Haa - tschi  本家 『週べ』 同様 毎週水曜日 更新

納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

#229 ザ・プロ野球選手 ②

2012年08月01日 | 1981 年 



福本豊 … 一時は打率が2割5分台まで落ち、66kgしかない体重が60kgにまでなった。どんな時でも明るさを失わなかった男がヤツレきっていた。「俺はフィーリングで打つタイプ。打席での構え方やスイングの形など気にした事なんて無かった。これまでにもスランプはあったけど今度のはいつものとは違っていた。そのうち…と楽観してたけど一向に調子は上がらず焦るばかりでドロ沼にはまり込んでしまった」「打てなくなると藁にもすがるようになり、普段は気にしないフォームをいじって事態はさらに悪化してしまった」と本人が振り返るスランプによる精神的落ち込みはプロ入り最大の危機だった。打撃不振は守備にまで影響して凡ミスを連発して上田監督から名指しの批判を浴びた事もあった。

「お・い・あ・く・ま」不振のドン底で福本が思い出したのはプロ入りしてすぐに中田(現二軍監督)から教わった教訓だった。"おごるな・いばるな・あせるな・くさるな・まような" との教えだった。今の自分にあてはまる事ばかりだと気づいたのだ。職人肌の福本は元来チームの順位には無関心だった。上位にいる事に越した事はないが、まずは自分の成績重視だった。「チームの事が気になったのは自分が打撃不振に陥って暫くしてから。俺が打てなくなってからチーム成績も一緒に落ちていった。いかに自分の不振がチームに迷惑をかけているのかを気づかずにいたのが恥ずかしかった」と振り返る。これを機に福本は変貌する。宿舎ではバットを振り続け、休みを返上して特打ちに出向いた。

きっかけさえ掴めば実力があるだけに結果はすぐに現れ、8月21日からの近鉄3連戦では11打数6安打・7打点と切り込み隊長の実力を如何なく発揮した。生涯目標は1000盗塁。今年中に王の本塁打数に並ぶ868盗塁が目標の福本の足は打撃復活と共にスピードアップしてきた。上田監督は言う「前期は本当に動きが悪かった。名指しで叱った事もあったが、それはチームにおける彼が占めるウェートがいかに大きいかという事の裏返し。現に今は彼が打って走ればベンチはグッと活気づく。不振脱出よりもその事に彼自身が気づいてくれた事の方が大きい」と。

「若い時は自分が精一杯やれば良いと考えていた。でも今はどんな形でも、他の誰が活躍してもいいからもう一度優勝したいと切実に思うようになった」自分の成績ばかりを追ってきた男がチームを考えるようになってきた。今季のパ・リーグは東高西低が顕著で、何とか阪急が上位を狙える位置にいる。「確かに日ハム・ロッテ・西武は強いけどウチもまだまだ諦めていない」この11月で34歳になるベテランが牽引する阪急が混戦の後期に割って入る。






門田博光 … 昭和46年、120打点で打点王のタイトルを獲得して以来10年ぶりにチャンスが訪れた。7月に王を超える月間16本塁打の日本記録を達成し、8月になっても勢いは衰えを見せない。山口県に生まれた門田は幼い頃に奈良県に引越し、五条中学~天理高という野球人生をスタートし、名門・天理高時代には甲子園に四番打者として1度出場した。今の身長172cmは高校時代と同じ。門田は「背が伸びないのなら筋力をつけよう」と我流の筋トレをやるようになった。2つのバケツにセメントを流し込み持ち上げる原始的?な腕力養成法を高校の3年間続けた。

社会人のクラレ時代には合宿の大鏡の前で1年中、毎晩素振りをして鏡の前の板の間に門田の足型が残ったというエピソードがある。1つの事をやり始めると、とことんやり続ける性格は昔から変わらない。昭和54年のアキレス腱断裂という大怪我を克服する為にリハビリをこつこつと地道に続けられたのも彼の不屈の闘魂あればこそだろう。「俺の生きて行く上での信条は "自分に嘘をつかない人生を" だ。負けたと思ったらそこで終わり。大好きな野球を辞めたくないという気持ちに正直に、まだまだ終われんという気持ちを持ち続ける事が大事なんだ」と苦しかった時を思い浮かべながら充実したシーズンを門田は送っている。

本塁打と打点部門でソレイタ(日ハム)とテリー(西武)と争っている。「チームはここ数年低迷していて、そういう環境で緊張感を維持し続ける事は難しい。でも今年は上位に食い込むチャンスがあってチームも俺もモチベーションは近年になく高い」喜怒哀楽を表面に出さず内に秘めるタイプの人間は一度燃え始めると手のつけられない爆発力を発揮する。門田は決して自分から前にシャシャリ出ようとはせず控えめに振舞う。爆弾を抱える門田の両足の為に純子夫人は手製のサポーターを編んでいる。鮮やかな色とりどりのサポーターを家では着用しているが、球場へは地味な色のを選んで行くのも門田らしい。そんな地味な男が二冠を目の前に派手な働きを続ける。


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