H's monologue

動き始めた未来の地図は君の中にある

使命の道に怖れなく どれほどの闇が覆い尽くそうと
信じた道を歩こう

What is a good doctor ?

2021-04-26 | 臨床研修

随分以前に,どこかで書いたような気がするのですが,ちょうど東海大学で新PGY3の先生達にお話ししましたし,新しく内科医を目指す先生達にもシェアしたい内容なので再掲しておきます。

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 今から30ウン年も前のことです。私が選んだ研修病院には,自分が入職する前年までDr. Wagnerという米国人内科医師が専任の教育責任者として在職されていました。現在のように2年間の初期研修が制度化される前の時代でしたが,その先生が研修プログラムを立案されて1年目は内科,外科,小児科,産婦人科の主要4科をローテートして,2年目から自分が専門としたい診療科に進む形になっていました。内科志望の私は,2年目から本格的な内科研修を受けることになりました。残念なことに私の入職と入れ替わりでDr. Wagnerは病院を辞されていて,私は直接の指導を受ける機会はありませんでした。

 さて2年目の研修医として忙しい日々を送っていたある日,そのDr. Wagnerが久しぶりに訪ねてこられたことがありました。たまたま医局に戻った時に,ソファーに座っているその先生がDr. Wagnerだとは知らず(何だか外人さんがいるなあ)と思いながらも英会話に自信はないし,黙って軽く会釈するだけでした。まずいことにその場には,自分以外には誰もいませんでした。(う〜ん,何か話さなきゃ・・)と気まずい沈黙がただよいかけたその時のこと。やおらDr. Wagnerは私につかつかと近づくと,私の胸ぐらをぐいっとつかんで一言。

"What is a good doctor?"

「??」突然のことで,何と答えて良いのかわからず,「え〜っと・・,ちゃんとした知識と技術をもった医師・・」などとしどろもどろに口ごもっていると,W医師は私の頬をいきなり平手でバチンと叩いたのです。びっくりしていると,さらに一言。「痛いか?」と。はいと答えると,おまえも自分の頬を叩けと答えます。何が何やらわからず(初対面の先生だしそんなことをいわれてもなあ)となでるように叩くまねをすると「もっとちゃんと叩け!」と叱られます。しかたがないので先生が叩いたように自分もDr. Wagnerの頬をバチンと叩くと,そこでまた一言。

「オマエも痛い・・自分も痛い。つまり患者の痛みが分かること,empathyをもっていることが医師にとって大切なことである。」そしてさらに続けて,良い医師とは,“emphathy, knowlege, limitation”,この三つの条件を満たしていることであるとおっしゃいます。すなわち患者の痛みを十分理解し,十分な医学的知識をもち,自分の限界を知っていること。この三つを兼ね備えることが良い医師の条件である。もし今ここでおまえが虫垂炎になったら,私はおまえを外科医に依頼するだけだ。しかし仮にジャングルの中で自分とおまえしかおらず,おまえを手術しなければ死んでしまうのであれば自分はおまえの手術をするだろう(何とも荒唐無稽なたとえですが・・・)。その時々での状況を考えて,自分の限界を知って行動することが大切であると。

 先輩のレジデントの先生達から後日聞いたことですが,この"What is a good doctor?" の話は,みんな洗礼をうけたようです。本格的に内科医としての研修を始めてまもなくだったこの出来事は,本当に強烈で今も鮮明に覚えています。そして,その後の研修を過ごすにあたって大きな「モノサシ」になったのは確かです。内科医として歩み始めた頃に,明確な「良い医師」としての目標を,一例として示してもらえたのは30年以上経った今考えても「とても幸せなこと」だったなと感謝しています。

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