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ぽかぽか春庭「2003年のサイコドクター」

2015-03-22 00:00:01 | エッセイ、コラム
20150324
ぽかぽか春庭知恵の輪日記>三色七味日記3月(3)2003年のサイコドクター

 12年前のうさぎ年、2003年3月の三色七味日記の再録を続けています。
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2003/03/08 土 曇り
ジャパニーズアンドロメダシアター>舞踏家大野一雄

 午後、ビデオにとっておいた「大野一雄 生涯舞踏家」を見た。土方巽と並ぶ舞踏のカリスマ大野一雄。

 2年前に舞台で転倒してから、脳梗塞、アルツハイマーを罹患、車いす生活に。痴呆もすすむ。若いときから父と共に踊ってきて、父の生活も舞踏もすべて理解してきた息子慶人は「日ごとに子供に返っていく」と言う。

 子供に戻るにつれ、生まれ故郷への望郷がつのる。「函館に帰りたい」という願いをかなえるため、たぶん最後の故郷行きになるであろろう函館公演が企画される。公演といっても、果たして大野が舞台でおどれるかどうかわからないままの企画だ。

 2003年2月2日に妹の弾く三味線と共演し、アンコールの拍手を受ける姿がハイライト。踊るといっても、車いすに坐り右手をひらひらさせたり、握った手をぱっと開いたりする動きを繰り返すだけなのだが、そこに生涯を舞踏につぎ込んだ存在感が凝縮され、圧倒的。崇高でさえあった。

 バレエ、モダンダンス、コンテンポラリー、ジャズ、ロック、ストリートダンス、民族舞踊、およそ舞踊は何でも好きだった私が、唯一感応しなかったのが舞踏である。市川雅さんの研究会に出入りしていた頃は、招待券をもらっていくつかの舞踏公演を見に行ったが、どうにも舞踏とは相性が悪かった。

 テレビ画面の中で手をひらひらさせている大野一雄は、ほんとうにその手のひらひらが生命そのものだよと表現しているような、すばらしい表現力を示しているのだ。それは96歳という年齢が獲得したものかもしれないし、アルツハイマーによる痴呆症状の進行という病歴が与えた奇蹟なのかもしれない。

 先日「徹子の部屋」でみた、100歳の銀座バー経営者、有馬秀子。頭脳明晰、端然とした美しさを保つマダム。100歳のバーマダムもいいと思ったが、大野の96歳、体は脳梗塞で動かず、頭は痴呆症で働かず、それでも踊る姿、こちらもすごい。

 私はまだ秀子、大野の半分の年齢。あと半世紀はがんばってみようと言う気になる。

本日のねたみ:大野、秀子の若さ


2003/03/09 日 晴れ 
アンドロメダM31接続詞>サイコドクターあばれ旅

 朝からネットサーフィン。駒込近辺に在住または職場があると思える精神科医の『サイコドクターあばれ旅』というサイトを見つけて、一日中読んでいた。

 SF小説の書評と、日常雑記と、精神科領域の事項解説が主なコンテンツ。なぜここへ行ったかというと、「物集高見」を検索したら、Googleの何番目かのところに「女性推理小説家大倉燿子の本名は物集芳子、物集高見の妹」ということを記述した読冊日記というのがあり、トップページは「サイコドクターあばれ旅」だった。

 こういう、なぜ、ここへたどり着いたのかわからないというご縁は大切だよなあと、勝手に縁をつけて、やるべきことをしないでだらだらと読んでいく。読む方はだらだらでも、中味はとても面白かった。けっこう笑えるところがあったし。

 期末試験をなんとか終えた息子は、2時から6時まで4時間ゲームを続けた。昨日の午後、新しいソフトを買いに行ったのだ。勉強は5分で集中力がとぎれるが、ゲームは10時間続けてもいいのだと。
 昨日、娘と息子は「休日恒例、ゲーム屋古本屋めぐり」に出かけた。ゲームソフト屋を何店かめぐり、古本屋で攻略本をさがす。最後に図書館でCDを借りて、ひとめぐりが終わる。
 息子が買ったのは、『信長の野望』『太閤立志伝』。いったいいくつのバージョンがあるのやら。ゲームの中の地方の小さな土豪の兵力まできっちり把握する力があるなら、元素記号くらい覚えたらどうか、と言いたいが、言わない。また、喧嘩になる。

 息子、「歴史の試験が、戦国安土桃山時代限定だったら満点なのに」とのたまう。昔、くらげん、ひつじたちも「入試問題がFFだったら、どこでも入れるのになあ」と言っていたっけ。ゲームがこれだけ社会に浸透しても、未だに「入試問題がドラクエ、FF、ポケモンの三科目」というところはない。そりゃそうだね。
 試験科目が「ゲームトリビア」だけならよかったね、っていったら、息子、「ぼくの学校、ゲームの裏の裏まで知り尽くしているヤツ、ゴロゴロいるから、僕、どうせ最下位」

本日のうらみ:ああ、サイカイ、サイですカイ

2003/03/10 月 晴れ
トキの本棚>『キャラクター小説の書き方』

 大塚英志の『キャラクター小説の書き方』を立ち読みして、帯やあとがきに、この本がこれまでの「小説の書き方」のたぐいと、どれほど違って画期的か、なんてぶちあげてあるので、おおいに期待して買ってしまった。

 種本は『ハリウッド脚本術』である、とうち明けてあるのは正直でよろしいが、最後の方になると「とにかくたくさん先行作品を読め」という結論におちついたので、「いたいけな青少年に780円も出させて、小中学校の国語教師が耳タコで言っている言葉をくりかえして終わりはないよなあ」という気になった。ま、いたいけな青少年はこんなハウツーは買わないからいいか。

 この本の読者層はコバルト文学新人賞でもねらう中学生高校生かと思ったが、実際の購入層は、オタク理解に苦しむオバハンだけかも。ゲームとゲームノベライズしか読まない息子が、何考えて期末試験に5分間も勉強しないでいるのか理解できないと悩むオバハンその他。

 久美沙織の『ドラクエ』ノベライズも全部読んだことがないけれど、久美の文体はパラパラと拾い読みした限りでは、子供に読ませて大丈夫と思える文章だった。しかし、他のゲームノベライズはページをところどころ拾い読みしただけで、あんまりな文体なのでげんなりし、もっと文章力つけてから小説書けよなあという気分だけが残る。

 大塚のハウツーを読んで、ちゃんとノベライズが書ける作家が出ることを期待しよう。

本日のつらみ:「たくさん読め」なら、私でも書ける

2003/03/11 火 晴れ 
ニッポニアニッポン事情>お悔やみ記事

 社会面下欄の死亡記事。年齢や死因、経歴をさっと読む。功成り名を遂げ90才すぎの大往生。40代50代で現役で仕事をしている人の死因は、癌か自殺が多い。子供や配偶者が有名人だと、だれそれの母とか妻とか出る。昨日の朝日夕刊死亡記事、目にとまったのはふたつ。

 一人は56才。民間出身者の校長登用で話題になった、広島県尾道市立高須小学校で、広島銀行東京支店副支店長から転身した校長が、校舎脇非常階段で首つり自殺。去年の4月に校長になって1年。
 民間出身者の学校運営は、今のところ、うまくいった話を聞いたことがない。教育現場を知らず、営利を目的としてそれまでの人生を歩んできた人が校長になったとき。会社の論理をあてはめ、効率主義能率主義で改革を押し進めようとする校長は、たいていつまずく。教員室からの反発を受ける。

 高須小校長は、午前中保護者と花壇整備をしていて、正午から姿が見えず、午後1時10分に学校で首つり自殺。鬱になった人に「ちゃんと死ぬ場所を考えて」なんて言っても無駄なんだろうが、一度は「小学生のために」と小学校校長を引き受けたのだから、これから毎日通学する小学生のことを考えて、せめて自宅で首をつるなりしてほしかった、といったら、死者への冒涜にあたるのだろうか。

 学校の運営を本当に真剣に考え、1年間心を砕いた人であるのだろうと察する。いいかげんにやり過ごせる人なら、死ぬところまで思い詰めないだろうから。でも、やはり、教育の現場に足を踏み入れたのなら、第一番に考えるのは子供のことにしてほしかった。私はこわがりだから、校長が首をつった校舎で4月から勉強するのはいやだ。

 いろいろなことが1年間つもりにつもって首つりまで追い込まれたんだろうが、教育委員会も、PTAも、何の助けにもならなかったのだろう。孤立無援だった校長の心が痛ましい。

 もうひとつの死亡記事。さつま白波という芋焼酎の会社で会長を務め、本坊酒造元会長という肩書きの本坊蔵吉さんが、3月9日、95才老衰による死去。その前日3月8日、妻貴代子さんが88才老衰で死去。これが本当に「老夫婦、共白髪まで添い遂げ、同時に天国へ」だったら、とてもすばらしい人生の最後に思える。

 でも、1日違いという偶然を考えると、ふたつの可能性がある。88才の老妻の死にショックを受けた95才の夫、衝撃のあまり脳や心臓に負担を生じ、翌日死亡。この可能性は高い。
 しかし、また別の可能性もある。95才の夫はすでに脳死状態で、かろうじて機械で心臓を動かしている状態。家族は自然死を望んでいるが、老妻はどうしても夫の死を認めようとせず、心臓の機械をはずしてやることを承知しない。88才の妻が死去してやっと、家族は心おきなく「もう、十分です。自然にまかせてください」と医師に頼むことができた、という場合。
 どちらにしても、老夫婦がいっしょに葬式を出せるのは、うらやましい添い遂げ方であろう。

 息子に「春休み中に虫歯治療に行かないなら、ゲーム禁止」と言ったら、ようやく歯医者に行った。95才まで共白髪で生きるにも、歯がないと、おいしいものも食べられない。

本日の負け惜しみ:歯だけは丈夫な私


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20150322 
 2003年にゲーム三昧の息子、「歴史の試験が、戦国安土桃山時代限定だったら満点なのに」と言った。12年たって、望み通りに、織豊政権に関する博士論文を執筆しようとしている。しようとしているが、執筆せずにゲームをしている。12年たっても、やっていることはたいして変わりはない。

<つづく>
 
コメント (1)
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