平成30年(2018年)9月15日に
75歳で逝去した女優
樹木希林さん。
57年間の役者人生の中で
多くのドラマや歌番組、CMなどに出演し
日本映画界にとって欠かせない存在であり
今でもその作品の多くは
珠玉のような存在感を放っています。
なかでも
このブログ内でも紹介した
『日日是好日』
は昨年度の日本アカデミー賞の
最優秀助演女優賞を受賞し、まさに
覚醒した演技が見事に表現されていました。
▲過去ブログ「日日是好日」
先日
福山市内での仕事が終わり
次の予定まで3時間余りの時間があったので
フラッと「シネマモード」に立ち寄ると
まさにちょうどのタイミングで上映される
作品がありました。
リサーチゼロで見たそれは
希林さんの遺作にして海外デビュー作となった
令和元年8月公開のドイツ映画
『命みじかし恋せよ乙女』
です。ストーリーはオフィシャルHPから。
「酒に溺れ仕事も家族も失ったドイツ人男性のカールの元へ、突然、ユウと名乗る日本人女性が訪ねて来るところから始まる。風変りな彼女と過ごすうちに、人生を見つめ直し始めるカールだったが、その矢先、彼女は忽然と姿を消してしまう。ユウを捜しに訪れた日本で、カールがユウの祖母から知らされたのは、驚きと悲哀と感動に満ちた物語だった―。」
▲予告編(2分)YouTube
オープニングは気味の悪い
日本の「妖怪イラスト」から始まりました。
ドイツと日本の接点が
少々わかりづらい点がありましたが
親と子、家族の確執がテーマになっていて
民族を問わず共通の課題をそれぞれの
文化的側面から表現されていました。
さらにスピリチャルな視点からは
子供のころの負の感情を
抑えつけたまま大人になり
抑えられた負の感情が癒やされないままだと
人生がうまくいかなくなるという
「インナーチャイルド」
へのアプローチの大切さが盛り込まれています。
ちなみに
「命みじかし恋せよ乙女」は
大正3年(1915年)にヒットした
「ゴンドラの歌」という歌謡曲の一節です。
「ゴンドラの歌」は昭和27年(1952年)
黒澤明監督作品『生きる』のなかで
志村喬さんが歌うブランコでの
シーンが印象的です。
そのシーンとあわせ
ダンスホールでの切実な表情が特別に痛々しく
取り囲むギャラリーの表情も
独特な雰囲気を醸す場面。
たしか『生きる』を始めてみたのは25歳の頃。
民放で放映された当時
十二指腸潰瘍を患っていて
胃ガンに苦しむ主人公と境遇が重なっていた
シュールな状況に恐怖を感じたものです。
▲映画『生きる』から(4分36秒)YouTube
いみじくも
希林さんの遺作となったこの作品ですが
表情はとても生き生きしていて
とても死を覚悟した様子は感じられません。
その
お悟りあそばしたご様子に心を打たれ
いつのまにかスクリーンが見えなくなるほど
涙が溢れていました。
志村喬さんの死を覚悟した演技と
実際に死を目の前にした希林さんの演技が
シンクロするこの作品。
監督のドーリス・デリエは希林さんを
以下のように賞賛しました。
「人生の美しさと残酷さを描く本作において、樹木希林の、その女優人生最後となったシーンはまるで彼女が私たちへ遺したメッセージのようでした。」
▲『“樹木希林”を生きる』公式サイト
ところで
映画『“樹木希林”を生きる』は
希林さんの最後の日々を追ったドキュメンタリー作品。
初めて長期密着取材し
平成30年9月26日に放送された
NHKの同名ドキュメンタリー番組に
未公開映像を加えて再編集され
先月10月4日に劇場公開されました。
広島地区では11月15日から八丁座において
上映が予定されています。
公開が楽しみです。
▲八丁座情報