医科栄養学・栄養医学ブログ

医学部で医科栄養学を学んだ経験と最新の栄養医学をこのブログに反映したいと、考えています。

微小血管狭心症へのL-カルニチンの作用について 栄養医学ブログ 日本ビタミンC研究会 藤井毅彦

2018-06-08 15:33:12 | 健康・病気

 

冠状動脈内皮細胞やその微小血管内皮細胞は、高血糖やAGE(終末糖化産物),それに悪玉コレステロールなどにより傷つくと、報告されています。そして、L-カルニチンは、心臓血管系疾患やその末梢動脈疾患への効果の可能性が、外国では多く報告されています。もちろん、L-カルニチンの効果は、食生活で変わり、野菜を多く摂取し、肉類の摂取が少ないヒトでは、その効果が見られ、逆に、肉食で野菜を摂取しないヒトは、L-カルニチン代謝後にトリメチルアミン-N-オキシドを多く産生し、心血管疾患のリスクを高めると、報告されています。したがって、L-カルニチンを摂取し、その効果を高めるには、悪玉菌により産生されるトリメチルアミン-N-オキシドを減らすため、腸内環境を善玉菌優位の環境にし、その元となる獣肉を減らし、野菜類の摂取を増やし、たんぱく質は、豆類や適正量の魚介類の摂取が必要と考えられます。

スペイン、バルセロナのHospital ClinicのMaria Giovanna Scioli博士らの研究報告によると、プロピニ―ル-L-カルニチン(L-カルニチンの誘導体)は、傷の治癒を促進し、微小血管内皮細胞機能不全を改善します。内皮組織の機能不全は、皮膚の微小血管内層障害を特徴とし、傷の治癒の遅れと慢性潰瘍の一因となります。内皮の機能不全は、NO産生の減少と酸化ストレス、炎症の増大などの結果として、血管の弛緩と血管収縮の間のインバランスをもたらすことにより、皮膚の微小血管流を悪化させます。これらの結果から、プロピニ―ル-L-カルニチンは、心臓の虚血後の血流の回復を改善さすことが、報告されています。

博士らのラットの皮膚弁を用いた研究では、プロピニ―ル-L-カルニチンは、皮膚弁(フラップ)の生存能力を改善し、傷の治癒と皮膚の血管新生を促進しました。このことは、ミトコンドリアのβ酸化の改善とNox4の減少による酸化ストレスの減少、内皮機能不全の改善により、微小血管内皮細胞機能不全への有望な治療法になる可能性が考えられます。

ところで、Yosinori Masumura博士らの研究報告によると、弁置換手術後の僧帽弁疾患(心臓弁膜症)患者8名から左心室乳頭筋の生検検体を調べ、対照グループには心臓疾患のない7名の検死検体が死後4時間以内に得られました。心臓の遊離カルニチン値は、対照に比べ、慢性心不全患者では著しく低下していました。ところが、長鎖アシルカルニチン値は、対照より慢性心不全患者では著しく高い値でした。また、総カルニチン値は、両者ともよく似ていました。これらの結果から、心筋の機能低下において、脂肪酸代謝が低下します。そこで、L-カルニチンの投与が、心臓弁膜症による慢性心不全患者の治療の試みにおいて、有望な可能性を秘めてると、考えられますが、更なる研究を期待しています。

References

Maria Giovanna Scioli, et al. Propionyl-L-Carnitine enhances wound healing and counteracts microvascular endothelial cell dysfunction. PLOS|one. October16,2015

Yoshinori Masumura, et al. Myocardial free carnitine and fatty acylcarnitine levels in patients with chronic heart failure. Japanese Circulation Journal. Volume54, Number12, 1990 

Craig J. Mcmackin, et al. Effect of combined treatment  with alpha lipoic acid and Acetyl-L-carnitine on vascular function and blood pressure in coronary artery disease patients.J Clin Hypertens. 2007 Apr;9(4):2249-255