急な下り道だ。
降り立ったところは広くて明るい河原であり、道は対岸に続いているが、橋は数年前の台風で流されているので渡渉しなければならない。
浅いところを選んで渡って水深は膝上20センチくらい。増水時は危険だろう。
というより、あまりの水の冷たさに驚く。その冷たさに脚が絞られるような痛みで疼き、渡り終えてから暫く蹲ってしまう。もし足を滑らせたら心臓麻痺を起こすんじゃないかと心配になったくらいだ。
そこから上流に向かって進めば、すぐに河原も尽きて岩が目立つようになり、川幅も狭くなって水深も増す。
水の美しさが際立ってくる。














思っていたような「青さ」ではなく、どちらかと言えばグリーンの水色だ。
以前に訪れた古座川源流の方が青いと思えたが、もっと上流部は白い岩が多いらしく、それによって青く見えるのかも知れない。
今回はそこまで行かないけれど、それでもこの水が描く鮮やかな帯は魅力的だ。



谷間が険しくなる頃に、右手の斜面に階段が見える。
取り付き付近だけ荒れているが、全体的には写真のようにしっかりした道だ。
まあ道というよりも、ひたすら階段というようなもので、1000段近くも上ることになる。
当然、運動不足の私は何度も足を止めることになるのだが、何よりも、この険しい地形にこの道を作られたことに感嘆する。
地道でないのは、殆どが岩場であるからで、足場の確保さえ困難な地形で資材を運び、加工し、施行された工事の方には頭が下がる思いだ。
歩くだけでへばってる場合じゃない、と重い足を何とか持ち上げて先に進む。






やっとのことで観瀑台に到着。
残念ながらこれ以上は近づけないが、それでも凄まじい水勢による風が吹き付けてくる。



来た道を戻る。
谷間に朝日が射し込んできて、往きとはまた違った表情を見せる。






美しいので、やっぱり帰りも撮ってしまう。






川床の石が白く、やや明るい場所だと、やはり青みが出るようだ。









河原に出ると、流れは陽射しをいっぱい浴びて輝いていた。
同じ川の水、しかも僅かな距離を移動しただけなのに、水は全く違う顔になる。



更に下流に目を向けると、往きには気付かなかった吊橋が見えた。



出来れば渡ってみたかったけれど、かなり傷んでいたので断念。

観瀑台に行くのに体力を使い切ってしまったので、次に訪れることがあれば、もっと川をじっくり歩いて撮ってみたい。


2万5千分1地形図 釈迦ヶ岳
撮影日時 091120 6時~9時40分

駐車場 遊歩道入り口に駐車可
地図


雑多な写真14

2010年02月09日 | その他

このブログを開設したのが2008年の2月4日だったので、先週には二周年を迎えていたことになる。
で、「二周年」という記事を書こうかとも思ったのだが、文字だけではちょっとつまらない。
半年と一年のときにも記事をアップしたが、その時は、それまでの掲載写真の中から気に入ったものを大きなサイズで載せていた。
だが今は「画像置き場」にそういった画像を載せているので、同じことをしても仕方ない。
というわけで、雑多な写真と共に、いちおう二周年、ということで・・・。
見に来てくださっている皆さん、いつもありがとうございます。





熊野神社 福井県小浜市仏谷
近くに椎村神社や久須夜神社といった式内社があるので、見落とされてしまいそうな神社だ。
参道を振り返れば海が見える。







香山神社 福井県大飯郡高浜町下車持
ここも参道を振り返れば海が見える。といっても、周辺環境が悪く、美しい海の風景というわけではないが。
参道がJR小浜線を陸橋で渡ったりして何だか楽しい。







廣嶺神社 福井県大飯郡高浜町下車持
香山神社の近く、こちらは海辺ではなく山際にある。
写真ではそれなりに雰囲気が出てくれたようにも思うが、実はあまり印象に残っておらず・・・。





日置神社 福井県大飯郡高浜町日置
式内社ということだが、驚くほど小さい神社で、一目で見渡せてしまう。
ただ、狭い空間ながらもどこか落ち着く雰囲気を湛えていて心地よい場所だった。





坂本神社 京都府綾部市田野町
扁額には「愛宕山」とある。
なるほど、いかにも愛宕山らしく、参道は山道で山頂に神社がある。
運動不足の身にはかなりツライ登りだった。









シワガラの滝 兵庫県美方郡新温泉町海上
滝好きの人たちの間ではよく知られた滝で、落差は小さいものの、その独特の景観から兵庫県を代表する滝の一つと言えるほどの存在感がある。
岩が洞窟状に侵食された場所に懸かる滝で、似たような滝として、和歌山の古座川にある「植魚の滝」が挙げられることがある。
ここは一つの記事としてアップしたかったが、どうも不満が残る撮影だったので・・・。
 


赤渕神社

2010年02月02日 | 兵庫県
兵庫県朝来市和田山町枚田


昨年は紅葉の写真をあまり撮っていない。
どうもタイミングが合わず、どこかへ出掛けても、紅葉には早すぎたり遅すぎたりして、そのピークに出逢えないまま秋が終わってしまった。
そんな中で、まだ比較的良い色で迎えてくれたのが、この赤渕神社で、静かで心地よい秋の一日を過ごすことが出来た。
といっても鮮烈な色付きではなく晩秋の気配で、しかも空はどんよりと曇っていて華やかさには乏しく、何だか冴えない写真ばかりになってしまったが・・・。

赤渕神社は朝来市の市街地から少し離れた場所にある。
規模や知名度は但馬でも有数だと思うし、以前から気にはなっていたのだが、地図を見ると、集落の狭い道の奥にあるので、何となく敬遠していた。
民家に近く、境内はやや開放的で、山の気が感じられるような深さとはちょっと違うものの、楼門、神門、勅使門と三つの門がある懐の深い空間は魅力的であった。



神社入り口付近は、保育園や駐車場などがあって、あまり落ち着ける環境ではない。
だが、この鳥居の奥へと緩やかに上っていく参道には先を期待させられる。



カーブを曲がった石段の先に楼門が見えてくる。
この風景は、神社というよりお寺の山門だ。



楼門越しに奥を窺えば、いかにも秋らしい色合いに満ちている。





上も下も秋の彩りである。



楼門の先には神門が見えている。



神門に向かいつつ振り返る。



神門の向こうでも木々が秋を演出している。
赤や黄色もいいが、こういう橙色の暖かみある色合いもいい。



神門の先は広い空間。
参道は更に奥へと続く。



石段の上に見えてくるのは勅使門だ。



神門方向を振り返る。



勅使門。
当然、こちらの扉は閉じられくぐることは出来ない。



拝殿側から勅使門の透かし彫りを。



勅使門と拝殿。
ここもかなり広い空間が開けている。



拝殿と、奥に本殿覆屋。



拝殿横から本殿方向。
この建物に囲まれた狭い場所だけ、ちょっと空気や光が違うように感じられて惹かれたが、残念ながら上手く写し撮れなかった。



本殿覆屋。



拝殿の左手に並ぶ境内社。
この背後は山が迫り、杜の雰囲気が良い場所だ。



本殿左手の境内社。
広い境内の中で、最もひっそりとした場所だった。


2万5千分1地形図 但馬竹田
撮影日時 091124 12時20分~14時20分

駐車場 鳥居右手の道を進むと境内に停められる。
地図