寺澤先生の『話すことあり,聞くことあり』を読み終えました。どのエピソードも思わず居住まいを正す思いで読ませていただきました。おそらく若い頃には,ちゃんと理解できなかったかもしれないアドバイスが,今は読んでいてうなづくことや反省させられることばかりでした。読んでいてページの端を折ったりラインマーカーで線を引いたところばかりになってしまいました。
そんな中,特に印象に残ったところの覚え書き。
・寛容になるために
研修医を指導する医師たちの講習会で,「使命感やプロ意識に欠ける今どきの研修医に優しくなれない」という声をよく聞く。そういう指導医に「先生御自身はいつ頃,今のような使命感やプロフェッショナリズムを身に付けたのですか?」と訊くと,彼らは皆考え込んで。答えられない。」
「今の医学生や研修医の態度に我慢がならない」という指導医たちほど,彼らが医学生や新人医師だった頃,同じことを先輩医師に言われていた気がするのは僕だけであろうか。
・患者さんには大きく三つの苦しみがある
「病気が治らないという苦しみ」「自分のことを心配してくれる人がいないという苦しみ」「治療費が払えないかもしれないという苦しみ」
・年の功とは動揺しなくなることではない。動揺を隠すのがうまくなることだ。
・今見えているもの
善悪判断が先になると,見えなくなってしまうものがある。まず受け入れる。あるいは,善悪判断や感情を保留する。これでトラブルはかなり避けられるだろう。
・ERグランパの言葉
どうやって救急を学んできたのか・・・「簡単だよ,患者そのものが教科書だから」
「救急患者を断ったら自分が進歩しなくなる。それだけは覚えておきなさい」
・そう,設備の整った大きな病院でなくても,研鑽はできる。最新鋭でも,最先端でもなくても救急医になることができる。患者さんが教科書だということを忘れさえしなければ。
・ピンチのときに暗い顔をしていると光はなかなか見えてこないが,笑顔でいるとなぜか自然とものごとがうまくいく。
・教育のために診療が滞ることがあってはならないと示すことこそ,教育に値すると考える。
・「自分の7割できたら褒める姿勢をもつ」・・・(中略) それができれば新人教育は必ずうまくいくし,後継者を得ることも難しくない。
・「変化は必要なところには必ず起こる」
これは遠泳だと心得よ。急ぐべからず。そうすれば溺れない。うまくいかない理由を相手のせいにするべからず。そうすればつぶされない。無駄ないさかいや,感情に走って物事を壊すと消耗する。体力を持って泳ぎきるべし。
沢山のことを思い出し,学ばせていただきました。それこそ神棚に飾っておいて毎日柏手を打ちたくなるような本でした。
寺澤先生の「御法度の原本」は実は私も持っていました。同じ研修病院の誰かが,繰り返しコピーされて文字が読みにくくなっていたコピーの一部をさらにコピーさせてもらったものでした。おそらく全国に出回っていたのでしょう。
実は同じようなことが,自分にも経験があります。初期研修から10年勤めた病院を退職するときに,それまでにRenal Conferenceという名前で毎週レジデントに話してきた内容を,退職する3ヶ月くらい前からまとめて手製のマニュアルにして残していったのです。レジデントのためと言いながら,実は自分が一番勉強になった,その集大成のような気持ちで作ったものでした。全部で30−40部くらい印刷した覚えがあります。それを退職するときにレジデントや何人かの同僚だった先生に手渡したのです。
それから何年も経ってから,ある県に講演で呼ばれたときのこと。懇親会の席で,参加者のある若い先生から「先生が作られた腎臓マニュアルのコピーを持ってます」と言われて大変驚きました。どこをどう巡って入手されたのかは聞き忘れたけれど,大変嬉しかった覚えがあります。