神社のある風景

山里の神社を中心に、歴史や建築等からの観点ではなく、風景という視点で巡ります。

久木神社

2018年08月19日 | 三重県

三重県尾鷲市九鬼町


九鬼に初めて訪れたのは高校生の時だったと思う。
今はもう走っていないけれど、新大阪を夜に発車して、早朝の新宮に到着する普通列車を利用した。
夜通し走り続ける普通列車というのは、ちょっと不思議な感覚で、車内は独特の雰囲気であったし、外の景色は見えなくとも、夜が明ければ日常から遠い風景が広がっていた。
当時の私は、珍しい植物を探すことに夢中になっており、天然記念物に指定されている久木神社樹叢を地図で見つけ、訪ねてみたのであるが、結局、私がいちばん見つけたかった植物には出逢えなかった。
それでも、漁港に泳ぐコバルトブルーの小魚、濃密な緑を描く暖地性の木々が印象に残った。
私は南紀が大好きだと何度か書いているけれど、思えば、初めて南紀の魅力に触れたのが、この九鬼であった。
目を見張るような風景があるわけでは無く、どこにでもありそうな漁港の風景なのだが、それ以降、私は何度か九鬼に訪れている。
今回は、五度目の九鬼だ。



久木神社前には漁港の駐車場があって、確か以前は参拝者用の駐車場所が一台分確保されていたのだが、今回は見当たらない。
仕方がないので集落の入り口付近まで戻って道の広くなっているところに駐車する。
海を覗き込めば変わらずにコバルトブルーの魚が群れているし、のんびり歩くのは楽しくある。



楽しくはある。が、暑い。
暑いが、夏だ! と思える青と緑。
駆け出しはしないけれど、内心では童心に返る。



つい右側の海ばかり見てしまうが、左を見れば趣のある路地があって心躍る。



アジの干物が製作中。



いつも思うが、海辺に育ったわけでもないのに、こういう風景を見て懐かしいような気持ちになるのは何故だろう?



人けは無いが、水揚げされる早朝には賑わうのだろうか。



久木神社の鳥居が見えてきた。



南紀の神社らしい雰囲気。



海が近くても緑は深い。



初めて訪れたときは、見慣れない樹相に心ときめいたが、大人になってからは若狭などの海辺の神社で、これと近い杜を見ているので、ああ、海辺の杜だ、と思う。
気象庁のアメダスの気温を見ていても判るが、日本海側であろうと太平洋側であろうと、暖流の影響は大きく、植生に強く反映されるのが見て取れる。



二の鳥居と、潜り抜ける形態の社務所らしき建物。



そこから拝殿を見る。



コントラストが強くて写真にはしにくいが、緑深くていい神社だと思う。



拝殿は比較的新しい。
初めて訪れたときの拝殿も、いつ新しくなったのかも思い出せないが、それほど違和感は無い。



本殿を囲う瑞垣は、丁寧な造りだ。



境内は海辺の割には苔生している。



これは、何だろう?



漁港と神社を堪能したが、九鬼ではもう一ヶ所、寄りたいところがある。



漁港から背後の山の方を見ると、やや高みにそれはある。
そこを目指して路地に入る。



階段を上りきると、明治7年に開校し、平成10年に廃校となった九鬼小学校の入り口だ。
いつだったか、漁港にいるとき、学校の方から子供達の声を聞いた気がするが、それが20年以上も前のこととは信じ難い思いだ。
車道が通じていない稀有な学校でもあった。



校舎内は立ち入り禁止だが、校庭は開放されているようである。



木造校舎はペンキが塗られているし、窓枠はアルミサッシなので、やや趣に欠けるけれど、とても素敵なところだ。



校舎入り口の横には創立百周年の石碑が立っている。
校舎右の斜面には桜の木が幾つかあって、春にはさぞ美しいだろうと思う。



校庭から漁港方面を見る。
大海原が望めるわけではないが、愛おしくなる風景だ。


撮影日時 180809 12時30分~13時20分
地図