神社のある風景

山里の神社を中心に、歴史や建築等からの観点ではなく、風景という視点で巡ります。

久谷八幡神社

2013年06月28日 | 兵庫県

兵庫県美方郡新温泉町久谷


もう何年も前に、地形図でこの神社が気になったことがある。
北向きの谷間にあるので、苔生して鬱蒼としているのではないかと考えたのだ。
ただ、山陰本線の久谷駅のすぐ近くだし、目の前には国道が走っている。そんなに期待できる環境でもないかと、ちゃんと調べることもなく、いつの間にか忘れてしまっていた。
それに、新温泉町といえば兵庫県の北西の端っこである。
同じ兵庫県に住んでいるとはいえ、南東に住む私からすれば若狭の方が近いという位置になるので、まあいつか機会があれば、というくらいの気持ちだった。
二ヶ月ほど前、巨木関連のサイトを見ていて偶然に久谷八幡神社の記事を見かけた。
この神社にあるスダジイの大木が紹介されていたのだが、それよりも神社の参道の写真に目を奪われた。
苔がびっしりと参道を覆って、まさに緑の絨毯なのである。
これほどまで見事に、苔が道を覆うものか? と目を疑うほどだった。
もう、すぐにでも行きたくなったけれど、ぐっと堪えた。
ここは勢いだけで訪ねるべきではない、苔が最高の状態の時を見計らうべきだ。
だとすれば、6月下旬から7月上旬が最適だろうか。
ということで、梅雨のさなかに行くことにした。

行きたいと思いつつも、いざ行く日になると出掛けるのが面倒になるという性質が私にはある。
天気もイマイチだし、仕事も休みを取ったけど家でダラダラ過ごすか、なんて考えに傾きつつあったけれど、どうにかこうにかモチベーションを上げて深夜に出発。
但馬方面に出掛けるときはいつもそうなのだが、何故か福知山から養父の間で憂鬱になる。
時おり雨も降ってくるし、引き返すか、なんて考えに傾きそうになるが、素晴らしい苔を無理やり頭に思い描いて、半ば惰性で先へ進む。
予定より遅れて5時に神社前に到着。



鳥居から暫くは国道に沿った参道で、特にどうということはない。
民家も近いし、通勤時間帯になれば結構な数の車が行き交う。
久谷駅からは構内アナウンスも聞こえてくる。
とてもそんな奥深い場所には思えない環境で、果たして期待するほどの光景があるのだろうか、なんて思いながら、参道をほぼ直角に右に曲がる。



一瞬、え? という感じで思考が止まる。
風景が、緑という色の濃淡だけで形成されているのではないか、と思うほどの緑。
もちろん、木の幹や枯葉などの茶色はあるし、ドクダミやヤマアジサイの花も咲いていたけれど、これほど緑が優勢な空間は珍しい。



踏むのが躊躇われる苔の絨毯だが、全面が苔に覆われているから踏まざるを得ない。



ちょっと奇蹟みたいな風景だ。
息を呑む、或いは笑ってしまう、若しくは、陶然として思考停止、といった感じである。



振り返れば民家の屋根も見える。
それが不思議に思えてくる。



雨が降っているのだが、深い杜なので雨粒の殆どは木々が受け止めてくれる。
尤も、少々の雨など気にならないほど、目の前の風景に夢中になっている。



参道横ではウワバミソウが群生している。
通常は谷川の水際でよく見かける植物だから、よほど湿度や水気の多い環境なのだろう。






参道の苔生す区間は6、70メートルほど。
横を向いたり振り返ったり、とにかくあちこち写真に撮りまくる。



苔生す参道と比べれば、ちょっと味気ない階段。



階段を上ったところに手水舎と御輿堂がある。
御輿堂の横にはイヌシデの大木があって、イヌシデとしては県下最大らしい。



本殿方向を見れば、雨空の朝の淡い光に、モミジの緑が輝いている。
周囲が暗いので、まるで葉っぱ自体が緑の光を放っているかのような明るさを纏っている。



少しずつ、



少しずつ歩み寄る。






何だか久しぶりに美しい光に出逢った気がする。
雨の朝の光を、長らく忘れていた。



この光景の中、狛犬も誇らしげに見える。



御輿堂を振り返れば、雨に濡れて滴るような緑に包まれていた。



本殿覆屋は事前にネットで見た画像からは判らないほど大きなものだったが、中に入れば本殿の大きさにも驚く。



彫刻も見事で、あまりに立派な本殿にまた息を呑む。









実際には相当暗いのでオートフォーカスが使えず、マニュアルでのピント合わせ。
絶対に失敗したくないので、カメラの背面液晶で撮った画像を拡大表示してピンボケしていないか何度も確かめた。



本殿右横にはスダジイの大木がある。
右の幹は空洞化、というより、もはや崩壊している状態だが、まだ葉は付けている。
朽ちてもなお生きながらえている古木の姿は、異形でありながらも威厳と美しさを湛えている。






推定樹齢は500年。
息を殺して、耳を澄ませて、その言葉を聞きたい。

雨が時に強くなるので、本殿や境内社で何度か雨宿りする。
境内社で雨宿りしている時に、下の方から何やら賑やかな声が聞こえてきた。
やがて参拝に来られた三人のおばさんが見えてくる。
地元の方らしく、恐らくは毎朝の日課なのだろう、とても息の合った参拝。
少し話をさせて頂いたが、この神社をとても誇りに思われている様子が窺えた。






雨に閉じ込められたりしつつも、雨っていいなぁという気持ちになれる。



その雨のお陰で羊歯も瑞々しい。






ヤマアジサイもドクダミの花も、この季節に咲くべくして咲いたように雨が似合う。



さて、帰り道、少し明るくなった苔の参道を、思う存分、味わおうと思う。



 























出口が近づいてきた。
前方に見えている場所には地蔵菩薩が置かれていて、ちゃんと狛犬もいる。
鳥居までの間には招魂碑もあって、餘部橋梁や桃観トンネルといった、付近の山陰本線の工事の際に犠牲になった二十七名の方の名前が記されている。 
その餘部橋梁も新しいものに架け替えられ、往時の姿は見られない。
この神社はいつまでもこのままであってほしいと思う。


撮影日時 20130627 5時~7時20分
地形図
道路地図
駐車場 神社前駐車可


春日神社(大野)

2013年06月22日 | 再訪

兵庫県篠山市大野


ここは随分と前に掲載したことがあるが、前回掲載した川北の春日神社から北へ1キロほどのところにあるので、久しぶりに立ち寄ってみることにした。
周囲を田畑と民家に囲まれた小山にあって、地形図からは何の変哲も無い場所に思えるのだが、意外なほど懐の深い空間になっていて、周囲の明るさとは対照的な雰囲気を湛えている。
どういうわけか地形図には神社記号は記されておらず、この神社のすぐ北側にある大歳神社のみ記載されているので、初めてここを訪れたときは、たまたま鳥居が目に入ったからであったのを思い出す。
私は事前に綿密な計画を立てるわけではないけれど、 かといって何の情報も無しに行き当たりばったりということも無いので、現地で初めてその存在を知った神社に訪れるというのは稀なケースだ。



初めて車から見たときの、鳥居の先は真っ暗、という印象通り、今回も入り口と杜の中との明暗差が大きくて写真にしにくい。
鳥居が明と暗の境にもなっている。



鳥居をくぐって参道を見ると、何やら違和感。
確か以前に来たときは朱の鳥居は無かった筈だ。
それはいいのだが、参道を横切って板が渡してあり、土嚢もあって目障り。
更に右手にある木が揺らいだような気がして見てみると、その木の幹にある穴に、カマドウマがうじゃうじゃと30匹ほど・・・。
最近の若い男性の中には、セミやトンボでさえ怖がって触れない者も珍しくないし、私はそんな極端に昆虫が苦手なわけでもないが、カマドウマはかなり苦手である。
古い民家にも棲み付くので、便所コオロギなんて名前で呼ばれたりもする。



明るい場所から暗い鳥居の先を見れば、何か吸い込まれるような気分になるが、逆の場合は惹かれるものの吸い込まれそうにはならない。
どうも私は暗い場所が好きなようだ。



たぶん稲荷神社自体は以前からあったもので、鳥居だけが新設されたのだろう。
風景としていいアクセントになってくれたように思う。
ただ、足元にはブルドーザーが通ったような跡があり、参道を横切って右側から本殿方向へと続いている。
もしかして本殿まで車で上れる道を作るのだろうか?
軽トラが本殿まで入れる道を設けている神社はよく見かけるが、出来ればそうなってほしくはない。



それにしてもこの鳥居、明らかに右の柱が短い、というか深く埋めすぎたのだろう。
いい風景なのにちょっと落ち着けないような気分になる。



反対側に周れば、光の加減で全く違う表情になる。



石段の先は、私の好きな「くぐる」形状の建物。



本殿。
やはり道をつける工事中なのか、本殿横に資材等が置かれていてブルーシートも見える。



参道を振り返って見下ろす。



朱の鳥居はやはりいいアクセントになってくれる。






本殿はシンプルですっきりしたものだ。



だがここは、この位置から撮るのが一番美しいと思う。
苔生していて、アマガエルが四方八方へピョンピョンと慌しく逃げていく。
が、すぐ近くまでブルドーザーの通った跡が迫っており、ここから二つの境内社を回る苔生していた小道は半分ほどが土を剥き出しにしていた。



その小道を通って参道に戻る。
せっかくいい環境と雰囲気がある場所なので、出来る限り現状を維持して工事をしてもらいたいと思う。


撮影日時 20130614 5時20分~5時50分
地形図
道路地図
駐車場 神社横で道路が広くなっている


春日神社(川北)

2013年06月15日 | 兵庫県

兵庫県篠山市川北


ここは以前に「雑多な写真」で、一、二枚の写真を掲載していたと思うが、今回はちゃんと一つの記事にしようと再訪することにした。
田圃の真ん中にある小さな神社で、神社としては典型的な風景だと思うのだが、私は今まであまりそういった写真を撮っていなかったから撮りなおしたいと思っていた。
とはいえ、そういった風景の良さは出せず、掲載しようか悩んだ。
しかもディスプレイの色補正をいじったりしていたら、どの程度の色合いが一般的であるのか、正しい色とは何なのかワケが判らなくなってしまい、どうも微妙に以前と違う色合いで落ち着いてしまった。
そのせいで、写真の選定をするにも「果たしてこの色合いの写真でいいのか」という疑問を抱きつつ、納得のいかないままだったりする。
明らかにおかしいようでしたらお教えください。

夜中に家を出て、南丹市のとある場所に立ち寄って蛍を見る。
ここへは毎年訪れるのだが、今年は例年以上に蛍が多い。
雨量が多い年は羽化前に流されたりするものもいるのか、少雨の年の方が発生数は多いようである。
そこから30分ほどで春日神社前へ。



日の出前、鎮守の杜は真っ暗だ。
東向きの神社だったら鳥居もはっきり写って良かったのだけど、まあ空の色が綺麗だから良しとしよう。



これもまだ日の出前だが、少しの時間で空の明るさが増し、空の青さは飛んでしまった。
ここは午後に来た方がいいかも知れない。



鎮守の杜は東西に長いので、鳥居のある西側から見るとやや貧弱だが、鳥居の先を見ればトンネルのように奥行きがあって心惹かれる。



杜の横には水田が広がって、何となく心が豊かになる風景だ。






参道はまだかなり暗く、写真は実際よりかなり明るく撮っている。
周囲が伸びやかな風景だけに、ちょっと異空間に入るような感覚になる。



鳥居を振り返る。



すっきりとした印象の本殿。



左奥が鳥居方向。
参道から直角の位置に本殿がある。



すっきりした印象であるが、装飾もしっかり施されていて端正なものだ。



杜の外が何となく賑やかな気配になる。



太陽が顔を出したようだ。
鳥居は太陽とは逆方向にあるのに、杜の中が暗いので眩いばかりに輝いて見える。



本殿付近も直射光が入りだした。



本殿背後にある境内社も、朝の金色の光に包まれていた。


蛍の光の美しさは写真では出せないと思って、今まで撮らずにいたけれど、ついでにちょっと撮ってみた。
画質があまりに悪いので小さめの写真で載せておきます。







 
撮影日時 20130614 4時20分~5時10分
地形図
道路地図
駐車場 神社の東側の道路に二箇所、広くなっているところがある 


富家稲荷神社

2013年06月07日 | 京都府

京都府亀岡市宮前町宮川


前回掲載した宮川神社に行ったときになど、車からこの富家稲荷神社を垣間見ることが何度かあったのだが、車を停められそうにも無かったのでいつも素通りしていた。
地図やネットの情報から小さな神社であることは判っていたし、さして気に留めていなかったのだけど、意外と鬱蒼とした気配を湛えているので、通り過ぎるときは後ろ髪を引かれる思いがする場所だった。
この辺りの道は大体憶えているから、普段あまり地図を見ることが無い。
ところが、改めて地図を見てみると宮川神社から思っていた以上に近いので、それなら宮川神社に行ったついでに、そこから徒歩で富家稲荷神社まで行ってみようという気になった。

宮川神社に参拝した後、車とは違うルートで稲荷神社に向かう。
途中、民家の飼い犬に吠えられたりしながら7分ほどで神社前に辿り着く。
こんなに近いのなら、もっと早くに来ておけばよかった。
それというのも───



鳥居が真新しくなっていた・・・。
ネットで見た画像では、木製で朱塗りの朽ちかけた鳥居で、それが味わい深く思えたのだが・・・。



鬱蒼とした、という印象ほど木々が深いわけではないようだ。
所在地の地形の関係で、日当たりが悪いせいもあってそんな印象を受けたのだろう。
ただ、明治の創建という比較的新しい神社でありながら、豊かな緑に包まれた気持ちの良い空間が出迎えてくれる。



手水舎の向こうに古い鳥居が・・・。



拝殿越しに本殿。
拝殿と本殿が水平じゃないので、本殿に合わせて写真を撮ると拝殿が傾いてしまう・・・。



思っていた以上に立派な社殿に、思っていた以上に居心地のいい境内。






日当たりが悪いと書いたけれど、木漏れ日が降り注ぎ、風も渡って陰気な印象は無い。



彫刻にも惹かれる。












社殿の壁には、木々が影絵を描いていた。



本殿右手には、稲荷神社らしく朱の鳥居が連続している。






日が翳ると、新緑の中で朱の鳥居は妖しいほどに引き立つ。






光に緑が輝いていても、また違った美しさがある。

鳥居をくぐって上っていけば境内社があるものと思っていたが、それらしいものが見当たらない。
ただ、埋まりかけた大きな穴のようなものがあった。



拝殿方向を振り返る。



本殿左手にも朱の鳥居が見えるのでそちらにも行ってみる。
道はジグザグに斜面を上っていき、こちらもすぐに行き止まりで境内社は見当たらない。
小さな石柱と、そしてこちらにも斜面に穴が開いていて、やや奥行きのあるものだった。
狐穴、というものだろうか。


撮影日時 20130517 7時20分~8時20分
地形図
道路地図
駐車場 なし