神社のある風景

山里の神社を中心に、歴史や建築等からの観点ではなく、風景という視点で巡ります。

旧福知山線廃線跡(武田尾~生瀬)

2016年04月29日 | その他
昭和61年、福知山線の生瀬‐道場間が新線に切り替えられた。
それまでは武庫川の峡谷に沿って走る単線非電化の路線で、大阪近郊でありながらローカル線の趣を呈していた。
新線に切り替えられた福知山線のこの区間は複線電化されて便利になったものの、トンネルばかりの連続する味気ない路線になった。
代わりに、かつて車窓から眺められた風景を、今は歩いて楽しむことが出来るようになった。
ハイキングコースとして有名になり、平坦なコースでありながらもトンネルや鉄橋があって変化が楽しめることから平日であっても賑わっていることが多くなった。
それは、ただ消えゆくだけの廃線と比べれば、幸せな余生を過ごしていると言える。
私は鉄道が好きなので、廃線という言葉の響きに何か特別なものを感じてしまうのかも知れないが、枕木に歩幅を合わせてトンネルや鉄橋を歩いてみれば、レールは残っていないものの、往時が偲ばれて心は過去に馳せる。
とまあ、少し当時を懐かしむようなことを書いたが、私自身は旧線時代に乗車したことは無く、廃線になってから何度か歩いたことがあるだけだ。
尤も、歩けるのは武田尾‐生瀬間のみで、道場‐武田尾間はほぼ草木に埋もれてしまっている。

廃線跡はハイカーが多いので、当初は歩くつもりは無かった。
ただ、武田尾付近の山峡なら、遅咲きの山桜が楽しめるかも、という期待があったことと、何か春の草花でも撮れればという思いから訪ねることにした。
それに、自宅の最寄り駅から30分ほどもあれば行けるので、緑に接したくなったとき、とても気軽に行ける場所なのである。

武田尾駅を降りたのは、私以外には一人だけだ。
武田尾は変わった駅で、駅の三分の二はトンネルの中、残りは橋の上という構造になっている。
駅前から暫くは線路跡は車道になっているので廃線の趣は無い。
やがて車道が武庫川から離れ、左の谷間に入っていくところから廃線歩きが始まる。



先日、桜の撮影で武庫川上流部を載せたけれど、中流部であるこの辺りは上流部より深い山峡を流れる。
ただまあ、上流部でも水が濁っていたから、当然、この辺りも水が汚れている。



一つめのトンネル。
辛うじて花を残した桜がある。



桜の木は寂しい状態だが、足下には花びらが沢山落ちている。
この枕木は、いったい何十年ここにあるのだろう。



二つめのトンネル手前も桜は似たような状況だが、強い風が吹くと、僅かばかり残った花びらが散って、トンネルの前でキラキラと輝いた。



トンネル内に照明は無いから、懐中電灯は必携である。
このトンネルを抜けたところは、来る度に緑に包まれるような思いがする。



色彩や光の無い場所から抜け出た目には、色はなんと鮮やかで、光はなんと眩いものであるか。
ここは、紅葉や雪景色、雨の日などにも撮ってみたいところだ。

トンネルを抜けて左手の山は「桜の園」と呼ばれている。
桜博士とも呼ばれた笹部新太郎が、演習林として多くの桜を植えた場所で、今日の一番の目的地はここである。

今から20年以上前、私はよくこの辺りに遊びにきていた。
当時、「桜の園」は整備されておらず、笹部氏の死後、多くの桜は枯死していくような状況だった。
私は「桜の園」という名称は知っていたが、何故そう呼ばれているのかを知らなかった。
さして桜が多いとは思えなかったし、「園」と呼ぶような雰囲気も無かった。
あるとき、水上勉の「櫻守」という小説を読んだ。
そこに、この武田尾の「桜の園」が出てきた。
笹部氏をモデルにした小説だったのである。
以後、長らく放置されてきた演習林は、2000年頃から本格的に整備されるようになり、今は多くの人が廃線跡と共に訪れる場所になっている。
桜も増えてきているようで喜ばしいことではあるが、昔、私が遊んだ頃は廃線跡にハイカーは多くても、ちょっと横道に逸れた「桜の園」は静かで寛げる場所だったので、それがちょっと残念である。



左手の山道に入り、「桜の園」をぐるっと周る。
整備されてから来るのは初めてで、案内板があちこちに立てられ何人もの人とも擦れ違うので、かつての印象とは全く違う場所のようだ。
で、その「桜の園」であるが、やはり来るのが遅すぎたようで、山桜の多いこの辺りも花は残っておらず。
ただ、花が終わっても芽吹いた葉が紅葉のような美しさを見せるのが山桜の良さで、緑の濃淡で覆われた新緑の山に彩を添える。



モミジを主体とした、まさに「緑」といった林もある。
燃えるような紅葉という表現があるが、緑もまた、燃えるような鮮烈さであると思う。



廃線跡に戻る。
「桜の園」で桜と山野草でも撮ろうと思っていたのに、桜は終わっており、山野草はタチツボスミレくらいしか目立ったものが無かったので、さてどうしようかと迷う。
武田尾駅の方へ戻って、どこか山道にでも入って植物を探そうかとも思うが、廃線の先を見れば、緑が滴るようで、ちょっと進んでみたくなる。



ハイカーも増えてきたので、それほど気乗りしなかったのだが、新緑の斜面を見ながら歩くのは気持ち良く、適当なところで引き返すつもりが先へ先へと進んでしまう。



武庫川を鉄橋で渡る。
かなり錆付いているし、補修等は全くされていないから、果たしていつまで持つのだろうか。
体がふらつくほど風も強くて、少しだけスリルがある。



当然のことながら、JR西日本はこのコースを歩くことを推奨しておらず、事故等の責任は一切とらない旨の看板がコースの両端に立っているし、「橋りょう上歩行禁止」の看板があったりする。



またトンネル。



トンネル出口のレンガが、外の光と緑を映していた。
まるで蛇の鱗のようにも見え、金属のような光沢を帯びていた。
こうやって見ると、レンガはかなり波打っており、剥落して頭に落下なんてことも有り得なくは無いなぁ、と思う。



岩肌も反射して綺麗だ。



トンネル?
もうここまで来ると引き返す気にもならないので、生瀬に向かって進む。
道の脇にはアケビが多く、花を付けている。



もう住宅地にかなり近いところまで来たが、対岸の山は最後の険しさを見せる。



地形図に高座岩と記されている岩だろう。
ここからすぐに両岸の山は左右に広がって空は広くなり、高速道路や住宅が見えてくる。
生瀬駅まであと1.5キロほどとはいえ、かなり苦痛な道になりそうだ。
もうちょっと長閑な田畑が広がるようなところで、蓮華草でも撮りたかったなぁ、なんて思う。



と、道からちょっと横に入ったところに蓮華草が咲いていた。
一面に咲いているのもいいが、こういう風にぽつぽつと点在して咲くのもいいものだ。



アップで。



スズメノテッポウの間から。
子供の頃、スズメノテッポウを使って草笛を吹いたことを思い出す。



カラスノエンドウ。

最後にちょっと楽しめたが、この後はひっきりなしに車の行き交う国道を歩くことになる。
都市部にいるより空気が悪く、かなり苦痛な道のりだった。
このコースは、生瀬から武田尾に向かって歩く方がいいかも知れない。


撮影日時 160415 11時~14時40分

大歳神社(栗栖野)

2016年04月22日 | 再訪

兵庫県篠山市栗栖野


当野の大歳神社から栗栖野の大歳神社までは2キロほど。
以前に訪れたときも、この二社は同じ日に参拝したと思うが、当野の大歳神社は一つの記事としては初掲載で、この栗栖野の大歳神社は再掲載になる。
因みに以前の記事を見ると2008年の7月に参拝したらしく、三、四年くらい前に訪ねたような気がしていた私はちょっと愕然としてしまった。

栗栖野へは途中、国道を歩かねばならないので退屈な道のりだ。
若林寺への立て札が立っているところで集落内の狭い道に入る。
大歳神社は、その若林寺のすぐ手前にある。



前回訪れたときもそうだったのだが、どういうわけか、ここの鳥居の写真はとても撮りづらい。
どうしても納得のいく色調にならないので早々に諦めた。
風景自体は、以前と同じように欅の大木が迎えてくれて嬉しくなる。



鳥居の先は、当野の大歳神社と同じように、椿で彩られていた。



この二本の欅、なかなか立派なものだと思うのだが、あまり知られていないようだ。
奥に見えている木も大木といってよいもので、樹形からするとシイの類だろうか。



それにしても、鳥居の内と外は別世界である。



外は明るく開けた空間。



内は杜に覆われて深く鎮まっている。



ここも背後には舞鶴若狭自動車道が通っているが、当野に比べれば離れており、そんな気配は感じられない。



正直なところ、神社には立ち寄らずに桜に集中しようかとも考えていたけれど、どちらの神社も訪ねてみて良かった。
桜に負けず劣らず、椿もいいものだ。



踏まずに歩くのは、ちょっと難儀だけれど。



拝殿前の狛犬は、残念ながら新しいものに代わっていた。



本殿右側の境内社。



本殿左側の境内社。
前回来たときもそうだったが、ここは木漏れ日が気持ちの良いところだ。



鬱蒼とした杜の中でありながら、暖かい色合いになる。



椿もそれに一役買う。



更に左側にある境内社。



何となくだけど、水の中を連想してしまう。
木漏れ日の揺らぎと空気感のせいだろうか。



まるで供えたかのような椿の花。






本殿は前回と変わらぬ印象。
ただ、立て掛けられている箒が新しくなっているので、何だか気持ちがにっこりする。



拝殿前から振り返れば、木々に優しく包まれた空間であることを実感する。



ここから南矢代駅までは一キロも無い。
桜を見て寄り道しながら、のんびりと帰った。


撮影日時 160408 12時~12時40分
地図


大歳神社(当野)

2016年04月15日 | 兵庫県

兵庫県篠山市当野


武庫川沿いから離れて当野集落の中に入る。
小さな川に沿った道を進み、舞鶴若狭自動車道の手前で左に折れると鳥居が見えてくる。
訪れるのは二度目で、以前に掲載した神社だと思っていたが、「雑多な写真」の記事に三枚ほど載せていただけだったので、一つの記事としては今回が初めてになる。

地図を見れば、神社から極めて近いところを自動車道が通っている。
風景や雰囲気を損じているのではないかと思わされるし、最初の訪問は、それが理由でなかなか実現しなかった神社である。
ところが実際に訪ねてみると静かで寛げる空間が守られており、とても驚いた記憶がある。
今回は二度目なので驚きは無いが、改めて心地いい場所だなぁと感じ入った。



神社手前に椿の花。
桜の季節は落ち椿の季節でもあるのだ。



神社の向こうには桜も見える。



鳥居の奥は意外と深い木々に覆われている。
両脇に出雲構えの狛犬がいて、この辺りでは珍しい。



参道の先には潜り抜けるタイプの舞台。



長くはないが、気持ちのよい参道だ。



ここにも落ち椿。



拝殿が見えてきた。
右後ろに自動車道が見える。



これはもう、直ぐ傍、といっていい距離だし、車の走行音も聞こえてくる筈なのに、それを感じさせない空間になっている。



右側は豊かな苔の絨毯。
ここで、視野の隅に違和感、というか、不自然さを感じて更に右を見る。



一瞬、「ギョッ」としてしまうほどの濃密な赤が、緑の上に散りばめられていた。



妖艶ですらある。






当然、社殿とセットで撮る。






一度来ただけでは知らないまま、という風景が沢山あるのだろう。
来てよかった。









拝殿と本殿。



本殿。



ここで獅子舞の神事が行われるらしい。



大きな神社ではないが、境内社は多い。






境内社と石垣と砂利と木漏れ日が、何ともいい雰囲気を作る。



本殿右側の境内社。
こちらは木々がいい感じ。



ゆったりと落ち着いた時間を堪能させてもらった。
次は、栗栖野にある大歳神社に向かう。


撮影日時 160408 10時半~11時半
地図


桜(草野から南矢代へ)

2016年04月10日 | その他

兵庫県篠山市


以前、武庫川の上流を歩いていると、川沿いにずっと桜が植わっていることに気付いた。
さして大きな木は無いけれど、花が咲けば壮観なのではないかと思っていた。
調べてみると、「ふるさと桜づつみ回廊」として兵庫県が整備したものらしく、武庫川から加古川上流、円山川から日本海への約170kmの河川沿いに、5万本ほどの桜が植えられたようだ。
どの範囲を歩こうか少し迷うが、福知山線の草野駅から南矢代駅までの区間が、比較的民家が少なく、寄り道できる神社もあって距離もお手軽、ということで行ってみることにした。

今年はどういうわけか丹波などの山間部でも桜の開花が早く、いつも大阪より一週間から10日ほど遅い満開が、殆ど変わらない時期になった。
まだ先だとゆっくり構えていたので慌てて計画を立て、さあ行こう、という前日に強い雨が降った。
かなりの花が散ってしまっただろうと、やや気落ちして電車に乗る。

途中、三田辺りから車窓に桜が目立ち始め、まだまだ花を多く残している姿を見てホッとする。
とはいえ、満開というほどの勢いは無いし、青空を期待していたのに曇りがちの空で、あまり条件は良く無さそうだ。



草野駅を降りてすぐに武庫川沿いの道へ。




正面に松尾山を見ながら、車も人も滅多に通らない道をのんびり歩く。
対岸は国道が通っていてやや騒がしいけれど、気持ちよい。



前日に雨さえ降らなければ本当の満開に出逢えたはずだが、路面を埋める花びらに迎えられ、これはこれで良かったかも。






曇りがちではあるが朝の光も射して来て、気温も歩くのにちょうどいい感じ。



古森という集落辺り。
ここから暫くは未舗装の農道を行く。









周囲の民家も減って、目障りな人工物も少なくなるので撮影も楽しい。
青空さえ出てくれたらもっと良かったのだが。



田植えを待つ水田も花びらが彩る。



武庫川の上流といっても、水はかなり汚れているのが残念。
清流と桜、というわけにはいかない。



当野集落付近。



対岸にも小さいながら桜があって、やっぱり針葉樹が背景になると引き立つなぁと思う。



雲雀の囀りが賑やか。



立派な桜に見えるが、これは背後(対岸)にも桜があって、重なっているからだったりする。



ここからは川沿いを離れ、当野の大歳神社と栗栖野の大歳神社に立ち寄る。
どちらも再訪だが、後日掲載しようと思う。



参拝後、川沿いに戻り、この春、閉校になった学校の横を通る。
結局、青空は顔を出さないままで、あまり満足のいく写真は撮れず。



桜だけ、というのも物足りない気がしたので、川辺の草むらでカラシナとモンシロチョウを。



マクロレンズでの撮影は楽しい。
南矢代駅まではあと少しで、電車の時間に合わせてゆっくり歩く。

 
撮影日 160408