大阪府三島郡島本町広瀬
9月に、ここと同じ島本町にある椎尾神社を掲載したが、その際、もう一社立ち寄るつもりで取り止めたことを書いた。
ここがそのもう一社で、あの後すぐにでも行くつもりであったのに、何となく後回しになってしまい、今頃になってやっと訪ねることになった。
この神社は、例によって地形図を見ていて気になった場所で、そこに記されているかなりの長さの参道が興味を引いた。
とはいえ、大阪の近郊で、付近には団地も建ち並んでいる。
あまり期待せずにネットで検索すると、思いのほか緑深い写真が出てきて、いずれ行かねばと思わされたのだが、一度きっかけを逃すと、何故か次の機会はなかなかやってこない。
行こうと思えばいつでも行ける近場だけに、気合も入らず、いつしか12月も後半に入っていた。
雨上がりの朝というのは絶好の撮影日和だ。
ちょうど休日だったので若山神社に行こうと思い立つ。
急いで準備を済ませ、まだ薄暗いうちに家を出る。
島本駅に降り立ったのが7時半頃。
山の方を見ると、水蒸気が立ち上って、雨上がりの朝ならではの風景になっている。
一人、駅に向かう通勤の人達とは逆方向に歩く。
右手に団地を見ながら緩い坂道を上る。
途中に若山神社の看板が幾つかあり、地図からも想像出来る通り、それなりに大きな神社なのだな、と思う。
宅地から離れ、ややキツイ上り坂のカーブを過ぎると若山神社が見えてくる。
予想通りに雨上がりの風情を湛えた風景と、予想以上の雰囲気を湛えた参道に気分が高揚する。
ちょっと目障りなものも入ってしまうが、右に左にと移動して写真を撮る。
参道右には、本殿そばへと続くコンクリートで舗装された車道があるが、さして風景を損なうものではない。
天気や、車道が作られてから歳月を経ているからでもあるが、シイの大木や竹林の存在が大きい。
ここの社叢はツブラジイの大木が多く、大阪府の天然記念物になっている。
参道を振り返る。
雨上がりに来て良かったと思える。
ただ、ここはどんな天気でも素敵な風景になりそうである。
鳥居へ近付けば、その気配は深山であるかのようだ。
これも天気の効用によるところが大きいかも知れないけれど、本当にここが、京阪間の駅から僅か1.5キロの場所なのだろうかと疑いたくなる。
何より、樹相が見事だ。
これだけの杜を形成する神社は、山間部でもそうは無い。
実のところ、ほんの少しでも紅葉が残っていれば、なんて淡い期待をしていた。
でも、そんなことはどうでもよくなってきた。
鳥居の奥も、木々は深く、豊かな表情を見せる。
深い参道も終わりに近付く。
小さなモミジの木が、何とか色を保っていた。
常緑樹が優勢な杜の中で、それは充分に目を楽しませてくれた。
参道を上りきれば、これまでとは打って変わって平坦な開けた空間に出る。
鬱蒼とした空間が好きではあるが、ズラリと並ぶ摂末社が壮観でもある。
この辺りから、地元の方が次々と参拝に来られる。
やはり深山とは違うし、東側は展望が開けて、街並みの広がりが望める。
ここからは木津川、宇治川、桂川の三川合流地点が見えるらしいが、霧に隠されてしまっている。
これまでの風景からすると、やや平凡な拝殿に辿り着く。
それでも、地元の人が憩う陽の当たる心地よい場所だ。
顔見知りの方々の挨拶が行き交って、ちょっと居心地が悪いが、私にも声をかけて下さる方がいて、そそくさと立ち去る気分にならないのがいい。
紅葉の時期には少し遅かったこと、桜の木が多いから、春には美しいことを聞いて、また来ようと思わせてもらった。
本殿は横から少し見えるだけなので写真は撮らずに、更に奥へと続く道を進んでみる。
これは麓へと続く車道の筈だが、何やら期待めいたものがある。
その車道から左に分れる小道があって、そこにお稲荷さんの世界が広がっていた。
妖しくも美しい空間だ。
霧が流れてきて、またどこか深い山中にいるかのように錯覚させる。
こちらの小道に入ってくる人は殆どいないようで、本殿付近のような賑わいもなく静かだ。
何かがひっそりと息づいているような、そんな場所だ。
小道はまだ奥へと続いているようなので進んでみる。
左手には何か文字の刻まれた岩が次々と現れる。
山腹をトラバースしていた小道は、やがて小さな谷間に出る。
ここも山奥のような雰囲気だが、よく見れば砂防ダムがあって、ちょっと興醒めする。
右上に見えている壁が砂防ダムだ。
ここで終点かと思ったら、くの字に折れて斜面を上っていく道が続いている。
道は砂防ダムの上に出たところで終わっており、ここが終点のようだ。
足を滑らせると少し危険なところもあり、一般の人はここまで来ることはあまり無いのだろう。
来た道を引き返す。
本殿の方へ戻って、小烏神社という摂社に向かうつもりだったが、麓へと続いている車道がちょっといい雰囲気で惹かれる。
そういえば、本殿付近で地元の方達の会話の中に、「もう二周目やで」というものがあったが、参道を上ってこの車道を下り、また参道を、ということだったのだろう。
参拝は、散歩や健康のためのウォーキングを兼ねているらしい。
それはともかく、この車道、捨て難い味わいがあって、参道を往復するよりも、ぐるっと一周する方が楽しめる。
雨と秋の余韻が路面にある。
左の斜面の向こうは平野が広がっているから、竹林がそちらからの強風などを防いで、右にあるカシやシイの杜を守っているのかも知れない。
四季と天気と時間。
私も地元の人間ならば、その時時に見せてくれる表情を見に、何度も訪れ、何周もするだろう。
静かに心が浮き立つ。
センスがあるなら、なにか歌でも詠みたい気分だ。
参道と合流するところで振り返る。
右上には、先ほど見た鳥居がある。
もう一度、鳥居の正面に立ち、改めて杜の深さに見入る。
電柱や電線が目障りではあるが。
小烏神社に向かうため、再び参道を進む。
この鳥居をくぐって少し進んだ辺りで、左に小烏神社への参道が岐れる。
また霧が流れてきて、電柱さえ無ければ深山の趣になる。
本当にここは大阪で、本当にここは、たった標高150mほどの場所なのかと思う。
木々も、くすんだ朱色の鳥居も美しくて、見入る、というより魅入られる。
若山神社への参道に比べれば、随分と歩く人は少ないようで、時間と空間を独り占め出来る。
拝殿と木々。
鳥居も社殿も、やや傷んでいるけれど、心地いい。
道は更に続いて、若山神社への参道に繋がっている。
そこから、小烏神社の鳥居を見る。
振り返れば、小烏神社の屋根にはブルーシートが掛けられていて、やはりちょっと傷んでいるようだ。
小烏神社の参道は、この場所に合流する。
再び若山神社の本殿前を通る。
8時半頃に地元の人が訪れることが多いようで、10時前の今は静かになっている。
また来ようと思いつつ、次の目的地に向かう。
今年最後の更新です。
見に来られた方に感謝です。
今年は随分と手抜きになってしまいましたが、最後に割といい写真が撮れたので良かったです。
良いお年を。
撮影日時 151224 7時50分~9時40分
地図