Haa - tschi  本家 『週べ』 同様 毎週水曜日 更新

納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

#296 球団批判

2013年11月13日 | 1983 年 



ロッテがゴタついている。村田投手・高橋捕手・有藤内野手とレギュラークラスの選手が球団と対立しているのだ。セ・リーグ移籍を希望する村田投手の場合は単なる我がままであるとして球団は処理出来たが高橋捕手はそう簡単に解決出来なかった。高橋とは11月30日までに契約更改が成立せずロッテは保留選手名簿に入れた。名簿掲載後1回目の交渉でロッテは20%ダウンを提示したが高橋はこれを拒否。2回目は15%ダウンに譲歩したが高橋は再び拒否。そして3回目では20%ダウンに戻り、当然高橋が拒否するとロッテは「それならばクビ」と交渉を打ち切った。この解雇通告に対して高橋は法廷闘争に持ち込む事も示唆している。

野球協約の中に【選手との条件が合わない時は自由に契約解除できる】の条項がある為、高橋に勝ち目は無いという見方が球界内では大勢だが法曹界では民法の下において保留選手名簿に入れるという行為は契約する意思を前提としており、一般社会の通念と照らし合わせると一概に高橋が負けるとは言い切れないとの声もある。法的解釈は専門家に任せるとして世間の意見で多いのが「同じく球団と対立している村田や有藤とは契約更改を前提として回数を制限する事なく交渉を続けているのに高橋だけ交渉を3回で打ち切り、いきなりクビを宣告するというのはおかしいのではないか」というものである。

有藤の場合は村田や高橋とは少し過程が異なる。そもそも有藤は2人と球団との対立の傍観者であった。球団に対して施設やチームの裏方さん達の待遇改善を数年前から主張してきたが有藤個人の要求をする事はなかった。自身の契約更改交渉の為に球団事務所へ出向くと報道陣は当然の如く有藤が契約更改を保留した事よりも村田や高橋の件に関してのコメントを求めてきた。「兆治は馬鹿正直で一本気な性格だから引くに引けなくなったんだと思う。球団の顔を立てて頭の一つでも下げれば解決するのに」と差し障りのない発言に終始していた。しかし報道陣の「球団に対しては?」の質問を受けると度重なる待遇改善要求に何一つ実行しようとしない球団の姿勢に対する積年の不満に火が点いてしまった。

「毎年言っているようにロッテという会社は球団経営に誠意が見られない。西武を見てご覧よ、わずかの間に日本一になったでしょ。これは球団の数年先を見越した努力の結晶なんだ。優秀なチームの選手というのは球団に対しても誇りを感じるもんだよ。今のウチの選手でロッテに誇りを感じている選手がどれくらいいるかね?」…働き易い職場にしてくれ…ロッテ一筋14年間、中心選手としてプレーしてきた男の心底からの悲痛な叫びだったが、この発言がロッテ本社の逆鱗に触れてしまった。

「球団経営に一選手が口出しするな」…舌禍騒動は村田や高橋の件よりも大きくなってしまった。村田や高橋は球団と話し合えばよかったが有藤の場合は球団レベルを越えロッテ本社が相手である。『這っても黒豆』という言葉がある。「四国という気性の荒い土地柄で育った人間は虫が地面を這っていても一旦それを黒豆だと言ったら何が何でも黒豆だと言い通す頑固者」を表す言葉だ。土佐っぽで負けず嫌いな有藤は振り上げた拳を降ろそうにも降ろされず窮地に陥ってしまった。ロッテ本社も選手の批判を見過ごす訳にはいかず両者の対立は年が明けても続いていた。

有藤に対する処分は既に球団の手を離れロッテ本社に委ねられている。しかし処分を決定するには重光オーナーの裁量を必要とするがオーナーは本業の為、韓国に滞在中で当分日本には戻って来ない。有藤は岐阜県の下呂温泉で自主トレを始めたが球団からは音沙汰なし。「もうトレードに出すなら出してくれ。俺は野球がやりたいだけなんだ」と遂に堪忍袋の緒が切れた有藤は開き直った。キャンプは目前だ。練習不足のせいで怪我でもしたら36歳のベテランには命取りとなり即引退の危機に直面しかねない。誰よりもチームを愛しロッテで選手生命を全うさせようと願ってきた有藤が岐路に立たされている。本心はトレードなぞ望んでいない。ロッテ本社首脳にもっとロッテ球団に愛情を注いで欲しいと投げかけただけだ。事態は1ヶ月間の対立の末、1月26日になってようやく決着したがその内容は摩訶不思議なものだった。

「来季の年俸は15%アップの4千6百万円、ただし今回の騒動に対して15%の罰金を科する」 そもそも最初の契約更改交渉で球団が提示した額は「5%ダウンの3千8百万円」だった。それが一転して15%アップ。つまり実質的にペナルティは有名無実で、罰金を差し引いた額は最初の提示額3千8百万円より110万円増えた。松井球団社長は一連の発言を「チームを思っての事」と解釈しアップ額は迷惑料であると明かし➊球場施設の改善➋裏方さんの待遇改善➌フロントの意思統一を約束した。「自分の発言で大騒動を起こしてしまい反省している。球団に迷惑をかけた分、良い成績を残して優勝する事以外自分に出来る事は無いと改めて分かった」と今は黙々と汗を流している。

しかし、今回の有藤騒動でプロ野球界の憲法とも言える野球協約をロッテ球団は理解していない事を露呈してしまった。野球協約では11月30日までに契約更改に至らない選手は保留選手扱いすると定めている。つまり有藤はロッテの支配下選手ではなく、どこにも拘束されない一個人事業主でありフリーの立場でどのような発言をしようともロッテ球団は部外者の有藤に処分を科す事は出来ない筈(名誉棄損で損害賠償訴訟をするなら話は別だが)。出来もしない処分をチラつかせて控えクラスの高橋は切り捨てて正三塁手の有藤は事実上、不問に処したロッテ球団は御都合主義と批判されても致し方ない。
コメント (2)
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