神社のある風景

山里の神社を中心に、歴史や建築等からの観点ではなく、風景という視点で巡ります。

若狭逍遥

2017年10月08日 | その他

中学生のとき、水上勉の「若狭逍遥」という随筆集を読んだ。
もう随分と昔のことになるので、詳細を憶えているわけでもないし、中学生にとって格別面白いという内容でも無かったと思うが、何故か惹かれるものがあって、若狭という地域に対して何かしら特別な想いを抱かせてくれた。
逍遥という言葉の意味を辞書で調べると、気儘にあちこち歩き回ること、そぞろ歩き、散歩、などと書かれている。
今回の若狭行きは、またT君となので基本的に車での移動ではあるが、気儘に、時には車を止めて、あちこち訪ねてみた。




まずは青葉山の麓、杉山集落にある熊野神社へ。
ここは舞鶴市だから、まだ若狭ではないが、府県境までは一キロも無いし、ぜひとも再訪したいと思っていた場所なので。



天気が良すぎて写真が撮りにくいが、鬱蒼とした木々に囲まれた境内が、日溜りになって輝いている。



すぐ近くにある大杉神社にも行く。
大杉の清水と呼ばれる名水があり、変わらず豊かに水が流れ出している。
味の方も、変わらずに美味しい。
ここも天気のせいでコントラストが強く、名の由来と思われる大杉の写真だけしかまともに撮れなかった。
前回の参拝、雨天時の記事を見ていただいたほうが良いかと思う。
ただ、こういった晴天時は神社の写真は撮りにくいものの、晴れた日に再訪したいと前回の記事にも書いている。
理由は、熊野神社、大杉神社へと続く、それぞれの小道が晴れの日に気持ち良さそうだったからだ。



杉山集落から熊野神社への小道。



こちらは大杉神社への小道。
アケビの実が落ちていた。



稲架のある風景は好きだが、水入れの時期、実りの時期、雪の降り積もる時期、それぞれの風景が見たくなる。



ちょっと貧弱ではあるがコスモスも咲いていて、秋の始まりを彩る。



曲がりくねった小道と舞鶴湾。
絶景というほどでは無いけれど、沁み入るような風景で、晴れの日に来て良かったと思う。

杉山からは、塩汲峠を越え、内浦湾を望む道を進む。
この辺りの集落と神社は、一度、じっくりと訪ねてみたいところだが、今回は素通りする。
高浜に出て、城山海岸の写真を撮ろうと思ったのに、駐車場が満車だったので、こちらも素通り。
道の駅に寄って昼食を摂る。
若狭らしいメニューは高かったので、ただのラーメンで済ませる。
小浜市街を抜け、内外海半島に向かう。



堅海集落にある廃校に立ち寄る。
以前、「雑多な写真」で久須夜神社を掲載したことがあるが、そのすぐ近くにある。
前回は曇天だったので写真はイマイチで掲載しなかったところだ。
晴天の下で見ると、絵に描いたような木造校舎で嬉しくなる。



久須夜神社の鳥居。
社殿の様子は、やはりコントラストが強すぎて絵にならず。



廃校と鳥居はとても近い。



少し移動して、こちらは椎村神社の狛犬。
ここも同じ「雑多な写真」で掲載した。
磨耗して苔に覆われた姿に再び会えて嬉しい。



次は常神半島に移動する。
常神集落まで行って常神社の前も通ったけど立ち寄らず。
常神社も過去の「雑多な写真」に掲載している。
前回も猿に出逢ったが、今回も路上に猿を見かける。
ここは、小川という集落で、何となく集落内の路地を歩いてみたくなって探索した。



小川神社というのがあったので立ち寄る。
明るい神社ではあるが、スダジイと思われる大木が四本ほどと、カゴノキの大木があった。
写真の左に見えている大木がそれで、こんなに大きなカゴノキを見たのは初めてであった。
若狭の神社はスダジイの大木が多く、殆どの神社で見かける。



小川集落前から若狭湾。
正面中央に、青葉山が霞んで見える。

途中でドライブイン的なところに寄り、「へしこ」と「梅干」を買う。
三方五湖周辺は、意外と知られていない梅の産地だし、へしこは若狭の名産で、私の好物である。



来た道を戻りながら、田烏という集落に立ち寄る。
ここも路地歩きが目当てだったが、天満神社というのがあったので立ち寄る。
小川神社と同じく明るい境内だが、やはり大木があって嬉しい。
ただ、ここはスダジイではなくケヤキの大木だ。



本殿前にはギンナンがいっぱい落ちていた。



ここで写真を撮っていると、車で通りかかった年配のご夫婦に話しかけられた。
「田烏の棚田ってどう行ったらええんですやろ」
いや、余所者の僕らに訊かれても、と思わないでもなかったが、スマホで検索して場所を特定する。
下調べなど全くせずに若狭へ来ているのだが、なかなか風景の良さそうなところで、道を訊いてもらえて寧ろラッキーだった。
「これから夕暮れ時やし、写真にはええですよ」
とおっしゃるので、「後で行ってみます」と答える。



まずは集落内をぶらぶら歩く。



これといって目を引く風景があるわけではないが、やはり楽しい。



海岸では波打ち際にカモメが集っていた。



棚田に移動する。
国道から棚田への入り口は三箇所ほどもあるが、どれも鉄製の扉で塞がれている。
国道横の空き地に車を止め、棚田の一番高いところへと続く道に入ってみる。
鉄製の扉には「密漁禁止」の看板があるが、「立入禁止」とは書かれていない。
南京錠もぶらさがっているものの、鍵はかけられていない。
どうやら害獣の侵入を防ぐためのものであるようだ。
とはいえ、山里の神社で幾度もこういったものを見てきた私は扉を開けて中に入るが、普通の人は諦めてしまうだろう。
先ほどのご夫婦の姿も見当たらない。
棚田百選にも選ばれているらしいし、もう少し余所者にも配慮してほしいところではある。
先ほどのご夫婦の車は和泉ナンバーだったから、消沈して長い家路への道を辿ってらっしゃるのでは、などと考える。



深い入り江が望め、絶好のロケーションであるが、既に稲は刈られ、彼岸花も萎れている。
棚田自体も整地された四角形のもので、ちょっと残念ではある。



ただ、とても気持ちの良いところであるのは確かで、水入れの時期などは、もっと美しいだろうと思う。






田烏の集落。



撮影シーズンとしてはイマイチだったかも知れないが、最後に素敵な風景に出逢えたので、先ほどのご夫婦に感謝である。
文中には全く登場しないけれど、T君とは常に楽しい会話をさせてもらっている。
同じく感謝である。

 
撮影日 170929