面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「ゾンビ処刑人」

2012年03月22日 | 映画
イラクに出征していたバート(デヴィッド・アンダース)は、敵対勢力の奇襲を受けて戦死した。
無言の帰還を遂げた親友の葬儀に参列したジョーイ(クリス・ワイルド)は、悲しみに打ちひしがれて落ち込んでいた。
そんな彼の部屋の戸を、深夜誰かがノックした。
ドアを開くと、なんとそこにはバートが立っているではないか!
あり得ない展開に混乱し、バットで殴りかかるジョーイだったが、それは紛れもなく亡くなったはずの友だった。
棺に納められたバートは、ゾンビとなって自らの墓場から這い出して来たのだ。

ともかく親友の“生還”に喜んだジョーイだったが、何せ彼は死体。
腐りつつある体からは悪臭が漂い、見た目もグロテスク。
人に見せられるものではなく、街中をウロウロさせるわけにもいかないため、とりあえず居候させることにするが、いろいろと問題が発生する。
食事を与えても、真っ黒なゲロを吐いて受け付けない。
どんどん体が腐っていき、徐々に弱っていくバートは、どうやら人間の血液を飲まないと、ゾンビとして生きていくことができないらしい。
背に腹は代えられぬと病院を襲撃し、輸血パックを強奪すると、バートはイッキに飲み干す。
すると瞬く間に元気になり、二人で夜の街へと繰り出した♪

二人がとあるコンビニに立ち寄ると、そこに強盗が押し入ってくる。
バートは襲われて銃で撃たれるが、ゾンビの彼は死ぬことはない。
逆に強盗を撃退して殺してしまうが、そこで二人は“名案”を思いつく。
ここは名うての犯罪都市ロサンゼルス。
街中にはびこる悪人を倒してその血を飲めば、街は平和になり、バートも元気になって一石二鳥だ!

こうして二人は、街の悪党を成敗する“夜回りゾンビ”として活躍を始める。
やがてマスコミにも取り上げられた二人は、ヒーローとなって善良な市民から喝采を浴びるのだが…


「クサっちゃいるが、俺たちヒーロー!」
劇場のポスターにあった新鮮な響きのキャッチーなコピーに魅かれて公開を待っていた。
案に違わぬバカっぷりのB級全開ムービー♪
ところがこの映画、ただのバカ映画ではない…!


日本で言うところの「必殺仕事人」になって世直しを図るというゾンビ像が斬新。
銃を持ったコンビニ強盗と対峙しても“夜回りゾンビ”はひるまない。
そりゃそうだ。
撃たれても死なないのだから(というか、既に死んでいる…)、こんな無敵な話は無い。
次々と悪人を成敗する“夜回りゾンビ”は、マスコミに取り上げられると市民から喝采を浴び、ヒーローに祭り上げられる。

しかしそもそも“夜回りゾンビ”となった動機は、ゾンビとしての自分の命を維持するために人間の血を必要とするからというもの。
成敗した悪人の血を飲むのだから問題ないという考えの行きつく先は、血を得るための殺人の正当化に他ならない。
“夜回りゾンビ”が独善的に悪人と判断した人間を殺すことにつながっていくわけで、この発想の危険性は「デスノート」でも描かれるところの普遍的なテーマ。
根はマジメで正義感の強いバートは、やがてゾンビとなってしまった己の運命に苦悩する。
だがその後、思いもよらない展開が待っていることなど、観客の我々はもちろん、バートもまた知る由もなかった…。


「死者の生きざまを見届けろ!」
ゾンビがヒーローとなる斬新なアイデアだけにとどまらない異色のゾンビ映画。
しかし人間の血を吸って生き長らえ、夜明けとともに死ぬという生態は、「ゾンビ」ではなく「バンパイア」ではないのか…?
という疑問はともかく、ゾンビ映画史に新たな1ページを刻む怪作!


ゾンビ処刑人
2009年/アメリカ  監督:ケリー・プリオー
出演:デヴィッド・アンダース、クリス・ワイルド、ルイーズ・グリフィス、エミリアーノ・トーレス、ジェイシー・キング