駄楽器駄日記(ドラム、パーカッション)

ロッキンローラーの打楽器日記

誤嚥

2020年09月05日 | 小説
9月5日(土) 本日のJOG=45分
今日は小説っぽく。

それは満員の通勤電車の中だった。オレは4人掛けのボックス席に座り、通路には同様の通勤客で埋め尽くされていた。
全員マスク姿で黙りこくっていて、ガタンガタンというレールのつなぎ目の音しかしない。次の駅に近づくと「次は〇〇です。」というアナウンスが聞こえた。
時折、どこからか「ゴホンゴホン」という咳が聞こえ、その周辺の乗客が神経を集中する。
コロナ禍で、『3密を防ごう』というスローガンは未だに消えていないが、通勤電車だけは例外だ。50センチほどの隣りには他人の顔があり口がある。
息がつまりそうな緊張感の中で、何だか喉の渇きを覚えたオレは、カバンからペットボトルのお茶を出して、マスクをずらして一口飲む。
その時、勢いが余ってお茶が喉の気管支に流れてしまった。「ゴホッ、ゴホッ」とむせてしまったオレは、口からお茶をこぼしてしまう。
こぼれたお茶は膝の上のカバンにボタボタと落ちて、飛沫が飛んだか隣の乗客は「おう」と言って身をよじる。ボックス席の3人は驚いた表情でオレを見ているが、隣の人は立ち上がってしまった。むせながらも、カバンからハンカチを取り出してこぼれたお茶を拭こうとするが、片手に持ったペットボトルのフタがころころと床に転がり落ちてしまい、ハンカチすら取れなくてままならない。
咳は一向に止まらない。息継ぎもできず苦しくて「ゲホッ、ゴホッ、ガホッ!!」と大きな声でむせるので、当然周囲の視線はオレに集中する。

車内がざわざわとして、吊り輪を持って立っている乗客が動いたかと思うと、何と、電車が「ギューッ!」という音を立てて急ブレーキをかけた。
立っている客が大きく傾いて、「おう」とざわつき、電車が止まった。
「緊急停止ボタンが押されたため、停止しました」とアナウンスが入り、一瞬静寂が戻る。周囲は停車駅少し手前の住宅地で、あと1分少々で到着するはずだった。
小さく「何だよ」という声が聞こえ、「こんな時に咳をする奴が…」という声も聞こえた。
まさか、と思ったが、そのまさかだった。自粛警察のような乗客が、オレの咳こむ声を聞き、「コロナ禍におけるふとどき者」と判断して停止ボタンを押したのだろう。
だからと言って、停車駅の目の前で緊急停止することはないだろうと思ったが、どうやら悪いのはオレらしいのだ。オレがむせたせいで電車は急停車して満員の乗客数千人が大迷惑しているということなのだ。
止まってから数分、ざわつく中、乗客をかき分けて車掌がやってきた。
やっと苦しかった咳が治まりかけたオレのところに来て、厳しい顔で「次の駅で降りてください。警察と救急車が待っています。」と言った。
このまま職場には行けそうになくなった。


実はこれ、つい2~3日前に見た夢。
加山雄三さんが誤嚥で入院したという報道を聞き、こんな悪夢を見たのだと思う。



加山さんは80歳を超えても益々お元気で、自宅でトレーニングをして、水分補給していたところ気管支に入ったという。ご本人は「水が美味くてがぶ飲みした。」と話している。
さらに、激しくむせてその衝撃で小脳出血まで起こしたというが、軽症とのことだ。無事であって欲しい。

年をとると誤嚥はごく身近な恐怖。高齢になるにつれて、喉の筋肉が衰えるのが誤嚥の原因だ。
オレは電車通勤は卒業したが、実は通勤していた時に、帰りの電車でつばを飲み込んだだけで誤嚥となったことがある。
つばなんてほんの少量の水分だが、それでも気管支に入るとむせてしまうことを学んだ。

気を付けなはれや!
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禁じ手

2017年05月05日 | 小説
本屋に行って、ブラブラと新刊書なんかを眺めているだけで幸せを感じます。
ですが、自分でも呆れることがあります。ビートルズ関連の書籍並びにビートルズ曲を題名にしている小説などを見ると、ついつい買ってしまう。
正直言って、これってずるいと思う。。。(笑)
オレじゃなくってもビートルズファンであって本が好きな人間なんていくらでもいるわけなので、同じようについ釣られて手に取ってしまう人間を明らかに狙っているんじゃないか?と訝るわけであります。
この写真の2冊も、著者も内容も何も知らずに店頭で題に惹かれて買ってしまったもの。
読んでみて、まあまあ面白かったのでいまさら文句はないけどね(笑)
「ゴールデンスランバー」(伊坂幸太郎著)は、小説の中にもちょくちょく歌詞が出てきて、話の筋になんとなく絡ませていたりしています。著者も相当ビートルズファンなんだろうなと想像できます。
「ヒア・カムズ・ザ・サン」(小路幸也著)に至っては、東京バンドワゴンというシリーズもので、「シー・ラブズ・ユー」「オール・マイ・ラビング」「オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ」「レディ・マドンナ」「フロム・ミー・トゥ・ユー」「オール・ユー・ニード・イズ・ラブ」など、これでもかとビートルズの曲名アルバム名のオンパレードであります。
まあ、ビートルズ愛は作家のみなさんの自由ですが、本屋に行くたびにこれらの題名の小説を買わなきゃいけないオレたちはどうすりゃいいさと、文句の一つでも言いたくなる訳でございます。
「なもん買わにゃいいだけの話!」と突き放さんといてちょうだいませ。。。

これ以外にも、大御所村上春樹さんにも「ノルウェイの森」があります。その昔、この本を手にした時も、「あんたがこんなアコギな真似をしなくとも売れまくっとるんやないの?」などと思いつつ買ってしまったわけです。
まあ、ノルウェイの森はジョン・レノンがアコースティックギターで歌う曲なんで、アコギってことか?なんて思ってみたり。。。

イマイチだったかぁ。。。
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独裁者様

2016年01月07日 | 小説
「お坊ちゃま!実験は成功でございます。各国大騒ぎをしてございます」
「そうか、そりゃいい。いい酒が飲める。おい、シャンパンを用意しろ!ドンペリだ」
「うう~っ、お坊ちゃま。ドンペリはしばし在庫が切れております。ある酒はマッコリぐらいでして」
「何だとお、そんな安い酒飲めるか!すぐ手に入れろ!」
「いえいえお坊ちゃま、このところ我が国はお坊ちゃまが憧れる不良国が制裁を仕掛けており、贅沢品が手に入らないのでございます」
「うるさい、そんなことよく知っておる。裏ルートで手に入れろと言っておるんだ。そんなこともできないんならお前、死刑だ!」
「そんなご無体な~。今どき『死刑!』などと言うのはお坊ちゃまの好きな日本のマンガ『こまわり君』ぐらいでございます」
「やかましい!どことなくオレに似ているというんだな!やっぱりお前は死刑!」
「ひえ~!!!」

「ご主人さま。報告でございます」
「なんだ。オレは喜び組とコミュニケーションの真っ最中だ、忙しいんだ」
「お楽しみ中、申し訳ありません」
「いいところだったのに。で何だ?」
「各国が非難声明を挙げております」
「ふん。●●爆弾実験成功が羨ましんだろ」
「いえ、実は・・・」
「なんだ?」
「あれは●●爆弾ではなく、普通の爆弾でございます」
「何だと!」
「実験をやろうにも、材料がないのであります」
「買えばいいじゃないか」
「いいえご主人さま、買うお金が我が国には・・。しかも実験する電気もなく国じゅう真っ暗でありまして・・・」
「え?嘘をつくな!オレの屋敷は豪華絢爛だぞ!お前も死刑だ!」
「ひえ~!!」

「独裁者様!散髪の時間でございます」
「そうか、苦しゅうない。かっちょよく頼むぞ」
「はは~っ。世界でも唯一無比の髪型でございます」
「だれも真似できないオレだけの髪型だからな。ふふふ」
「カッコいいんでございますよ。刈り上げぐあいと、お顔の福々しいコントラストが・・・」
「世界で流行るって言ってたな?」
「も、もちろんでございます・・・」
「ずいぶん前に言ってたぞ。ブームが来るって」
「は、はい。間違いないでございますよ」
「それはいつだ?」
「も、もしかすると、既に変なふうには話題にはなっているかもですが。ネットでは」
「おい、ネットなんか我が国はつながらないぞ。ひょっとすると、お前オレの髪型笑ってるんじゃないのか?」
「いえ、滅相もない。。ぷぷっ。。。」
「おまえ、今笑っただろ!死刑だ!!」
「ひえ~!!」
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小走りに春が通り過ぎる

2014年04月18日 | 小説
彼女はいきなりやってきた。
あまりの唐突さに、オレは息をのんだ。

いつもの通勤時、あの道である。

さほど混み合うことのないけっこう広い歩道。
地下街から地上に上がり、人混みから解放されると同時に春の爽やかな風に、大きく呼吸をして足を少しだけ速める。
歩道には、その脇に立つ桜の木から散った白っぽい花びらがまだ貼りついて、満開だった頃の名残を感じさせている。
前方から、時折見かけたことのある自転車が風を切って通りすぎていく。
自分の前には少なくとも10メートルくらいは歩く人がいなかった。
オレはいつものようにイヤホンでウォークマンからビートルズの名曲を聴きながら歩いていた。

曲が、「アイ・アム・ザ・ウォルラス」から「ハロー・グッドバイ」に代わった時だった。
オレの真横にスッと人影が見えたかと思うと、小走りにオレを追い越した。
しかし、追い越してわずか1メートル先でオレの歩く目の前に進路をずらし、いきなりスピードを落として歩きだす。
クルマで言うなら、「かぶせる」という走行である。

そう、「小走りの女」である。

これで歩く速度がオレよりかなり早ければ見過ごしてしまうのだが、目の前で急に速度を落とすからぶつかりそうになって、「何だ?」となるのだ。
危ないし邪魔である。
彼女の普通の歩きよりもオレの歩幅の方が大きいからである。

歩道は、自転車の通行帯や植え込みを含めると5メートルを越える広さがあり、オレは商店の看板や自販機に当たらない程度に、歩道の右端を歩いていた。
歩道の真ん中で追い抜かれても、これまた見過ごすだろう。
にもかかわらず、後ろからオレという標的を見つけて追い付き、わざわざ進路を変更してオレの目の前で歩みを緩める。

毎回のことながら、見事というほかない。
久し振りにやられた。
驚きとともに、心の中で軽く小躍りする気持ちを見つけた。


ところが、今回はオレも気付くのは早かった。
何度もその手は食わないのだ。
彼女が右に進路を変更して歩みを緩めた瞬間、逆にオレは左側に足を大きく広げて歩みを速めた。
1メートルの距離はわずか3歩で縮まって、オレは左側から彼女を追い抜いた。

しかしそのままだと、30秒後に彼女はまた小走りにオレを追い抜きに来るだろう。
そして、この追い抜きチキンレースが続くのである。

今回、久々に小走りの女に遭遇して、軽く心が躍ったのには理由がある。
オレは、彼女の後ろ姿しか見たことがなかった。
追い抜かれて初めて気付くので、黒髪の後ろ姿しか見られないのだ。
今日こそは、と、オレに好奇心という厄介者が顔を出してしまう。

「今度追い抜きにかかった時に顔を見てやろう」

しかし、30秒ほど経っても彼女がやって来ない。
なかなか走り出さないのである。
どうしたのだろう。
疲れたのか。
オレが気負って追いつけないほど足が速すぎたのか。
それとも、オレの歩きがわざとらしくて魂胆を見抜かれてしまったのか。
このままでは、オレがいつもコーヒーやお茶を買うコンビニに到着してしまう。
そうしたら、ここでこのレースは終了するのだ。

「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」に曲が変わった頃、とうとうコンビニの入り口に近づき、オレは思い切って振り返り、彼女の姿を探した。
そしてオレは驚きのあまり声を上げる。

彼女はオレの真後ろにいて、オレをとおり越して行った。

そして、彼女にはなんと、顔がなかった。
小走りに、春は通り過ぎていってしまったのだ。
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小説もどきは続く

2011年05月17日 | 小説
「タバコと酒とどっちが悪か」の巻

実太はこれといった趣味がない。
酒を飲まないので飲み屋には行かない。
運動神経が鈍いのでゴルフは下手で、スポーツはやらない。
根気がないので釣りや、ギャンブルも苦手だ。
ただし、性欲は人並み以上に強いと思っている。
音楽は好きだが演奏はできないし、音痴なのでカラオケも嫌いだ。
しかし、昔聞いたことのある「ダウンタウンブギウギバンド」の「スモーキンブギ」は好きだ。
「目覚めの一服、食後の一服、授業をさぼって喫茶店で一服、風呂入って一服、クソして一服、そいでまたベッドで一服、朝から晩までスモーキンブギ・・・」
シビレルような一瞬の羅列である。
どれもこれも、ニコチンが頭の先からチンの先っぽまで沁み渡る瞬間だ。
これがやめられない理由だなと分かっている。
たぶん、あのころはセブンスターがひと箱100円前後という時代だったのだろう。
そして、世間もタバコに寛容な時代だったはずだ。
今は逆風が強い。

思えば、いくら30年以上経ったとはいえ4倍以上に値上がった物は、タバコのほかにあるのだろうか。
しかもその値上げの内訳は、ほとんど税金だ。
そして、喫煙を「悪」と決めつけて、懲罰的意味合いの値上げにしか見えない。
「ゆるせん。」
実太は思う。
税金を上げるのなら、同じ嗜好品である酒にももっと加算しなきゃ不公平だ。
タバコの害ばかりが語られるが、酒の害のについてなぜもっとスポットを当てないのか。

酒飲みは喧しいし、臭いし、下品でみっともない。
酒を飲まない人に「飲め飲め」と強要する。
これが許せん。
いくらタバコを吸っても人に「吸え吸え」と強要することはない。
飲酒運転による事故で他人を傷つけるなど最悪だが、タバコを吸っても他人を傷つけはしない。
タバコが自分の体に悪影響を及ぼすなら、それは自己責任の範疇だ。
酒に酔うと、くどくどと何度も同じことを言い出すが、タバコをたくさん吸っても同じことは言わない。
酒に酔うと財布や定期を落としたりケータイを失くすが、タバコを吸っても失くしたりはしない。
酒に酔うと立ち小便をするが、タバコを吸っても小便はトイレでする。
酒に酔うとスケベになって浮気をするが、タバコを吸ってもスケベにはならない。
酒に酔うとナニがナニしてナンだが、タバコを吸ってもナニはナニのままだ。
等々、考えれば考えるほどタバコの勝ちである。

仕事上の付き合いで、酒宴に顔を出さなきゃならないことがある。
憂鬱な時間だ。
宴会では時間が長い。
食事なら、早食いの実太は5分から10分で終わる。
なんで二時間も飲んでいられるのだ。
だいたい、飯が食いたいのに、宴会の最後まで飯が出てこない。
刺身にはご飯だ。
天ぷらにはご飯である。
肉にはご飯なのだ。
二時間も経ってやっとご飯とみそ汁が出てくるが、おかずはもうないじゃないか。
酒に酔った人のくどい話を何度も聞いてうなずかなければならず、それだけで疲れる。
さらに、終わって〆た後に、「もう一軒行くぞ」とか言い出す始末。
今さら違う店に行って何を食うのだ。
酒の値段は高い。
飲まないのに割り勘されたらたまらない。
ウーロン茶だけで何千円も払えるか。
思い出すだけで、実太は怒れるのであった。
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小説もどき

2011年05月11日 | 小説
小説ふうの駄文を書いてみました。。。

「新幹線」の巻

その時、営業系のサラリーマン玉岡実太(たまおかじった)は新幹線ホームで舌打ちした。
「ええっ、禁煙って?チッ!」
せっかく「ひかり」3号車の乗降口前に並んでいたのに、今まで喫煙車両のはずが、今年の3月に禁煙車両に変わっていたことを知らなかったのである。
実太は愛煙家で、たまの出張に新幹線でのんびりとタバコを吸うことが楽しみの一つでもであった。
今まで、出張の際にはわざわざ「ひかり」の自由席を選んで乗っていた。
なぜなら、ひかりは16号の車両うち、1~5号車だけが自由席で、そのうち3号車が喫煙車両だった。
そのため、自由席の乗客が混雑する時間では、他の車両が満席になっていても、タバコを吸わない乗客が敬遠して、3号車だけは少数の愛煙家の客だけでゆったりと座れるのだった。
その空いた車両で、吸わない乗客を尻目にのんびりとタバコの煙をくゆらすという、喫煙者だけに与えられる特権感覚がなんとも心地よいのだった。
わざわざ指定席を購入しなくても好きな席に座ってタバコが吸えるので、経費は浮くし、優越感は満たされるし、一挙両得な気分がたまらない。
「タバコも吸えない貧乏症な貧民たちと違うぞ」「俺様はお前らよりリッチだ」というような優越感を満喫できることが唯一の快感なのである。
他に優越感を持てるようなものはほとんど持ちえない実太であった。
実際、タバコが値上がりするたびに挑戦する禁煙に失敗して、結局未だに禁煙ができなかった自分への自己嫌悪と自己憐憫の表れなのだろうと、実太は自分でも分かっている。
この際、自分はタバコと心中するのだぐらいの意気込みは毛頭ない。
ただ、タバコが止められずに、渋々バカ高いタバコを買い続けているだけなのだ。
そればかりか、震災以降、自分の吸いたい銘柄さえ自由に買うこともできないので、周りにはこれが機会と止めた奴もいる。
「悔しいが、おれにはできない」しかし、この言葉は自分で飲み込むだけである。おれにも男の意地があると、実太は思いたいのである。

実は、このところずっと「やるじゃん新幹線」みたいな気持ちがあった。
ニッポンの世界に誇る大動脈の新幹線が、実際は世界的ムーブメントでもある「嫌煙運動」に反して、愛煙家を優先するという状況はまさにこの世の「奇跡」に値するぐらいだと思っていたのである。
ここ数年、ローカル電車やバスはもちろん、待合室や屋外の駅のホーム、更にはタクシーすらも禁煙車両になり下がり、喫茶店もレストランでもタバコが吸えないこのご時世に、新幹線だけは喫煙者天国だった。
これはきっと、愛煙家の財界の大御所が、「何が何でも新幹線だけは禁煙したら許さんぞ!」と脅しをかけているに違いないとも思ったりもするが、自分もその恩恵をただ甘んじて享受しているだけなのだ。
しかし、その優越感も一気になし崩しである。
「くっそー、俺等のバカ高いタバコの税金の恩恵を受けいるのと違うのか!」と一人うそぶきながら、もはや禁煙車になってしまった3号車に、タバコ嫌いの情けない女子供などと一緒に乗り込むのであった。

やることのなくなった実太は、仕方がないので寝ることにした。
ニコチンを欲しがる体にイライラしつつ。
実太は酒を飲まない。
実太は新幹線で酒を飲む奴らが鬱陶しく思う。
団体が乗り込むと決まって「プシュ~」とやりだし、そのうち酒に酔って声がでかくなる。
近くに座られたらたまらない。
喫煙者の多くは、酒好きでもあったりすることが気に入らない。
喫煙車両でくつろいだ途端、あとから近くに酒好きの仲間連れが陣取ったりすると、実太は気分が悪い。
酒臭いのがたまらなく嫌である。
気持ちが悪くなる。
タバコ臭いのも実はイヤだ。
自分のヤニ臭いのは当然ながら我慢できるが、他人のタバコ臭いのはどうにも嫌いだ。
実太は、煙の立ち上ることのない3号車で、「まあ、こんなんだったら酒も飲むしタバコも吸うようなワガママな奴らは、近くに来ないであろう」と無理やり考えることにして、自分を慰めて落ち着くことにしたのである。

ところが、「こだま」であれば自由席の喫煙車両があることを後に知った実太は、それ以降、こだまの15号車に乗り込むことにしたことは言うまでもない。
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