Dr. 鼻メガネの 「健康で行こう!」

ダンディー爺さんを目指して 日々を生き抜く
ダンジーブログ

つるべ落とし

2007-10-31 | 想い・雑感
ここのところさすがに気温が下がってきたが
まだ寒いという感覚はなく
通勤はカッターシャツ一枚で
ジャケットも着ない
従って体は近づく冬を実感していないので
早い日没に少なからず違和感を感じる

夕方の6時頃には周りは暗い
しかし昔なら9月下旬頃の服装で生活している

短い一人の人生の中で
何となく気候の変動を実感してしまうことに
恐ろしさを感じる

ところで秋の夕暮れをつるべ落としと表現していたが
現在ではそんな表現も死語になっているのだろう
少し前なら当たり前に使っていた表現が
ほとんど使われなくなるという
社会の変化にもある種の恐怖を感じる

スーパーおじいさん

2007-10-31 | 医療・病気・いのち
 「もう、いつどうなってもおかしくない年だよ。」

 先日外来を受診された90代前半の男性は、診察室に入ると開口一番おっしゃった。付き添ってきていた息子も苦笑い。その方は、一人で歩き、こちらの言うことをきちんと理解し、意志もしっかり伝えることが出来るスーパー90代である。それでも人間だれでもいつどうなるかわからないものだし、高齢になるとさらにその危険性が増すのは確か。

 しかし、体の症状を説明してくれる前に、「無茶なことはしてくれるなよ。」という意味の先制パンチをまずは繰り出した感じだ。

 その方の場合、本来なら、直腸切断術といって直腸と肛門を切除してしまい、人工肛門造設という術式を選択する状況であった。しかし、年齢、体力、人工肛門になったときのケアその他の条件と、ご本人の希望を考慮し、局所切除と術後放射線照射を選択することにした。

 手術というのはいろいろな危険と隣り合わせの治療であるから、手術をすることによって得られるであろう利益とリスクとをよくよく考え、術式を含む治療方針を決定する必要がある。当たり前だが、癌を完全にとりきるという意味で成功した手術でも、術後退院もかなわず命を落としたり、術後の生活に大きな苦労を伴うようであれば、治療として成功とは言い難いのである。

うたかた

2007-10-29 | 想い・雑感
うたかたという言葉を耳にすると
方丈記を連想し
どうしても流れに浮かぶ泡を連想する

ビールを注いだりコーヒーをいれたりしたときにできる泡沫も
うたかたと呼んでもさして問題は無いようにもおもうがどうなのだろうか

さて流れに浮かぶうたかたは
何かの拍子に空気が水の膜に包まれた状態になったものである
浴槽で手を湯の中に突っ込めば
容易にいくつものうたかたを製造することができる
しかしそのでき方を正確に制御することは不可能である
たかが手を突っ込むだけだが
手の勢い 手の向き 手が水面に進入する角度
湯の表面の波 温度 湯に浮かぶ雑物の種類や濃度
さらには月や太陽の位置
などなど 私の貧弱な想像力でも泡の出来方に関与する要因は
随分とある

湯に手を突っ込むという原因
泡ができるという結果
そこには単純な因果律があるようだが
様々な縁がその間を取り持っているのである

現代の私たちは
どうもその縁を蔑ろにし
こうすればああなるとまっすぐにつなげて考える傾向が強い様に想う

人間の体にしてもそうである
医学 生理学 生化学 その他
人間の体に関する学問が進むにつれ
人間の誕生 病 老い 死 のいずれにも
何らかの人為的操作を加えうるようになったことを見て
何とかすれば何とかなると単純に考えてしまう傾向があるように想う
生命の存在には人智を越えた要因(縁)があることを失念してしまってるようだ

人間が作り出した様々な機械ですら
必ずしも修理ができないのに
人間がその一部すら作り出し得ない人間自身の体を
想うようにできるはずがないのである

その当たり前の現実に謙虚に向き合い
医療問題を考えていけば
こうすればこうなったであろうという安易な連想で
無理な治療をすることは無くなるであろうし
望まぬ結果に対し
一方的に糾弾したりすることも少なくなるのでは無いだろうか

近年よく問題になる呼吸器をはずすはずさないという議論も
その時その時で関係する人々が
どうしようもない状況というものがあることにきちっと向き合い理解すれば
殺人だどうだとメディアが大騒ぎするようなことではないと思う

あなたのよろしいように

2007-10-26 | 医療・病気・いのち

高齢の女性
胃の入り口辺りに早期癌が見つかった
早期癌と思われるが範囲が広く
リンパ節転移を起こしている可能性は1割から2割
手術方法の選択肢は三つ

通常なら胃全摘が標準治療である

噴門側胃切除は長期的には良いかもしれないが
術後の食事摂取量の回復に時間がかかることが多く
のこされた時間がそれほど長くない高齢の方には勧めにくい

あとは局所切除といって
癌を中心として胃壁を局所的に切除する方法だ
ただし私は局所切除の場合も必ず
最もリンパ節転移を起こしやすい領域のリンパ節隔清は行う

ご本人が選んだのは3番目の局所切除
腹腔鏡下に手術を行い
出血量も微量
体への侵襲とすればかなり軽微なはずだが
ご本人にとったらやはりきつかったようで
「胃を全部とってたら、私は死んでたと思う。」といわれる
実際術後の炎症反応は低侵襲の割には強かった
ご本人の選択が正しかったのかもしれない

長年手術を行ってきて思うのだが
患者さんを一生懸命説得して
ご本人が最初選ばなかった選択肢を選ばせてしまうと
術後すっかり元気がなくなったり
食欲がいつまでも出なかったり
うつ状態になったりということが多いようだ

こちらがよく説明した上での
本人の決定 決心 というのは尊重したほうがよい
最後は as you like である


不安

2007-10-23 | 医療・病気・いのち
手術前に気丈な態度を見せるお年寄りの中には
注意が必要な方がいる
本人が気づいてない場合もあるが
不安を押し隠していることがあるのだ
この段階でよく説明して
なるべく安心してもらい
眠れない方には安定剤を使ったりして
十分睡眠を取ってもらうように心がける

不安な状態のままでいると反動は術後にやってくる
反動の出方は大きく二つ

一つは
頭が混乱してしまって
精神が錯乱し
点滴やドレーンを引き抜いてしまう
というように一過性の興奮状態に陥ってしまうもの

もう一つは
すっかり疲れ果て
またホッと安心したのも重なり
鬱状態になってしまうもの

どちらも問題だが
後者の方が問題が長引くことが多い
鬱からの脱却に時間がかかるのと
ケアが不十分だと
老人性鬱に移行してしまい
術前の元気をすっかり喪ってしまうことがあるからだ

そうなると表情は消え
食事も取らない
という状態になってしまうと
かなり難しい

2007-10-21 | 想い・雑感
診察をすると
体には様々な歴史が刻まれている
皮膚の張りやしわ
皮下脂肪の厚み
けがや手術の痕
筋肉の付き具合
そして入れ墨

社会的に地位のある人も
入院して病衣を纏えば 衣服を脱ぎ捨てれば
ただの人となる

入れ墨のある人は
脱ぐことによりかえってその存在を知らしめることとなる
完成度はそれぞれで
少し字を入れている人
一部に描きかけとなっている人
ある程度輪郭はできているが色が入ってない人
完成している人
その具合でも何となくその人の人生を考えてしまう
最初の印象では意外な人が入れていたりする

少しでも入れれば
一生その痕は残る
消すに消せないものとなる

その意味では手術も同じ
二度と引き返せない傷を付けるのだという認識を常に持ち
謙虚な態度でその都度の手術に当たらなければならない

ちなみに入院してしまうと
地位ある人が必ずしも立派とは限らず
地位とは無縁な人がすばらしかったりと
その人の本質が見えてくる

85cm

2007-10-20 | 想い・雑感
 メタボリックシンドロームの診断基準のうち、腹囲の数値が取りざたされることが多いようです。そして日本人男性の基準として85cmというのは厳しすぎるのではないかと2005年の発表以来言われてきました。それに答える形で日本肥満学会が、基準は見直さないと発表していました。発表風景を見ていると、学会の重鎮と思われるお歴々が5~6人並んでいたようですが、その半数は腹囲が85cm以上ありそうだったのがコミカルでした。

 ところで、ウェストが85cmを越えればメタボちゃんだと思っている人がいるようですが、さらに高脂血症、高血圧、高血糖のうち2つが該当して晴れてメタボちゃんと認められるのです。ウェストが95cmあったってメタボリックシンドロームでない人もいるのです。

 基準はあくまで、健康に問題が出てきそうな人を拾い上げるためのもの。少し基準がきつくたって、それをうまく使っていけばよいのでしょう。

 ちなみにこの症候群、日本語では内臓脂肪症候群と言われているようです。どの程度の内臓脂肪があるかが問題となるわけですから、腹囲が診断基準の一つになるのも頷けます。

 85cmを越えている人は、血液検査の結果や、血圧などに少し注意しておきましょう。そして、少し多めに歩くようにしましょう。(って、自分に言っているようです。)

こころのありよう

2007-10-20 | 想い・雑感
自己の感情がどのように引き起こされるのかを
明確に言葉にできる人は少ないであろう
況や他人のこころの有り様を
細かく類推するというのは無理である

治療方法を相談するとき
医学的にあるいは生物学的に考えると
どの方法が確率的により治癒の可能性が高いかを
述べることはできる場合が多いが
その治療を受ける本人が
どのように考え 感じるかを
確率では量れない
その本人でも気持ちを言葉にはできないかも知れない

インフォームド コンセントで最も大切なことの一つは
本人の気持ちを
共に探り当てることだと思っている
それは本人が言葉にしてくれなくては
できないことである

必ず訪れる

2007-10-20 | 想い・雑感
十年という月日が長いのか短いのか
時というのは過ぎてしまうと
とても短いもの 一瞬で過ぎ去ったもののように感じる
これは個人の経験した過去のすべてが
今という一瞬に具現化しているからなのかもしれない

母を失って十年
悲しみに沈み
様々な後悔が去来し
何とかこころの平衡を持ち直した
しかし二度と帰らぬと頭では理解しつつもどこか納得できない

という経過をたどっている
色々あったといえばそうなのだが
過ぎてしまうと実に早い
親の死を悲しんでいる間に
自分の死というものがどこか実感できる
そんな心持ちになっている

残る桜も散る桜
というのが
実感として迫ってくる

加齢促進

2007-10-19 | 想い・雑感
現在勤務している病院では
外科医が11人(一般・消化器外科8人、呼吸器外科1人、小児外科2人)いる
そのいずれもが煙草を吸わない
これまでいろいろな病院に赴任したが
こんなことは初めてである

さらに他の診療科にまで目を広げても
喫煙者は少なくなってきている

そんなことを感じていたら
実際に社会全体として喫煙率がかなり下がってきているとのことだ
JTの調査では喫煙率26%まで低下している
なかなか喜ばしいことだが
女性の喫煙率は前年より0.3%上昇して26%ととのこと
なぜ増えるのでしょうね

中にはやせたいがために喫煙する人もいるようですが
誠に愚かなこと

うちの呼吸器外科医がよく提示する写真がある
一卵性双生児の30代女性の写真である
一人は喫煙者でもう一人は非喫煙者なのだがかなりのインパクト
肌のつや 張り具合 色合い 全体から受ける印象
全く違うのである
如何に喫煙が老化を促進するかがよく分かる

以前よく夜の街を徘徊していた頃
ぱっと見きれいなお姉さんで
年上かなと思ってもかなり年下ということがよくあった
人生経験の差もあるのだろうが
肌がくすんでいる人はたいていぷかぷかぷかぷか煙草を吹かしていた

アンチアージングが現代のキーワードの一つらしいが
喫煙はまさにアンチ アンチエージング (=エージング)
加齢促進剤と言っても良いだろう

汲めば尽きる

2007-10-16 | 想い・雑感
地下水がわき出る場所がある
水は澄んでおり
そこで巻き上げられるけれど決して水を濁すことのない
やや粗な砂の動きで
水がわき出る場所が分かる

何万年 何億年という時の流れの中では
いずれ消え去る泉かも知れないが
人の感覚では
汲めども尽きぬ泉である

しかし世の中の多くの事象は
汲めば尽きるのである

いくら使っても減らない
というふれこみの円天
いざその渦の中に飲み込まれたら信じてしまうのかも知れないが
どう考えても使えば無くなるだろう

無くならずにいつまでも湧き続けたのは
欲望の泉だったような気がする

真暗

2007-10-13 | 想い・雑感
当直業務をしていて
ふと窓の外に眼を向けると
すでに暗闇が訪れている
驚き時計を見ると
まだ6時30分くらいである

暗くなるのが早くなったなあともう少し外を見ていると
闇の中から周囲の風景がぼんやり浮かび上がってくる
眼が暗さに慣れてきて
真っ暗闇ではないことがわかる

生きていても
お先真っ暗なんて思うことがある
でもじっと眼を凝らし
自身を見つめていると
浮かび上がる風景がある
向かいの山肌に見える隣町の灯火のように
微かな光が見えることがある

安らぎは
希望は
自身の心で創造するものなのかもしれない

決断

2007-10-13 | 想い・雑感
世の中で起こる様々なことを
偶然と考えるか必然と考えるかは
難しい問題である

私は偶然と考える場合が多い
たまたまおきているのである
たまたまというと何か重みがないように感じる向きもあるだろうが
たまたまだから有り難いのだと思う

自分が存在していることが有り難い
ある時間にある場所でたまたまであうことも有り難い
そんな中で会話を交わす人と出会うなどというのは
きわめて有り難いことだろう

様々な要因を追求していけば必然といえるのではないか
と考える人もいるであろうが
地球上に存在するものを原子や電子の大きさまで突き詰めてしまえば
電子の存在する場所が確立でしか表現できないという事実にたどり着く

少なくとも人間の能力で
すべてを必然と考える理論を作り出すのは不可能だろう

となると未来は常に不確実
不確実な未来に対して
私たちは日々何らかの決断をしなければならないから
難しい

喉元過ぎれば

2007-10-11 | 医療・病気・いのち
昨年の2月頃にお酒の飲みすぎから
消化管出血を起こした方が
また同様の出来事で緊急入院されました

飲みすぎで吐くときに
胃と食道の境界に強い圧がかかってしまい
粘膜が裂けて出血してしまっているのです
これをマロリーワイス症候群といいます

この方は胃がんの手術をした後なのですが
随分とお酒が進むようで
何度忠告しても
お酒をやめることが出来ないようです

いくら言っても改善がないし
手術時の所見では進行がんであり再発の可能性も十分ありましたから
これもまた人生と思ってこれまであまりきつくは言いませんでした

しかしもう再発の危険性が低くなって来ましたし
同じコトが2回となると
やはりアルコール中毒の治療をしてもらったほうがよさそうです
今度十分話してみましょう

いい話

2007-10-09 | 医療・病気・いのち
胃癌からの多発性肝転移を認める患者さん
これまで抗癌剤による治療を
薬の組み合わせを変えながら行ってきた
しかしほぼ使い切ってしまった

CTで見る限り
肺も含めて肝臓以外に明らかな転移を認めないので
ご相談の上 
肝臓に直接抗癌剤を送り込む 
肝動注を開始することとした
1クール施行後のCTでは
かなりの腫瘤が壊死に陥っており効果は上々

その結果を本人と奥さんに伝えたところ
「初めて先生からいい話を聞けた。」

え?初めてって言うことは無いだろう
と思うのだが
ここのところあまりいい話ができていなかったことは事実

やれやれ
私としてもいい話ばかりしていたいのですけれどね