「池田満寿夫 - 知られざる全貌展 - 」 東京オペラシティアートギャラリー

東京オペラシティアートギャラリー新宿区西新宿3-20-2
「池田満寿夫 - 知られざる全貌展 - 」
1/26-3/23



「画家、芥川賞作家、映画監督、TVタレントなど、まさにマルチタレントとして活躍した」(ちらしより引用。)という池田満寿夫(1934-1997)の、主に画家、版画家、彫刻家としての制作を辿る展覧会です。逞しく、時に肉感的な造形が、展示室全体を支配していました。



導入は近作の陶芸です。「クノッソス」(1993)や、古代幻視シリーズと名付けられたオブジェは、焼物というよりも、それこそ重厚感溢れる石の塊のような風情をたたえています。無骨でゴツゴツしたその造形は、例えば古代アニミズムにおける祭祀に使われた一種のシンボルのようです。ちなみにこれらの陶芸は、彼が主に晩年(1983年頃より)に手がけたものですが、今までにあまり一般的でなかった作品でもあります。副題に『知られざる』というのも、決して看板倒れではないようです。

陶芸の次に待ち構えていたのは、若い頃から制作を続けていた一連の油彩画でした。ここではまず、かの松本竣介に影響を受けて描かれたという、その名も「橋のある風景」(1950)が目にとまります。やや窮屈に捉えられた、中央に橋のかかる構図はもちろんのこと、内省的で、深みのある青い色遣いにも竣介の影響が確かに感じられました。またそれとは一変しての「アフリカの太陽」(1956)も興味深い作品です。キャプションによればクレー、もしくはカンディンスキーの影響が見られるとのことでしたが、私にはもっと熱いエネルギーを秘めた、例えば岡本太郎のイメージの方により近く感じられました。そしてこの『影響』というのも、池田の制作を見る上での一つのキーワードかもしれません。これ以降、例えば版画作品ではアメリカのポップアートの影響を、また屏風作品では、宗達のモチーフをとった作品も見ることが出来るわけです。あちこちより剽窃し、またそれを池田流に昇華させています。





制作の中心を占めるのは、『落書きスタイル』とも称されたという一連の版画群です。ベネチア・ヴエンナーレで大賞を受けたという「動物の婚礼」(1962)は、まるで鳥獣戯画を思わせるような動物たちが画面を自由に駆け回り、また「マリリンの革命」(1968)では、米ライフ紙の表紙を飾ったモンローをウォーホル風にコラージュしています。そして圧巻なのは、上でも触れた宗達、つまりは琳派のイメージを見る大作屏風、「宗達讃歌(天)」(1985)です。まるで色紙を貼ったような金銀が4曲1隻の長大な画面を舞い、そこにさながら歌を詠む文字を記したような線がリズミカルに跳ねています。これがリトグラフであるとはにわかに信じられません。

最後には池田の遊び心と「日本回帰」、つまりは仏教へ関心を示す陶、及び書が展示されています。窯の棚板と器をコラージュ風に組み合わせた「壁・神々の器」(1995)や、彼が中学時代より関心の対象であったという地蔵を象った「地蔵」(1944)シリーズなどが印象に残りました。そしてここで一推しなのは、色紙大の粘土板に仏の尊顔を表した「佛画陶板」(1994)です。簡素な線が、深く瞑想する仏の様子を何ら飾ることなく、実に純朴に描き出しています。まさに無我の境地とも言えそうです。

各作品につけられた詳細なキャプション等、私のように池田の制作を知らない者にも良く配慮された展覧会でした。(但し、出品リストは作っていただきたかったです。)また、いつもは何かと若い方の目立つ同ギャラリーにおいて、どちらかというとお年を召された方が多い展覧会だったとも思います。

3月23日までの開催です。なお4月以降は千葉市美術館(4/5-5/18)をはじめ、いわき、広島、南アルプスの各市立美術館へと巡回します。
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