17年ほど前に、ここを訪れたことがある。
海に突き出した岬は深い緑で覆われており、江須崎暖地性植物群落という天然記念物に指定されていて、当時、植物に夢中になっていた私は、ぜひ見てみたいと思ったのだ。
その後も何度か足を運んでいて、植物よりも、海や空に触れられる気持ちの良い場所として親しんできたのだが、神社に興味を持つようになって、ここで神社を見たことがあるのを思い出した。
ところが海の風景ははっきりと思い出せるのに、どんな神社であったかは全く思い出せない。
ここは夕日の美しい場所でもあるし、夕暮れの海と併せて神社にも再訪したいと思った。
夕暮れ前に行く予定だったのが、空があまりに綺麗だったので、他に訪ねる予定だった場所を取りやめて江住に向かう。
国道42号線から海岸方向への道に入り、突き当たりに駐車場がある。
そこに「エビとカニの水族館」というのがあるので、興味と時間がある人は立ち寄るといいだろう。
駐車場奥から遊歩道に入る。「日本童謡の園」として整備されているところで、各所に設置されたセンサーが人を感知すると幾つかの童謡のメロディーが流れる仕掛けになっている。
水族館にしても公園にしても、休日はどうか知らないが普段は閑散としていてる。また、駐車場から公園一帯にかけて、とにかく猫が多い。
もちろんセンサーは猫にも反応するので、時々誰もいないのにメロディーが流れ出してギョッとすることがある。
遊歩道の先は、海岸へと降りる階段になっている。あまり訪れる人もいないのか、階段を覆うように木の枝が張り出しているが、ここから江須崎島と春日神社の鳥居が望まれる。
江須崎は、よく見れば小さな橋で繋がっているから、いちおう島ということになるのだろう。
その橋の先の道を辿ったところに鳥居が見える。
左右に海を見ながら続く一本道。
大好きな場所のひとつであり、懐かしさと心地よさに浸れる。が、台風並みに強い風が右手から吹き付けていて、呼吸が乱されそうなほどだ。
江須崎島へと橋で渡る。
小さな橋とはいえ、両側の海は広大だし、海を渡る、というだけで愉快な気分になれる。
どこからか漂流してきたゴミがあちこちに打ち上げられてはいるが、橋の下の水は綺麗だ。
鳥居をくぐるとすぐに右手に石段があり、上りきったところから左へと参道が伸びている。
いかにも暖地性といった感じの木々に覆われ、やや雑然とした印象。
参道横を見れば、神社の杜というよりは密林。
そこを抜けると眩く広い空間に飛び出て、右手に割拝殿のような建物が現れる。
どうやら社務所のようだ。
社務所の先も木々は深そうだ。
頭上でごうごうと風が音を立てているが、境内では木々で抑えられて心地よく流れる程度。
空も日差しも気持ちよく、狛犬と一緒に日向ぼっこする。
社務所の先はやはり密林。
左手に本殿覆屋の屋根、中央右手に境内社覆屋の屋根が僅かに見えている。
本殿。
辺りはそれなりに広く空間が開けているが、深く木々に包まれている。
暖地性の木々の樹形によるものか、ちょっと不気味な雰囲気が漂う。
境内社。
覆屋は白い彩色が施されているが、南紀では珍しくない。青と白と赤というカラーリングも見たことがある。
本殿右奥から、岬の先端にある灯台へと向かう遊歩道がある。
やはり雑然とした密林の中の小道だが、木漏れ日の中をひらひらと舞う可憐な蝶がいた。アサギマダラだ。
なかなかじっとしていてくれないので、これが辛うじて撮れた一枚。
灯台から熊野灘を望む。
左に見える平らな陸影は本州最南端の潮岬だ。
帰路は来た道と違う道を辿るが社務所前の空間へと出る。
夕暮れの海が撮りたいので時間潰しに海岸に出る。
外海に面したところでは波が高い。
豪快に水飛沫を上げる。
潮溜まりでは、ナマコやヤドカリも沢山いて退屈しない。
この後、もう一度神社へと行き、ぼんやりとしてすごす。
やがて夕暮れ。
頭上の空にはまだ青さが残る。
残念ながら、この後、太陽は水平線近くにある雲の向こうに隠れてしまい、海へと没する姿は見せてくれなかった。
海への落日は無理でも、夕暮れ時の海の表情は多彩だ。
前から海をスローシャッターで撮ってみたかったので試してみる。まだちょっと明るいので中途半端か。
空も多彩な表情を見せる。
もう太陽は海の向こうに没したであろうが、余韻は暫く続く。
もう一度スローシャッターで。
これくらいだと海面を霧が這っているかのように幻想的になる。
雲の加減であろうか、最後に輝きが増した。
ふと気づけば、風も弱まり、波も穏やかになって、夕凪のやさしい気配に満ちていた。
駐車場に戻り、やがて満天の星空。
2万5千分1地形図 江住
撮影日時 090910 13時半~19時
駐車場 公園にあり
地図