「山寺 後藤美術館所蔵 『ヨーロッパ絵画名作展』」  大丸ミュージアム・東京

大丸ミュージアム・東京千代田区丸の内1-9-1 大丸東京店10階)
「山寺 後藤美術館所蔵 『ヨーロッパ絵画名作展』」(リンク先にちらし拡大画像あり)
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期待以上の見応えのある名画展でした。山形県の実業家、後藤季次郎氏が収集し、1994年、同県山寺にオープンした後藤美術館所蔵のヨーロッパ絵画、約70点余りを紹介します。大丸ミュージアム・東京で開催中の「ヨーロッパ絵画名作展」へ行ってきました。



18世紀フランスのロココ(ブーシェなど)より新古典主義、そしてバルビゾン派からクールベ、さらにはスペインのムリーリョからイギリス、オランダ風景画などと、実に幅広いジャンルの作品が揃う展覧会です。決して大家ばかりが挙げられているわけではなく、むしろ私にとっては未知の画家が多かったのですが、定評もあるという、コロー3点、デュプレ2点、それにドービニー3点をはじめとしたバルビゾン派絵画は特に充実していました。このセクションだけでも十分に満足し得るラインナップと言えるかもしれません。



ちらし表紙を飾るコローの「サン=ニコラ=レ=ザラスの川辺」(1872)は、あたかも夢の中にて川辺に吹く風と木立の緑の匂いを感じているような、深い幻想性を見る名品です。嵐に見舞われたのか、木の葉が乱舞するかのような森の中を、二人の男女が屈みながら、川の方を見つめています。また淡い緑色より暖色までを塗り分けた、点描の如く流れるようなタッチも、鬱蒼とした森に広がる木立を巧みに示していました。風景に写実をそれほど求めない、この全体を包み込む叙情的な味わいも、またコローの大きな魅力です。

全体を包み込むと言えばもう一つ、神々しいまでの月明かりの元に広がる海辺を捉えたジュール・デュプレの「月明かりの海」(1870)も魅力的にうつります。深いエメラルドグリーンをたたえた海が、何やら不安感すら呼び起こす分厚い雲の下で静かに横たわり、その反面での人や家が、まさに大自然の力強さにのまれるかのようにして朧げに描かれていました。また海景画と言えば、お馴染みクールベの大作「波」(1874)を、さらに月明かりからはアルビニーの「月明かりの湖」(1870)をそれぞれ挙げておきたいと思います。前者では横一線にのびる水平線を境にした空と海とが輝くような色彩によって逞しく描かれ、後者では同じく輝かしい月の光によって示された湖畔の夜が、どこか神話的な風景を思わせる様子で静謐に描かれています。またこれらの他にも、バルビゾン派らしい農村の田園風景を示した、特に羊飼いの主題をとる作品が印象に残りました。その中では、これまた月の登場するエミール・ジャックの「月夜の羊飼い(帰路)」が一推しです。まるで夕日の如く強い光を発する半月が、群れる羊と羊飼いを影絵のように照らし出しています。労働の主題をとりながらも、幻想を思う作品です。

この調子で惹かれた作品を並べていくとキリがありません。その他では、挿絵画家として名高いドレによる、バイロンにたとえればマンフレッドの古城を連想させる「城の夕暮れ」、それに神聖というよりも素朴な哀しみをたたえたムリーリョの「悲しみの聖母」、またはエロティックな半裸が鮮烈なエンネルの「荒地のマグダラのマリア」、さらには見開かれた目に憂いを見るカバネルの「アラブの美女」などが印象に残りました。

 

日曜の夕方以降の観賞となりましたが、階下の喧噪とは無縁の静かな空間で堪能出来ました。他の時間帯は不明ですが、もしかするとそれほど混雑していないのかもしれません。

今月24日まで開催されています。おすすめします。
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