神社のある風景

山里の神社を中心に、歴史や建築等からの観点ではなく、風景という視点で巡ります。

不動滝(若杉不動滝)

2010年07月23日 | 滝・渓谷
兵庫県養父市大屋町若杉


地形図にも「不動滝」の名称が記されているが、不動滝という名は全国各地にあるので、通常は地名を冠して「若杉不動滝」と呼んでいるようである。尚、若杉は「わかす」と読むらしい。
近くには兵庫県の滝を代表するような天滝があるのだが、あまり有名なところは惹かれないし、それはまた次の機会に譲るとして、今回は鳥取の帰り道に、この若杉不動滝に寄ってみることにした。
落差は12メートルほど。有名な天滝は100メートル近くあるらしいから比較にならない。
けれど、この滝が湛える雰囲気には捨て難いものがあって、滝とは落差ではないのだなと、改めて感じさせられる。
国道から徒歩数分、遊歩道も整備されているし、容易に行ける。
秘境や深山幽谷とは違うものの、滝そのものからは幽玄な気配が感じられて、気軽に訪れることの出来る滝としては、なかなか得難い佇まいを持っていると思う。






国道脇に車を止め、橋の袂の階段を降りると流れに沿った遊歩道だ。
東屋などもあり、あまり惹かれる風景でもないが、流れは僅かに青みを帯び、清冽な印象。



すぐに不動滝が見えてくる。
岩壁に囲まれて、滝音はごうごうと反響している。
滝の右手前にはヤマアジサイの花。



湿った岩肌には、イワタバコとウワバミソウの葉。渓谷には定番の植物だ。



滝の手前には橋が架けられているので、靴を濡らさずとも滝の正面に行ける。






深く抉られた岩盤の奥に、激しい水流が白い帯を描いて神秘的だ。






空は狭くて閉塞感もあるが、それがまた心地よかったりする。









滝の右手から見たとき、岩壁は最も迫力を持って迫ってくる。



水勢によって抉られている様子もよく判る。



そして岩の表情と、青みを帯びた水の美しさ。






橋を渡って、滝の左手から見上げる。



今度は正面から。
この滝の上流がどんな場所なのか気になるところだが、地形図を見る限り平流のようで、林道も通じており、これといった見所は無さそうだ。
水田記号すらあるので、見た目には美しい流れでも飲用には出来ないだろう。









色んな角度、色んな表情が見られて撮影の楽しい滝だ。
もう一度、雰囲気に浸ってから車に戻ることにする。






国道までの短い道のり、見上げれば、サワグルミが豊かな緑で空を覆っていた。


2万5千分1地形図 戸倉峠
撮影日時 100701 6時~7時

駐車場 案内板(橋の西側)付近と橋の東側の路肩が少し広くなっている。
地図


熊野神社

2010年07月16日 | 鳥取県
鳥取県岩美郡岩美町浦富


前回掲載の甘露神社から4キロほど南西にある。岩美町の中心に近く、付近には宅地が多い。
普段の私からすると、こういう場所に立地する神社は素通りする傾向にあるが、甘露神社が最も行きたかった神社だとすれば、この熊野神社は最も気になる神社であった。
というのも、甘露神社はネットからある程度の情報が得られたが、ここは情報が僅かしか無かった上に、地図を見れば充分に惹かれる要素があったからだ。
地形図では、神社記号を中心にして結構な広さの空白地帯がある。
これは社域が広いと想像できるし、道路からの距離もあるので参道が長いと考えられる。
更にネットの詳細な地図を見てみると、やはり相当な長さの参道があり、途中に神門らしきものも描かれているし、あまり鮮明な画像は得られないがGoogleの航空写真を見ても、かなり広い範囲に亘って木々に覆われたスペースがある。
これだけの規模があって、ネットから画像情報が殆ど得られないとなると、そこにどんな風景が広がっているのか気になって仕方が無いのである。



付近は明るい宅地で、比較的新しい家も多い。
そんな大きい神社があるような雰囲気でもなく、神社入り口もあまり目立たない。
が、鳥居前に立って、いっぺんに惹かれてしまった。



木漏れ日の降り注ぐ、緑のトンネルのような参道。
想像以上の奥深さだ。












スダジイを中心とした、見事な常緑広葉樹の中を行く。
丘陵上にある参道だが、乾いた雰囲気はなく潤っている。
丘陵の周りは宅地なので、車の音や町の気配といったものも伝わってくるけれど、ここは別世界だ。






参道横は、苔が美しい。



見上げれば、照葉樹が躍動するかのように頭上を覆っている。






何やら建物が見えてきて、参道が右に大きくカーブすると



神門が現れる。
左手からも参道が上ってきており、鳥居とその先に住宅が見える。






神門の先には拝殿が見えてくる。
参道は緑深くても、社殿周りは明るい神社が多いが、ここは最後まで緑の濃い空間だ。









拝殿へと歩み寄る。



拝殿手前の階段と石垣。



拝殿前から振り返る。



拝殿横から。
木々と苔と木漏れ日の賑わい。



参道は想像以上だったが、本殿も予想以上に立派なものだった。
宅地の近くにこれだけの空間が維持されていることに驚きつつ、心ゆくまでその雰囲気に浸ることが出来た。


2万5千分1地形図 浦富
撮影日時 100630 8時~8時50分

駐車場 神社入り口より南へ200メートルほどのところで国道が広くなっている。
地図


甘露神社

2010年07月09日 | 鳥取県
鳥取県岩美郡岩美町陸上


鳥取に行くにあたって、最も訪ねてみたい神社だった。
理由を言葉で説明するのは難しいけれど、とにかく今回の鳥取行きでは最優先した。

深い木々に包まれた境内には潮騒が届く。
それが耳に心地よく、つい、木の間越しに海を探してしまう。
山陰本線を走る列車の音も、時おり響いてくる。
それもまた、郷愁や旅情に通じるもので耳障りになることはない。
参道は異空間の趣。
緑と岩に吸い込まれるような、或いは抱かれるような感覚になる。
小さな神社だけれど、その深さにただただ浸る。
人によっては、暗さや怖さを感じる雰囲気はあるかも知れないが、私にとっては心の高ぶりと安らぎが同時に訪れる場所だった。
ただ、それを上手く写真に捉えられなかったのが悔やまれる。
撮り直しに行きたい気持ちもあるが、何よりもまたこの雰囲気に浸りに行きたい。



道路脇に社号標が立っており、その向こうは線路だ。
踏切があるわけでもなく、レールを跨いで向かい側へ渡る。
左手には東浜駅が見える。






線路を渡ってすぐに笹薮の中の道に入る。
ちょっと荒れた雰囲気で、神社も雑然と荒れているのではと不安になる。
笹薮は僅かな距離で、右に直角に曲がると鳥居がある。



参道の奥には注連縄門が見え、その辺りだけ少し開けていて朝の淡い光が入り込んでいる。



参道を振り返る。
鳥居横の大木は公孫樹で、秋にはさぞかし美しいだろうと思う。



横を見れば、もはや原型を留めず何なのか判らない石像。
上の方には祠もあったが、藪に覆われ、かなり傷んでいる。






門の左手には岩が立ち、水が滴り落ちている。
深い参道は、ここから更に深みを増す。



門をくぐって息を飲んだ。
両側に岩が立ち、まるで岩の中へと誘い込まれるようだ。
自然の地形なのか、それとも岩を穿ったのだろうか。



振り返れば、緑の帯。



参道はZ字型に折れて岩の上へと出る。
緑が本当に深い。



石段の残りがあと数段、というところに手水鉢。
質素だが味わい深い。



手水鉢の横から拝殿。
社殿周りはさすがに少し明るいが、背後の杜は深い。






本殿は小振りながらも、それなりに凝った彫刻が施されている。



本殿背後の杜。



東側の杜。



本殿周りはドクダミが満開で足の踏み場も無い。



東の杜から直射光が入りだして、何となく賑やかな雰囲気になる。



西側の杜も日を浴びる。



朝らしい気配に満ちてきた参道を引き返す。



波音が聞こえてくるけれど、光の音や緑の音も聞こえてきそうな気さえする。






参道横の岩も、朝の光を浴びて表情豊かになった。



鳥居が見えてきた。



立ち去り難く、暫く参道をうろうろする。






この時期、太陽はどんどん高くなっていき、鳥居の向こうは光に満ちる。
このすぐ向こうに線路があるのが不思議に思えるくらいの光景だ。
そして更にその向こうには海が広がっている。


海は目と鼻の先にあるので、ついでに立ち寄って撮影する。
といっても、実際は前日の夕方の撮影である。


神社入り口から200メートルほど西の砂浜。
ベタ凪状態で、琵琶湖より波が低いくらいだった。



付近には海蝕洞穴などもあって、なかなか変化に富んだ海岸が見られる。



波に洗われる砂の底が所々で動くので、手で砂ごと掬ってみると小さな蟹が出てきた。
ちょっと童心に返って遊んでしまう。



小さな川が流れ込む場所もある。



更に200メートルほど西に進むと駐車スペースがあって、その近くにも海蝕洞穴がある。






少しだがユウスゲの花も咲いていた。
夕暮れの海を満喫して、すぐそばの駐車スペースに停めた車で眠る。


2万5千分1地形図 田後
撮影日時 100630 4時40分~6時40分 海岸は100629 18時20分~19時40分

駐車場 神社入り口向かい付近、または450メートルほど西の駐車スペース。
地図 

雨滝・筥滝

2010年07月06日 | 滝・渓谷

鳥取県鳥取市国府町雨滝


以前に三重県の雨滝を紹介したことがあるが、今回は鳥取県にある雨滝である。
知名度としては、こちらの雨滝のほうがずっと高いようで、日本の滝百選にも選ばれているし、ネットで検索しても断然こちらの雨滝が多くヒットする。
周辺の地名自体がズバリ雨滝であるし、鳥取県東部では最も有名な滝と言えるだろう。
落差は約40メートル。一直線に落下するその姿は端整で、いかにも名瀑らしいと言えるが、私などはひねくれているせいか、そういう綺麗な滝姿はつい面白味が無いとも思ってしまう。
だから雨滝だけなら立ち寄ることは無かっただろうけれど、近くに筥滝という滝があって、そちらの滝姿に惹かれるものがあったので訪ねてみた。

遊歩道入り口手前には第二駐車場まであって、行楽シーズン休日の賑わいが窺える。
今日は平日で、しかもさっきまで雨も降っていたし時間も遅いので、車は一台も見当たらない。
遊歩道の階段を降りると最初に目に入ってくるのが布引滝。
対岸の崖から落ちるものだが、全く惹かれないので割愛。
雨滝を目指す。



僅かな距離で前方に雨滝が見えてくる。
手前には桂の大木。



桂の大木では、よくひこばえの林立した姿を見かけるけれど、ここのものはそんなに賑やかではなく、二本の大木が聳えている。
が、江戸時代には幹周20メートルあったといい、落雷により幹が空洞化。現在の姿は外側が成長したもののようだ。
ということは、二本の大木というよりは、この二本の間を主幹が埋めて一株の巨木であったのかも知れない。
どれほど見事な姿であったのだろう。



雨滝の前に出る。
離れていても多量の水飛沫が飛んでくる。



スローで撮ると優美な姿だが、高速にすると豪快だ。
整った形でありながら、水量多く勢いがあるからだろう。



さっきまで雨が降っていたが、弱い西日が滝頭を照らし出した。






優美さと豪快さを併せ持っていて、確かに美しいとは思うものの、どうも単調で見飽きるのも早いような気がする。



滝の手前には不動明王。



雨滝から筥滝へ向かう。
筥滝は隣の谷に懸かっているので、雨滝からは、山腹をトラバースするように道がつけられている。
最初こそきつい登りがあるが、概ね平坦で、トチノキなどの気持ちよい自然林の中によく踏まれた道が続いている。



やがて谷間に降り立つと、すぐ目の前に筥滝が落ちている。



二段になって落ちる滝だが、特に上段が特徴ある姿で、雨滝とは対照的だ。












岩の表情も水の表情も多彩で、見飽きることがない。
ただ、上段へは近づけず、なかなかいい撮影ポイントが見つけられなくてもどかしい。



下段は地味だが、その岩の黒さと光を映す様は美しいものがある。

来た道を引き返す。
時刻は18時半を過ぎており、この日はここで車中泊した。
眠りにつく前、車の傍を蛍が飛んでいった。


2万5千分1地形図 扇ノ山
撮影日時 100630 17時~18時半

駐車場 あり
地図


意上奴神社

2010年07月02日 | 鳥取県

鳥取県鳥取市香取


鳥取県の神社へ行くのは初めてだ。
鳥取県へは過去四度訪れていて、大山の山麓や鳥取砂丘といった有名どころを足早に巡ったに過ぎない。
その少ない経験からも、鳥取の風景や雰囲気には惹かれるものがあって、神社や渓谷に関しても、いずれは行ってみたいと思っていた。

朝に出発して昼過ぎに鳥取に入る。
まずはどこへ行こうかと考えて、昼間でもひと気の無さそうな意上奴神社を目指した。
カーナビが当たり前になっているので、この感覚は判ってもらえないかも知れないが、知らない市街地を走るのは嫌なものである。
鳥取市街を抜ける際には方向感覚が掴めず、何度か道を間違えたりするけれど、これはこれで楽しいのだと言い訳しながら進む。
市街地を抜けてからも地図と睨めっこしながら何とか交差点や分岐をクリアし、やっとのことで神社前に着く。
集落から離れた広く浅い谷間で、溜池からウシガエルの鳴き声が聞こえてくる。一定時間ごとにスズメ脅しの爆発音も鳴り響いて、ちょっとビックリさせられるけど長閑な場所だ。



鳥居は集落の外れにあったが撮影していない。
溜池の横が参道入り口で、鳥居は無いが案内板などが立っているのですぐにそれと判る。
溜池の堤を渡ると一気に山の中の気配になる。



参道というよりは山道の雰囲気だが、少し大きな木が目立ってきた。



写真では判り難いけれど、大きな二本の木の手前には注連縄が渡されており、ここからが本当の神域、といった、結界の空気のようなものが漂っている。



やがて参道横に流れが現れ、前方に苔生した石段が見えてくる。
光だとか緑だとか、何やら色んなものが降り注いできているように感じられるところだ。



石段横の流れ。



訪れる人は少ないのか、やや荒れた感はあるものの、自然に融け行くような趣がある。



参道を振り返る。





湿度の高さ故だろう、羊歯の種類が豊富で、その柔らかな緑は目に楽しい。



石段を上りきると拝殿。
狭い境内はドクダミが花盛りで、踏み締めた足元から特有の匂いが立ち上ってくる。
昔は顔を顰めたくなる悪臭に思えたが、最近は懐かしいような気もして嫌ではない。
まあ、それはいいとして、ちょっと草が茂り過ぎで、雑然としてしまっているのは否定できない。



覆屋の中の本殿。


2万5千分1地形図 鳥取南部
撮影日時 100629 14時~15時

駐車場 参道入り口付近に駐車可。
地図