東京国立博物館で「国宝 薬師寺展」がはじまる

奈良・薬師寺の貴重な文化財を紹介する「薬師寺展」が、本日より上野の東京国立博物館で始まりました。昨日、それに先立っての内覧会に参加させていただいたので、展示の様子を簡単にお伝えしたいと思います。



「国宝薬師寺展」で開会式(読売新聞)
「薬師寺展」公式サイト

今回の展示で最も注目すべきなのは、7世紀に天武天皇が発願して以来、おそらくは寺外で初めて二体揃って公開されるという、金堂の「日光・月光菩薩立像」(国宝)です。そして会場においても、この仏像の魅力を効果的に紹介するため、例えば前面にスロープによる壇を設置し、来場者が順路に沿って壇上、および床面の二つの高さで見られるようにするなどのいくつかの工夫が凝らされています。また修復のために光背が除かれているため、通常の正面からだけではなく背後、そして側面と、360度の方向から見ることも可能です。これはもちろん当地薬師寺に出向いても叶いません。公式HPにある「空前絶後」というキャッチフレーズも、あながち誇張されているわけではないようです。

 

会場において、「日光・月光菩薩立像」に関する学芸員の方の簡単なレクチャーがありました。以下、箇条書きにして内容を掲載します。

・通常は光背(江戸時代制作)があるため正面からしか見られないが、今回は360度眺めることが可能である。お寺ではまず出来ない展示。
・床面から120センチメートルの場所に壇を設置し、少し高い場所から仏像を見られるようにした。下から拝むのとはまた異なった像の風格、そしてその大きさを体感できるだろう。
・元々は鍍金であるが、金堂自体が度々災害にあっているため、それはほぼ失われている。また両腕から垂れる天衣の先など、欠けている部分もある。(その他は創建時のまま。)
・両像の高さ、重さ。日光菩薩2.3t(3.17m)、月光菩薩2t(3.15m)。側面より観ると日光菩薩の方が厚みがあり、月光菩薩はやや薄い。
・日光菩薩は腰まわりがやや太く、スカートの部分がその下へ落ちるなど力強さをを感じさせるが、月光菩薩は上体からウエスト部にかけて細く、スカートも靡くかのような表現がとられ、繊細かつ優美である。
・内部は空洞であるが、台座部を外すと創建時の土が残っている。
・ともに優れた造形技術が用いられており、例えば髪の毛の一つの束のうちには細かな髪筋までがしっかりと描かれている。
・背面は光背により通常、見ることが出来ないはずだが、例えばその中央部をくぼませるなど、極めて写実的に作られている。これは、超越者としての姿を限りなく完璧に表したいがためだったからではないか。
・腰を少しひねるような姿をしているのも特徴の一つ。4世紀から6世紀頃のインド・グプタ朝の影響が見られる。(グプタの仏像よりも表現自体は抑制的。日本へは初唐を経由してもたらされた。)
・制作年代は諸説あり、天武朝の創建時なのか、藤原京移転後の持統朝の時代なのかは良く分かっていない。(図録に論文が掲載。)


  

*展示の構成
1.「薬師寺伽藍を行く」:八幡三神立像、日光・月光菩薩立像など。
2.「草創時の薬師寺」:飛鳥、奈良時代の塑像、瓦、金具、壺、青磁。
3.「玄奘三蔵と慈恩大師」:薬師寺にゆかりの深い玄奘と慈恩大師について。玄奘三蔵像、大般若経など。
4.「国宝 吉祥天像」:「吉祥天像」一点。




さてこの展覧会では、上記「日光・月光菩薩立像」の他、8点の国宝、6点の重要文化財など、薬師寺に残る計50点弱の文化財が公開されています。平成館全体を会場に用いているということで、どちらかというと一点一点をじっくりと提示した余裕のある展示、とも言えるかもしれません。(所狭しと文物の並ぶ展示ではありません。)また「八幡三神立像」の展示に組み込まれた社のセットなど、当地の場で見ているかのような、例えて言えばインスタレーション的な趣きも感じられる展覧会です。「日光・月光菩薩立像」をハイライトに、「八幡三神立像」、または日光・月光以外では唯一の仏像となる「聖観音菩薩立像」、さらには奈良時代の貴重な絵画「吉祥天像」が、それぞれ展示の重要なポイントになるのではないでしょうか。特に最後に紹介されている「吉祥天像」の透き通るような彩色は実に見事でした。これは必見です。



*展覧会基本情報
「平城遷都1300年記念 国宝 薬師寺展」
会期:2008年3月25日(火)~6月8日(日)
会場:東京国立博物館・平成館(台東区上野公園13-9
休館日:月曜日(但し4月28日(月)、5月5日(月・祝)は開館、5月7日(水)は休館)
開館時間:9:30~17:00(但し土・日曜日、祝・休日は18時、3月25日(火)~4月6日(日)の開館日と金曜日は20時まで開館。入館は閉館の30分前まで。)
観覧料金:一般1500円、大学生1200円、高校生900円、中学生以下無料




現在、東博では「博物館でお花見を」と題し、桜に因む作品の展示や庭園解放、さらには夜桜ライトアップなどの各種イベントが開催されています。このお花見企画の期間中(4/6まで)の開館時間は、薬師寺展を含め、夜8時までです。



また国宝薬師寺展に合わせ、東五反田の同寺院東京別院では、「もうひとつの薬師寺展」と題した展覧会が開催されています。こちらは重文、「大津皇子像」(鎌倉時代)をはじめ、奈良より鎌倉時代に至るまでの仏像、または国宝の「東塔天井画」(奈良時代)などが公開されているそうです。そちらと合わせての観覧もまた良いのではないでしょうか。

(図録がまた立派でした。)

個々の感想については、また別エントリで書きたいと思います。(写真については許可をいただきました。)

*関連エントリ(後日、改めて観賞してきました。)
「国宝 薬師寺展」 東京国立博物館
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